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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
暖色と寒色のリゾートワールド
151/403

隠匿のプラント

 ──時は少し遡る。


「おぉ…おおー……」(この世界にはこんな植物があるのね……これなんか美味しいのが実りそう)


 街外れにある大きな植物園へとやってきたミューゼ達。

 アリエッタの体を借りたエルツァーレマイアは目を輝かせて周囲の植物に魅入っていた。


「アリエッタって、こんなにも植物好きだったんだ。むふふ、これは懐かれるチャーンス♪」

「きっと色んな事に興味あるのよ。料理も出来ちゃうのよ」


 中身の違うアリエッタの様子を見て、保護者達もほんわかした気分になっている。


「という事は、石類に興味示したら、わたしみたいに変形出来るようになったりします?」

「いやそれはさすがに……あぁおい、ひっぱるなアリエッタ」

(へぇ、こういう品種もあるのね。種子とか見てみたいなぁ)

「総長、どうせ離れないなら、アリエッタが草とか抜かないように注意してくださいね」

「それはかまわないが、はなれないのはアリエッタだからな?」


 ピアーニャに見張りを頼むミューゼも、園内の植物には興味津々。辺りをキョロキョロと夢中で見て回っている。

 ここは『ロスグランツェ植物園』という名の、海や蒼晶花と同じくヨークスフィルンが誇る巨大植物園。1つの街ほどの大きさはある巨大なドームの中、広めの歩道が整備され、その両脇には木が生え花が咲き、上を見ると壁から壁へと張られた縄に、様々な植物から伸びた蔓が巻き付いている。そしてその植物を住処とする昆虫、共存する昆虫などが跳び回っていた。


「これだけ虫がいるのに、道には出てこないのよ?」

「この歩道には虫が苦手とする物が混ぜられているらしいです。なんでも道に出てきた虫が嫌な気分になって逃げる仕組みらしいですけど、詳しくは分かりません」

「ふーん。歩道以外は虫の領域っぽいのよ。総長気を付けるのよ」

「なんでわち?」

「アリエッタと手を繋いでるからなのよ」

「はぁ……」


 と言っても、壁など無い場所で飼育されている昆虫なので、基本的に大人しい種類ばかりである。8枚羽の蝶のような虫、綿のような羽でふわふわ飛ぶ虫、団子状の花粉を先端につけた長い触角のバッタのような虫など、その種類もかなり多い。

 ただし、ミューゼもエルツァーレマイアも植物ばかりに気を取られ、昆虫には全く興味を示さないのだった。


「へぇ、種を花びらで包んで、そのまま地面に落ちる花かぁ。えーっとこっちは……」

「ミューゼさん楽しそうですねー」

「うん、家庭菜園や魔法の参考になるよ」


 魔法で植物を操るには、その植物の生態を知る事が大事である。成長過程や基本形状を知った上でないと、いくら柔軟な植物といえど無茶な成長を促して脆くなったり途中で壊しかねないのだ。

 元々草花が好きだったミューゼは、水と命の属性魔法をひたすら勉強し、ベテランのピアーニャやロンデルも驚く程の植物使いとなっていたのである。他にも植物を操れるファナリア人もいない事は無いが、蔓を使っての家事や、木のゴーレムといったレベルの魔法は使えない。興味や趣味が実力につながった極端な良い例である。

 そんなミューゼを是非ともスカウトしたいと言う、ネフテリアや城のメイド達の気持ちが分かる気がしたパルミラだった。


「ん?」


 エルツァーレマイアに手を繋がれていたピアーニャが、上を見上げて何かに気が付いた。


「どうしたのよ?」

「いや、アレなんだが……」


 ピアーニャが指差した先には、木の高い場所に実ったリング状の果実がある。


「……あら、大きなダナツーの実なのよ。それがどうしたのよ?」


 赤紫の瑞々しい実が多数。針葉の外側にぶら下がり、空からの光を反射する。それを眺めながら、ピアーニャは不思議そうに呟いた。


「あそこまでジュクしていたら、カカリインがシュウカクするとおもうのだが……」

「採り逃したんじゃないのよ? 見つけたら教えてあげるといいのよ」

「まぁそうだな」


 2人はこれ以上何も思う事は無く、木をペタペタと触っていたアリエッタ(エルツァーレマイア)を引き寄せ、この場を離れた。そして少し進んだ所で係員を見つけ、実が熟していると報告し、再びのんびりとした時間を過ごすのだった。


 パフィが声をかけた係員がダナツーの木にやってくる少し前。別の木陰から小動物が顔を覗かせ、ダナツーの木のふもとにやってきた。耳が大きく、尾が細長い、四足歩行の小さな動物。その尾は、先端に向かうにつれ透明になっている。

 小動物は、しばらくダナツーの匂いを嗅いだ後、係員と入れ違いになるように、その場を去った。




 植物の前で立ち止まっては観察し、そして再び歩き出すという事を何度か繰り返していたエルツァーレマイア。実りの神としては異次元の木の実に興味津々なのか、ミューゼと同じように目を輝かせながら観察しているので、常時手を繋がれているピアーニャも少し気楽にしている。


(あら、この花は……なるほど~、野菜のような果物のような……甘い実をつけそうね。アリエッタに食べさせてあげたいわぁ)


 エルツァーレマイアは植物に触れる事で、それがどの様な実を作るのかを知る事が出来る。神というのは伊達ではない。


「アリエッタ、これ気になるのよ? ナルバナの花なのよ。ナルバナ」

「?」(え? なんて言ったの?)

