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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
暖色と寒色のリゾートワールド
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脱線のカンファレンス

 夜になり、部屋の窓から氷に覆われていく外を眺めるアリエッタとパルミラ。展望室ほど眺めは良くないが、それでも建物を避けて凍り付いて行く自然現象は、見ていて飽きない様子。

 部屋にはアリエッタ達だけでなく、クリムとツーファンが2人でのんびりティータイムをしている。


「おお、このアレンジ面白いし!」

「そうでしょう。ディラン様を実験台に、試行錯誤し続けましたからね」

「なるほどー。お店にも試食実験コーナー作りたくなるし。帰ったら考えてみるし」

「気を付けてくださいね。魔法と料理を本当の意味で組み合わせると、たまにおかしな料理になりますから」

「へー、どういう事だし?」


 そんな謎のアレンジクッキング談義が同室にいるパルミラに聞こえないわけがなく、少し顔を引きつらせながら、膝の上のアリエッタの頭を撫でて心を落ち着かせて始めた。どうやら何かトラウマを抱えているご様子。


(なんか恐ろしい話してるぅぅぅ! もうあんな目に合うのはコリゴリなんですけどっ!)

「あふぁ♪ ぱるみらぁ……」(きもちいぃ~♪ ぱるみらしゅきぃ♡)


 撫でられているアリエッタの顔と理性は完全に蕩け、赤い少女にべったりとくっついている。それを良い事に、パルミラはアリエッタのいろんなトコロを撫でまわした。


「にゃんっ!?」(ななななにっ!?)

「おぉ……かぁいい……目覚めちゃいそう♡」

「はぁん……」


 変な所を撫でられて驚くも、すぐに頭を撫でられて大人しくなるのだった。


(あれ? なんでぱるみらに撫でられてるんだっけ? そういえばみゅーぜは? あっ…きもちいい♡)


 そのミューゼはというと、パフィと一緒にネフテリアに呼ばれ、別室でドルネフィラーから聞いた話について意見を求められていた。なにしろエルツァーレマイア絡みである。その娘であるアリエッタ…はどうもしようがないので、その保護者である2人に話を通されるのはごく自然な流れなのだ。


「なるほど……アリエッタちゃんはなんでも嬉しそうに食べる……と」

「ええ。好き嫌いがほとんど無いから手がかからないのよ。その代わりに好物がまだ分からないのよ」

「それは確かに由々しき問題ですね。せめて好きなものが分かれば、贈り物をして笑顔を見ることができるのですが……」

「いやダッセンしすぎだ。いったいなんのハナシをしてるんだ」


 アリエッタの本当の事情を一部知っているピアーニャとフレア、そしてロンデルを含めた6人での会議である。

 最初はドルネフィラーがロンデルの姿をとっていた事に本人が慌てていた為、それをからかい始めたピアーニャによって話が脱線。その後軌道修正しようとした矢先に、フレアがアリエッタの好きな食べ物をパフィに聞いていた。

 つまりアリエッタが部屋でパルミラに撫でられている間、実はほとんど話は進んでいないのだった。


「それでドルネフィラーはこのヨークスフィルンの事を、『炎の世界』『氷の世界』に囲まれたこの世界と言ってたの」

「きゅうにハナシをもどすな……ん? セカイ?」


 リージョンシーカー総長として、決して無視出来ないその単語で、ツッコミは完全に中断した。


「察するに、あの太陽はリージョンじゃないかって思うのよ。その2つに囲まれているから気候が極端だって……」

「ふむ」

「興味深い話ですね。炎と氷のリージョンですか。もし行けたとしても、踏み入れた瞬間に命は無いでしょう。近くにあるだけのヨークスフィルンですらこの影響ですから」


 ロンデルは外に広がる『氷の世界』の影響を見て、そのリージョンの危険度を推察していた。


「そうだな。しかしキチョウなジョウホウであることにはちがいない。このことはあとでレポートをまとめるぞ」

「はい」

「まさか他のリージョンを肉眼で見ていたなんて、驚きねぇ。もしかしてファナリアの太陽もそうなのかしら?」

「それはわからん。いつかカイメイしたいものだな」


 こうしてピアーニャに新しい目標が生まれた。しかし、


「えっと、ピアーニャの実家にドルネフィラーの生き物がいるでしょ? 時々それにドルネフィラーが乗り移って、ピアーニャの両親と話をしているような事を言っていたわよ」

「なにぃぃ!?」


 その意気込みは、確かな情報源が身近にいる事で、かなり緩和したのだった。

 そして話の流れは本当に元に戻り、グラウレスタの案件となる。

 レウルーラの森の光、ドルネフィラーに起こった不思議な現象、そしてグラウレスタに夢が捨てられた事。それらを一通り話し終え、全員がなんとか頭を整理しようと奮闘していた。


