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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
暖色と寒色のリゾートワールド
128/404

華咲のステッチ

「流石はアリエッタちゃん! 似合うわぁ~」


 萌え死したメンバーがゾンビのように復活した後、本格的に試着会が始まった。

 ミューゼとネフテリアの姿をみんなで堪能した後、続いてパフィ、クリム、リリと続き、そして最後にアリエッタとピアーニャをリビングで着替えさせていた。


「なんでわちがコドモあつかいなんだ……」

「あうー……」(また着せ替え(おかいもの)させられた……みんなしてるからあんまり怖くないけど)


 これでロンデル、ノエラ、ルイルイの3人以外の服が変わった。

 人が着替えてくる度に、ロンデルに1人ずつ評価をもらうという事もしていた。着ている本人達は男性目線の評価が欲しいだけだったが、全て見せられている側としてはひたすら言葉に困る儀式である。しかも業務ばかりでそれほど目を向けていなかった服を人ごと評価する事は、ロンデルにとっては難易度が高すぎる。終わってからは、変な汗をぬぐいながら隅っこに縮こまって休憩しているのだった。


「みなさん可愛いですわ。こんな服を思いつくアリエッタちゃんは天才ですわね」

「こうやって実際に着ているのを見ると、今までとはレベルが違うというか……店長、この子雇えませんか?」

「……雇っても仕事を頼む事ができませんわ」


 いくら優秀や天才でも、言葉が分からなければ命令も依頼も出来ない。きまぐれでは人材として成立しないのだ。


「でも店のみんなで世話すれば何かするかもしれませんし、着せ替えも──」

「それですわ!」

「それですわじゃないのよ! 勝手にこの子をペットみたいに持っていく方向で考えないでほしいのよ」


 アリエッタはこれまで行ったリージョンや前世を思い出しながら原案を描いていた。ミューゼが着ているセーラー服、クリムの魔法使いのような服、パフィのドレスアーマー、ネフテリアのギャル風の服、リリのアイドル衣装、ピアーニャの青いエプロンドレス、そしてアリエッタのゴシックドレス。

 前世の記憶を元に思いつくままに描いていたので、特にコンセプトや統一感は無かったりする。しかもこれらの服は、まだほんの一部。


「それにしても部分的にいろんな色が混ざってるわねぇ」

「違う色の糸や布を繋ぎ合わせるのは元々やってましたが、仕組みは少し悩みました。まさか使い方を変えて少々違いを出すだけで、こんなにも鮮やかになるとは思いませんでしたわ」


 アイドル衣装のチェック柄を見て、関心するリリ。チェック柄は糸を結い合わせて作られている為、それを担当したルイルイが照れている。


「でもここをご覧になってください。アリエッタちゃんの図面には胸元に小さく絵が描いてあるのですが、これを再現するのが難しいんですの。これをどうしたら上手く作れるのか……」


 ノエラが指し示すのは、胸元にあるワンポイント柄。布を切って縫ってでは、細かすぎて出来ない部分である。


「アリエッタに見せてみるし。アリエッタ~、ほら、ここ、分かるし?」

(あれ? セーラーのワンポイントがないな……難しかった?)


 ノエラを困った顔でジ~っと見るアリエッタ。


「うぅ……なんでここ無いの?っていう視線ですわね……申し訳ないですわ……」


 出来てない事に申し訳なさを感じて俯くノエラだが、アリエッタは、


(糸と針って習ってない……どうやって教えよう……)


 と、ただ伝え方で困っているだけだったりする。

 ファナリアでも服を作る方法は変わらない。服に縫った跡を見つけたアリエッタには、教える事は出来ると確信していた。会話さえ出来ればだが。

 そこへ服を堪能してテンションが上がっているミューゼが声をかけた。


「ノエラさん。アリエッタがなんだか言いたそうな顔してるので、服に関する道具を出してもらえますか? これを見せて筆を持たないって事は、何か考えてるかもしれないんですよ。もしかしたら、ただ興味あるだけかもしれませんけど」