「む、上手く通じなかったのよ。うーん、今度買って食べさせてあげるのよ」

(よく分からないけど、とりあえず()()()()()()()()()


 ナルバナの花に触れていた手をそっと動かし、優しく撫で始めた。その植物をいたわるような仕草を、パフィとピアーニャが優しい目で見守っている。どうやらアリエッタは花が好きだという認識になっている様子。と、そこへ……


「アリエッタかわいいー!!」


 背後からミューゼが抱き着いてきた。


「ふひゃあっ!?」

「んもー、お花似合い過ぎよ! これはもう家の菜園に花を増やすしかないわね!」

「しずかにみまもってやれよ……」


 花を愛でる虹色の美少女という光景に、離れて見ていたにも関わらず我慢できなくなったミューゼ。一緒にいたパルミラもある意味我慢出来なかったのか、頬に手を当てだらしない顔でアリエッタの姿を見ていたりする。


「アリエッタちゃんが美し過ぎる……今のアリエッタちゃんをアリエッタちゃんに絵にしてもらって、お城に飾りたい……」

「パルミラ…なにをいっている……?」


 保護者達はほのぼのとしている……が、


「あわわわわ……」(やばいヤバイやばいヤバイ! いっぱい漏れちゃったどうしよう! 回収しないと!)


 エルツァーレマイアが動揺し、ナルバナの花に泣きそうな顔で手を添えている。

 ナルバナの実を見てみたくなり、力を使って成長させようとしていたところ、突然のミューゼのハグで一気に力が漏れ出してしまったのだ。その力を慌てて回収しようと必死になっているのである。

 もちろんそんな内心も神の力も分からない保護者達は、温かい気持ちになって見守っている。


「こらミューゼオラ。いきなりだきつくから、アリエッタがハナをキズつけたとおもっているぞ」

「う…ごめんねアリエッタ……」

「なんて優しい女の子なの……! わたしまでちょっと泣きそう……」


 何やら感動までしているが、目の前で起こっているのは女神が泣くほど慌てているような大事件なのだ。神の力を感じることが出来ず、会話もあまり通じない為、観点の違いはどうしようもない。


「ふぅ……」(だ、大丈夫よね? ほぼ回収できたと思うけど……うん、大丈夫大丈夫! 私は頑張った! バレないバレない!)


 力を木から回収したエルツァーレマイアは、内心ひたすら言い訳をした後、パフィの手をしっかり握って大人しくする事にした。ハウドラントの時のような緊急事態でもないので、あまり勝手な事はしない方が良いと判断したのだ。そして、そっとピアーニャを抱き寄せた。中身が変わったからといって、ピアーニャの被害は特に変わらない。


「なんでこうなる……」

(あまりアリエッタと違う事は出来ないからね。ちゃんとぴあーにゃちゃんの面倒みないと。あとアリエッタがぱひーに甘えやすいように誘導をしておかなきゃ)

「気が済んだみたいなのよ。あっちにお店見えるのよ。アリエッタも疲れただろうし、少し休むのよ」


 パフィの提案で休憩施設へと向かい、『良い子のアリエッタ』に美味しい物を食べさせてあげようと意気込む保護者達であった。


 パフィ達が去った後、ナルバナの木のふもとに尾先が透明な小動物がやってきた。

 木の下から上まで登って匂いを嗅ぎ、そしてまた地面に降りてくる。そんな小動物がエルツァーレマイアが触れていた花に近づき再び匂いを嗅ぐ。

 小動物はしばらく花を見つめた後、先の無い尾を花に近づけた。

 その時、見回りをしていた係員が丁度その場を通りかかった。しかし、目立つ場所にいた筈の小動物は最初からその場にいなかったかのように姿は無く、花や木もただ何事も無くそよ風を受けて揺れているだけだった。

メリークルシミマスですね。

せっかくだから後でケーキか何か買ってこよう。

一瞬この話の中で木の実でクリスマスツリー作ってやろうかと思ったのはナイショ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まるで絵本の中の世界のような、牧歌的ながらとても素敵な世界観なのです。とてもとても、とっても、とーーっても! 素敵な世界観なのですよ!
[一言] アリエッタの方が言語学習能力が高いんですね ・・・おや!? 植物園の様子が・・・! (キャンセル不可)
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