「……レウルーラの森の光の原因がアリエッタちゃんの母親?」

「一体ドルネフィラーに何が……」

「これはシンチョウにグラウレスタをチョウサしないといけないようだな」


 フレア、ロンデル、ピアーニャの3人は、事の深刻さをなんとなく理解し、真剣な顔で悩んでいる。

 そしてパフィも同じく唸りながら悩んで……


「パフィ、今の話よく分かんなかったでしょ?」

「バレたのよ」

『おいっ!』


 悩んでいるフリをしていたのだった。

 何か思い当たる事が無いか期待していたピアーニャ達は、思わず叫んでいた。まさかここで考えるフリをされるとは思わなかったのである。


「まぁ仕方ないよね。そもそもレウルーラの森の光ってなんですか?」

「……へっ?」


 なんとミューゼとパフィには、光の事を知らされていなかったのだ。関係者であり中心人物である事で知っている前提になっていた訳である。その事をすっかり失念していたピアーニャとネフテリアは慌てて謝り倒し、改めて最初から事情を説明する羽目になった。

 2人とロンデルにはエルツァーレマイアが女神である事は隠しながらなので、言葉を選ぶ事に全神経を集中した。その結果、女神である事は気づかれる事なく伝える事が出来たのだった。


(つ、つかれた……あまいものほしい……)

(頭痛い……こんな疲れる隠し事は他に無いわ)

「どうしたんですか? 2人とも凄く疲れてますけど」

「気にしないでくださいな。悪いと思って慌てていただけですから」


 説明に参加しなかったフレアは、状況で隠し事を悟られないように、話を誘導する。


「それで、今の話を踏まえて、何か思い当たる事はありませんか?」

「うーん……」


 エルツァーレマイアについて接点がある…もしくは一番近くにいるのは、間違いなくこの2人である。

 しかし、そもそも赤い光の事を知らなかった時点で、得られる情報に期待は持てない。その事を前提に、改めて何か無いか聞いてみた。


「その光がエルさんの魂によるものだったら、死者のリージョンみたいなのがあるのかもしれないですね」

「その想いがアリエッタのあの家を守ってるのなら、家が森の生物達に壊されないのは納得なのよ」

「……あ、はい」


 そもそも『エルさん』への認識が違うので、考える方向性がまったく異なるという状況に陥ってしまう。その事に気付かされただけで、色々と徒労に終わってしまったのだった。

 こうなると、この手の会議には2人を参加させない方がよかったりするのだが、アリエッタの一番の関係者である以上、ある程度以上関わらせておかないと不自然である。今後は同じような事があれば参加してもらうか、それとも話をまとめて要件だけを伝えるか、いっそのこと正直に真実を話してしまうか……頭を抱えてぐったりしながら本気で悩むピアーニャであった。


「そ、それでグラウレスタへの調査なんだけど……」

「ああ、ロンデルよ、ヨテイがなければ、あしたもどってテハイたのむ。ヒツヨウならリリもつれていけ」

「了解しました」


 会議を終え、部屋で護衛達とのんびり過ごしていたリリの元を訪れた。まだ帰りたくないと駄々をこねるリリを、ピアーニャとロンデルで説得する羽目になってしまう。


「もう4日も遊びましたし、緊急時なので大人しく仕事にいきましょう」

「ぐぬぬぬ……それはそうですけど……まだアリエッタちゃんとそんなに触れ合ってないですし……」(それに……)

(あ、これは……なるほどな)


 悔しそうな顔でワガママを言いながら、チラチラとロンデルの方へと視線を向けている事に気付いたピアーニャは、取引を持ち掛ける事にした。


「よし、こんかいはトクベツホウシュウをだそう。こんなコトもあろうかと、ヨウイしておいたものだ」

「なんですか?」


 ピアーニャはニヤリと笑い、どこからともなく1枚の紙を出した。


「ロンデルに何でも命令できる券だ!」

「喜んで仕事に戻らせていただきます!」

「はいいい!?」


 それはなんと、1度だけロンデルにどんな事でも命じる事が出来るという、恐るべき権限を持ったただの紙切れだった。ピアーニャはロンデルの小さい頃から、この券を使ってからかっていた為、ロンデルの深層心理には券を出されると逆らえないように刷り込まれているのだ。しかもいつかリリに渡す時の為に、ロンデルの弱みをいくつか書いてあったりする。

 提示された物を見て、リリはヨダレを垂らしながらキラキラした瞳で、仕事に戻る決意をしたのだった。


「総長それは駄目ですって!」

「くれぐれもたのんだぞ。これはもうオマエのものだ」

「はいっ、この命に代えても、立派にお勤めを果たさせていただきます!」

「ちょっと待ってくださいリリさん! そんなもの捨ててください! ちょっとおおおお!?」


 こうしてリリとロンデル、そしてシーカーの一部は、早めにファナリアへと戻る事が決定した。

 後日リージョンシーカーでは、少し日に焼けた敏腕受付嬢が、気持ち悪いと思えるような速さで仕事をこなしていくのを、多数のシーカーが目撃していた。その後ろでは、副総長が泣きながら書類整理をしていたという。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして、命令を聞く回数を増やしてくださいと言えば出来てしまうかも?
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