「そう? 興味持ってもらえるなら大歓迎だけど……ルイルイ、裁縫道具出してくれる?」


 すぐさま道具が用意され、ノエラが針に糸を通し、小さな布を2切れ繋げていった。その光景をまじまじと見つめるアリエッタ。


(なるほど、縫い方は変わらないっと。じゃあ出来るな。あとは貸してもらえるかな……)

「えっと、分かったかなアリエッタちゃん。こうやって服を作るんだけど……」


 アリエッタの真剣な眼差しに圧されながらも、一応丁寧に教えるルイルイ。そのまま次にどういう行動を起こすのか、注意深く見入っている。

 たまらずノエラが保護者達に問いかけた。


「ええと……やってみたいのかしら? 針は危ないからやめておいた方がよいでしょうか?」

「……いえ、一応好きにさせてみましょう。危ないと思ったらパフィさん、もし怪我をしてもミューゼさんがいますから」


 ファッションショーをしていた時と打って変わって、部屋に緊張が走る。アリエッタが針で怪我をしないよう、全員で見守らなければいけないのだ。


(えっと、使ってみていいのかな? すっごい見られてるけど、今回は仕方ないか。子供が裁縫するってのは普通危ないからな)


 元大人ということもあり、見守られている理由を察している。なので今回ばかりは見られても怒るような事はしない。


(といっても、簡単なのをいくつかしか出来ないから……とりあえずやってみるか)


 まずは針…ではなく、布切れと炭筆を手に取った。小さな花の絵を薄く描いていく。


「何をしてるんでしょう……」

「シッ、今は喋らずに見守るし」


 続いて糸を手に取った。細い糸をじーっと見た後、多めに糸を取り、怒られないかノエラを見た後、糸を曲げて4本分重ねて糸に通していく。ノエラにとっても初めて見るその行為に、全員が固唾をのんで見守っている。


(むー、やりにくいけど仕方ない。きっとみんな分かってくれてる筈)


 言葉がなければ行動と結果で教えればいい。意思疎通が難しいアリエッタ達がその結論に達するのは、そう難しい事ではない。

 アリエッタは布の裏から針を刺し、表に出した後は少し離して裏へと戻す。次に針を表側に出した場所は先程の糸の中心部分。そして先程と同じ長さを表に残して裏へと戻す。それを繰り返して少し曲がった線を糸で描いていった。


「こんなやり方が……」


 ノエラが思わず呟いた。ルイルイも隣で目を見開いている。

 アリエッタが行っているのは、刺繍のアウトラインステッチ。糸で線を描いていく技術である。

 もう安全を見守るという思考を無くした大人達の中心で、アリエッタは糸で茎と葉を描いていった。


(それじゃあ次は赤い糸でっと……)


 同じくまとめた糸を針に通し、今度は茎の先端に通していく。

 最初は裏から表へと糸を出し、今度は輪を作り同じ場所から裏へと戻した。そして輪の中から糸を出し、軽く引っ張りまた輪を作る。チェーンステッチという技法である。

 アリエッタが前世で覚えていた刺繍はこの2つだけ。基本のアウトラインステッチはともかく、チェーンステッチは「なんかカッコいいな」という理由で覚えていたのだった。花部分で使ったのは、何となくだったりする。慣れていない刺繍では、絵を描く時程のセンスは無いのだ。

 そのまま針を進めて円を描き、続いて同じように花びらを描いて行った。


(よーし、上手く出来た! たぶん!)


