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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
暖色と寒色のリゾートワールド
153/404

異能のジョイントフロント

 シーカーや一部の係員達…戦闘要員の目の前、突如地面から赤透明の薄い壁が生えてきた。それは飛ばされてきた黄色い物体を受け止める。


「あぃだだだだだだっ!!」


 同時に後方にいるパルミラが悲鳴をあげた。その両腕は、土の中に突っ込まれている。


「パルミラ大丈夫!?」

「ったぁー! みなさん突撃ですっ!」

『おぉっ!!』


 涙目になりながらも、攻撃が止むと同時に迎撃準備をしていた戦闘要員達に号令を出した。瞬時に壁は無くなり、パルミラの腕も土から引き抜かれている。

 自らの腕を変形させ、前衛の邪魔にならないよう地面を通して壁を作り、黄色い物体から全員を守ったのである。王子の護衛の肩書は伊達ではない。

 ただし、自分の身体である以上、いくら硬くとも痛みなどはダイレクトに感じてしまう為、本人も多用したくない手段ではあるが。

 パルミラの号令ですぐに飛び出したのは半数で、念のための様子見などの理由でパルミラの元に残った者のうちの1人であるミューゼは、周囲に落ちた黄色い物体が気になり、その1つを手に取っていた。


「これ……バルナバの実? 少し大きいけど……間違いない」


 そのまますぐに後方へと走っていった。いくら気になっても、突撃命令が出たのだ。自身は迎撃に集中したい…という事で、気になる物の分析は避難しているピアーニャや専門の係員に任せた方が良いと瞬時に判断。バルナバの実らしき物を届ける為に一時離脱するのだった。

 その間に戦闘要員達は『スラッタル』へと囲むように接近する。全員が戦い慣れているので、飛び道具を持つと分かった相手に向かって真っすぐに向かうような真似はしない。寄せ集めの集団であることも自覚している彼らは、距離を空けて互いの邪魔にならないように気を付けているのである。なにしろ見ただけで様々な人種が混ざっているのだ。どんな攻撃方法を持っているのかなどすぐには分からない。

 その接近の仕方も様々で、走って近付く者、辺りの木を跳び移って近付く鳥のような足を持つ者、足元を光らせながら道を滑走する者などがいる。ヨークスフィルンには多数のリージョンからの観光客や労働者が来ているのだ。

 その中で先陣を切ったのは、身体から出した糸を天井へと伸ばして自身を高くまで引き上げ、大きな布を広げて『スラッタル』に向けて滑空するアイゼレイル人の植物園係員の女性。流石に係員だけあって、園内を迅速に動く事に慣れている様子。

 フリルのついた作業服をはためかせながら、空中から一気に『スラッタル』へと急降下した。


「ミッ!」


 野生の勘なのか、死角に近い場所からの接近に気付いた様子の『スラッタル』。すぐにその場から飛び退き、上からの突撃を回避した。

 木々を倒しながら着地した先には、別の者が既にいた。木々を飛び移っていた鳥足の男である。

 チャンスとばかりに間合いを詰め、『スラッタル』の体に触れる寸前で手をかざし、吠えた。


「【ウェリタ】ッ!!」


 その瞬間、手をかざしていた『スラッタル』の体の部分が、メキッと音を立てて人の頭程の大きさの窪みが出来た。


「ミィィィィッ!?」


『スラッタル』は鳴きながら後退した。そしてさらに警戒心を強めていく。

 すると、尻尾の根元の部分がはじけた……かのように見えた。


「全員警戒しろ!」


 走って接近していた男が叫び、さらに戦闘要員達が広く散開する。相手の様子を多角から見つつ、攻撃対象を分散させる為である。互いのフォローはし難くなるが、相手の方が何倍も大きい以上、物量で押しても力負けは確実。だからこそ能力を知らない全くの他人のフォローは期待せず、狙われた時は可能な限り自身の能力だけで乗り切る事を全員が選んだのである。

 そしてそう決断した理由は『スラッタル』の姿にもあった。


「あれどう思う!?」

「絶対伸ばしてくるだろ! っていうか今伸びたし!」

「だよなぁ……」


『スラッタル』の尻の部分からは多数の蔓の尾が伸びて、蠢いていた。


「あれは……」


 丁度その頃、ピアーニャ達の元から前線に戻ろうとしていたミューゼが、その姿を見て呟いていた。


「キモイ……流石にあーゆーのはヤだなぁ……」


 遠くから見ると、沢山の触手がウネウネしてる変な物体である。敵対しているそんな相手に、誰も好んで近づきたいとは思わない。

 そのまま急いでパルミラの元に戻ったミューゼは、待機している近くのファナリア人とおぼしき係員の者に声をかけた。


「すみません、協力してほしいんですけど、実は──」

「え? ええ、それなら……」

「ちょっと準備もあるんで、一緒に来てもらえます?」

「ミューゼさん、それならわたしも行きます。号令終わったし」


 パルミラも立ち上がり、ミューゼに同行すると言う。それで良いのか言いそうになった者もいたが、係員以外は一切まとまりのない集団な為、終了時や緊急時以外の号令はむしろ状況を悪化させる可能性が高い事にすぐ気付いて言葉を飲みこんだ。

 そしてミューゼ達は、『スラッタル』の近くの木へと駆けていった。


「って、なんか凄い事になってる!」

「うわー、アイゼレイルの人ってああやって戦うんですね……」

「俺はワグナージュ人の戦闘を見るのが初めてですね。凄いなぁ」


 急ぎつつもあまり疲れないペースで走りながら、繰り広げられている戦闘の感想を漏らす面々。多数のリージョンから人が集まれば、当然個人的な交流の無い人種もいる。

 初めて見るその能力に驚いているのもあるが、そういう状況を作っている『スラッタル』にも驚いている。尻から伸びた蔓の尾が鞭のようにしなり、周囲の者に襲い掛かっているのだ。それに対して各々の技を使って弾いたり切断したりしている。