 薄く描いた絵の通りに針を進めた結果、布切れには小さな花が糸だけで完成した。

 時間を忘れて見守っていた大人達が、ここで我に返った。


「あっ……出来たのよ?」

(えーっと、とりあえずのえらに渡せばいいのかな?)「のえら!」

「はっ、はいっ!」


 反射で布を受け取ったノエラだが、まだ茫然としていたりする。

 一仕事終えたとばかりに、アリエッタは丁度隣にいるミューゼを得意気な顔で見上げた。


(褒めてくれてもいいんだよ? えへへ♪)

「うっ……可愛い……凄いよアリエッタ~」

「あぅ♪」(やったぁ~……撫でられた~)


 針という道具と注目される緊張から解き放たれたせいか、うっかり幼児化していた。そのまま膝の上に乗せられてしまう。


「フクのせいもあるだろうが、わちからみてもカワイイな……」

「ホント、将来有望過ぎますって」


 珍しくピアーニャが、ゴシックドレスのまま抱かれるアリエッタに見とれていた。

 一方アリエッタに見とれている余裕の無い人物が2人。


「アリエッタちゃん、わたしより糸の使い方上手くないですか?」

「凄いですわね……糸って布を作ったり繋げたりするだけでは無かったのですね……」


 初めて見た刺繍に目も心も奪われ、ブツブツと話しながら布切れを凝視していた。

 そもそも絵自体が全く発達していない場所(せかい)で、糸で絵を描くという発想は出てこない。目的が無ければ、技術はそうそう生まれないのである。


「糸をあえて太くして……途切れないように……」

「繋ぎ目じゃない……むしろ糸がメイン……」

「目怖っ!?」


 もはや真剣を通り越して目がイッている。新技術を目の当たりにした技術者の(サガ)である。

 横で様子を見ていたリリが思わず離れ、アリエッタに癒されるために近づいた。


「お~よしよし、アリエッタちゃん凄いねー。折角だから他の服にも着替えてみません? まだありますし、とりあえず着てルイルイさんに声かければ直してくれるでしょうし」

「あ、じゃあ次あたしコレー」

「では服をまとめてあちらに運ぶので……」

「ここで着替えるから、副総長はそこの夢中になってる2人を見ててほしいのよ。見たければ別に見てもいいのよ」

「はえっ!? いやいやいやいやそれは流石に……」


 ここにいる全員が、ロンデルに悪い印象を全く持っていない。少しの本気を胸に秘め、女性陣はニヤニヤと1人の男性を見つめた。

 そんな視線に恐怖を感じたロンデルは、急いで背を向けフラウリージェの2人の様子を見始めた。


「いったいダレが、ロンデルをモノにするのか、たのしみだな」

「負けませんよっ」

「私はアリエッタがいるから負けてもいいのよ」

「うん、リリさん頑張って」


 本気で狙っているのはリリだけだったりする。

 それでもロンデルならば別に少しくらい見られても構わないと思っている一同は、そのままリビングで着替え始めた。背後であられもない会話と布の擦れる音が聞こえるこの状況は、紳士のロンデルにとっては堪ったものではない。少し年齢が高いとはいえ、枯れているわけではないのだ。

 そこへ、早々に着替えを終えたリリが、近づいた。


「副総長、これはどうですか?」

「……後ろを振り向けないので、確認なら私の前方に来てください」


 有能な男はうっかり振り向くという凡ミスはしない。王女ネフテリアが着替えている声が聞こえるのに、緊張を解くわけが無い。

 リリは少しだけ残念そうにし、軽やかにロンデルの前方へと回り込んだ。


「ぶふっ!? ちょっと待ってくださいリリさん!」

「どうですかこの()()、似合いますか?」


 いきなり誘惑という手段に出る()王女のリリ。

 服の評価だと思っていたロンデルは固まっている。


「ほらロンデル、なにかいってやれ! なんならコウドウでしめしてもかまわんのだぞ!」


 後ろで、動物耳フード付きのケープと尻尾付きの服を着せられたピアーニャが、今の自分の状況を忘れたいが為に、ロンデルを全力で揶揄うのだった。

授業で一番使ったのはバックステッチだったなぁ、懐かしい。


いつのまにかお茶漬けの有名な老舗から、だし茶漬けなるものが出ているのを知ったので、試してみたら美味しかったデス!

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