 アイゼレイル人の女性は糸を操って蔓を絡めとり、別の接近してきた蔓を服のフリルを使って切断している。布や糸を操る彼女らにとっては、服は防具ではなく武器となるのだ。フラウリージェのルイルイは戦えないので、同じ事は出来ないが。

 同行している係員の男が注目しているのは、足元を光らせて滑走していたワグナージュというリージョンの男性。地面を滑走し接近、その勢いのまま蔓の猛攻を掻い潜り、『スラッタル』本体に的確な蹴りを繰り出している。

 砂漠のリージョンであるワグナージュは、独自の技術が発達し、砂の上を滑走する事が出来る道具がある。攻撃している男性の足で光っているそれは、ただの移動手段でしかないが、バランスを取っていると自然と足腰が強くなる。その為か、足技に絶対の自信を持つ者が多いのだ。

『スラッタル』の木の体に足をめり込ませている姿を眺めながら、ミューゼ達は少し離れた位置の大きめの木へと到着した。


「ここまで育った木を使うのは気が引けますが、あのまま跳び回られて全部破壊されるよりは良いでしょう」

「少し時間かかると思うんで、防御をお願いします」

「まかせて!」


 パルミラと頷き合い、ミューゼは大きな木へと登っていくのだった。

 そんな様子を遠くから眺めているパフィ…とエルツァーレマイア。パフィはなるほどと納得しているが、エルツァーレマイアはミューゼが何をしようとしているのかなど知る由も無い。しかし、植物を操れるという事は知っている。


(みゅーぜが何か頑張ろうとしてる。手伝ってあげたいけど、私はぴあーにゃちゃんを守らないといけないし……うーむむ……)


 アリエッタとして、ミューゼの事も守りたい。しかしアリエッタとエルツァーレマイアでは能力の使い方がまるで違う為、後でアリエッタが同じ事を要求される場面に遭遇した時、困った事になってしまう。

 今の所、(いろどり)の力は怒りの暴走と認識されているが、実りの力はアリエッタもよく知らないのだ。ミューゼやパフィであろうと見せるわけにはいかない。


(みゅーぜって植物の魔法を使う時って必ず杖を使ってるわよね……あっそういえばあの杖には確か……)


 観光中、パフィの武器(カトラリー)は金属の刃物なので持参していないが、ミューゼは一応杖を持ち歩いている。

 その事に気が付いたエルツァーレマイアは、ミューゼの方に意識を集中し、その行為を誤魔化すように腕の中のピアーニャを強く抱きしめるのだった。


「うぅ……にげないからはなしてくれぇ……」


 そんな懇願もむなしく、小さな体は完全に動けなくなっていった。

 木の上で、何となくアリエッタの熱い視線を感じたような気がしたミューゼ。途端にやる気に満ち溢れ、木の幹の上で杖を立てて魔力を込めていた。


(アリエッタが見てる! 絶対にいいトコ見せないと!)


 爆発的に魔力を高めると、立っている木がさらに大きくなり、バキバキと音を立てて変形し始めた。


「立てえぇ! ゴーレム!」


 土から根が引き抜かれ、絡み合って足の形になる。太い枝に細い枝が巻き付き、腕の形になっていく。葉は変形と共に頭の上から移動し、服の様に体の纏わりついていった。その大きさは『スラッタル』の2倍の大きさになっていた。

 間近でそんな巨大な物が動き出せば、激しく戦っていた者達と『スラッタル』は驚いて動きを止める。頭の上のミューゼと足元のパルミラを見た者は、すぐに状況を判断し離脱。つられて残りの者も離れていった。


「ミュイイイイイイ!!」


 危険を感じた『スラッタル』は、一吠えすると体中から黄色い実…大きなバルナバの実を出現させた。そしてそのままミューゼのゴーレムにタックルを仕掛ける。


「っ! このっ!」


 左腕でタックルをガード、すかさず振り上げた右腕の拳で『スラッタル』を叩き落した。

 木片と実を飛び散らせながら、続いて左足で踏み潰そうとするが、短い4本足を素早く動かし、スライドするかのように移動され、何も無い地面を踏みしめるだけとなった。

 しかし戦っているのはミューゼのゴーレムだけではない。『スラッタル』が移動した先には丁度2人の戦闘要員が立っており、少し驚きつつも攻撃を叩き込んだ。


「うおおおおおらあああああ!!」

「【地爆波(グラウンド・ブロウ)】!!』


 筋肉隆々の男性からの両腕による全力の掌打と、隣にいる女性による地面を爆破する魔法が、バランスを崩しかけていた『スラッタル』を捉えた。

 2方向からの衝撃によって、その巨体はゴーレムの方へと弾かれ、その足元へと転がった。

 突然戻ってきた『スラッタル』に驚いたミューゼだったが、下から聞こえたパルミラの声で我に返り、ゴーレムの両腕を振り上げた。

 その時、離れているエルツァーレマイアの目が大きく開かれた!


(今だっ! みゅーぜ! アリエッタと私の力を受け取って!)

「ぐえっ」


 力んだ拍子に、ピアーニャをちょっと締めていた。

あけましておめでとうございます。

新年早々わりとシリアスな感じになりましたね(約1名以外)


餅も肉もいっぱい食べたし、気合十分です。

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― 新着の感想 ―
[一言] あけましておめでとうございます 新年から大怪獣バトルが繰り広げられてる……
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