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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
暖色と寒色のリゾートワールド
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閃耀のアーティスト

「はむはむもぐもぐ……ごっくん」

「ちょ……っと? アリエッタ?」

「一体どうしたのよ……」


 昨晩とは打って変わって、なにやら勢いのあるアリエッタ。怒ったような表情で朝食を貪るので、ミューゼ達が驚いている。


「パフィと一緒に寝て、テンションが上がったってわけじゃなさそうだし?」

「ごきゅごきゅ……ぷはっ」

「ああ……そんなに急いで食べたらよくないのよ……」

「アリエッタどうしたの? アリエッタ?」


 気合が入っているような、怒っているような……そんな状態のアリエッタを見るのが初めての3人は、オロオロと観察していた。

 当のアリエッタは、寝ている間にエルツァーレマイアに八つ当たりをして、気分だけはスッキリしていた。今は出来る事を理解し、その為に気合を入れている。その原動力は、


(みゅーぜ達が喜ぶなら仕方ない! でも恥ずかしい! こうなったら絶対知り合いみんな巻き込んでやる!)


 完全なる自暴自棄(ヤケクソ)であった。


「ごっくん……おいしー!」(ごちそうさま!)


 まだ『ごちそうさま』の言葉を知らないアリエッタは、パフィに美味しいと伝え、足早にソファへと向かった。そして手にするのは紙と筆。


「何か絵を描くつもりなのよ?」

「それにしては急ぎすぎだし。ミューゼしっかり見とくし」

「うん、気になるね」


 本日はミューゼがアリエッタと一緒にお留守番。パフィとクリムが仕事に行っている間に、観察しながら世話をするのが役目である。

 どうしてアリエッタが今の状態になっているのか、何がしたいのかを観察しながら、機嫌を取らなければならないのだ。


「絵描いて収まったら何とかして聞いてみないとなぁ……」

「頑張るのよ」

「はいはい……」


 まだ言葉が少ししか分からないので、その調査は非常に難しい。もっとも、それを大義名分にじっくりと観ていられるので、文句は出ないのだが。


「さてと……今は絵描いてるし、先に掃除からしちゃいますか」


 2人が仕事に出て行った後、ミューゼは家事から済ませてしまう事にした。


(……うぅ……僕ってば何を描いてるんだろう)


 唐突に、絵を描いているアリエッタが我に返った。

 その手元にあるのは、なんと服を着ていないミューゼの輪郭絵。顔はそのまま描いて、体は輪郭だけを描いてある。


(カッとなってやってしまった……でもこのまま進めないと、どんなのを与えられるか分からないし……みんなゴメン!)


 絵の得意なアリエッタにとって、裸体画自体はお手の物。

 いつも風呂に入れられているお陰で、ミューゼ、パフィ、クリムの体型は完全に把握してしまっているのだ。普段はともかくとして、絵として描いている間であれば、罪悪感そっちのけで手を動かす事が出来るのだった。

 続いて体の輪郭絵に、服を描き込む作業となる。こうして出来上がったデザイン画は、ミューゼ達に純粋に驚かれ、フラウリージェに持っていって、売り込みが大成功したのである。

 つまり、今回も描いているのはファッションのデザイン画という事になる。服を描く為の下準備なので、人体に関しては簡単な輪郭さえあればいい。


(……まてよ? まずは人数分の体を用意して、どういうのが似合うか吟味した方がいいかな?)


 ミューゼの絵に服を追加しようとしたところで、考えを改めた。先に全員分の体を描く方針に変更し、新しい紙を手に取った。

 そしてパフィを描きながら、思考を巡らせる。


(PCがあればなぁ……画像をコピーして色々描けるんだけど、無い物に頼っても仕方ない。レイヤーみたいなのあれば嬉しいんだけど、さすがに透明の紙やシートとかないよねぇ……カーボン紙やトレース紙とかも……あっ)


 ふと思いつき、手が止まった。


『そっかその手があった!』

「ど、どうしたのー?」


 思わず声が出てしまい、掃除中のミューゼが慌てて駆け寄ってきた。


「……ご……ごめなさい」

「大丈夫? 何もなさそ……ん?」


 周囲を見渡した時、ミューゼは自分の顔と輪郭が描かれた紙を見つけた。しかし最近見覚えがあるタイプの絵なので、一瞬訝しげに見るも、この後何かするのだと予想し、アリエッタの頭を撫でる。


「また新しい服描いてくれるのかな~? よしよし。ゆっくり描いてて良いからねー」


声をかけてそのまま掃除に戻っていった。


(ほっ……怒られなかった。続けて良いみたいだな。よーし)


 ミューゼが戻っていってからはパフィとクリムの体を描いていく。まだ何も着せていないその絵をテーブルに置き、おもむろに立ち上がった。


(さて、ちょっと恥ずかしいけど、やるか)


 視線の先には、ミューゼとパフィが着替えの時によく使う姿見。その前に立ち、服を脱いだ。

 そんな自分の姿を改めて見て、小さくため息を漏らす。


(うーん、たしかに可愛いね……これが自分じゃなかったら、すごく気になってたかも。ミューゼも可愛いって思ってくれてるのかな?)


 少しの間をおき、頭をブンブン振ってから、立ちながら絵を描き始めた。そこへ、他の場所の掃除を終わらせたミューゼが戻ってきた。


「アリエッタ? なんで脱い……あぁそっか」


 半裸のアリエッタを見て驚くも、その手が動いている事を察し、そのまま静かにリビングとキッチンの掃除を始めるのだった。時々可愛いお尻をチラ見しながら。




(よーし、これで一通りそろった!)


 自分自身を描き終えたアリエッタは、さらに作業を進めた。その結果、ネフテリア、ピアーニャ、ノエラの輪郭絵が追加された。

 なお、ノエラに関しては完全に服の上からのイメージだけで描き上げてある。


(うーん、本当はしゃーびっととめれいずも描けたらよかったんだけど……世界が違うみたいだからなぁ……いつか一緒に遊べたらいいな)


 アリエッタは最近ニーニルの町で会っている知り合いを描いていた。中でもピアーニャは、ミューゼ達と同じく無条件で加えられている。一緒に遊ぶ気満々である。


(さーて、体は描いたから、次は道具を作らないと)

 くぅ~

「あ……」


 昼まではまだ早いが、子供の体には一度に多くの食べ物は入らない。小さなお腹から音が鳴り……ミューゼにしっかり聞かれていた。


「ふふっ、お腹空いたの? おやつにしよっか」

「あう~」(はずかしぃー!)


 計らずも休憩を取る事となったアリエッタ。なぜかミューゼの膝の上で、クッキーを食べさせてもらっている。

 妙な雰囲気と掃除のせいでしばらく構えなかったので、ミューゼの方がくっつきたかったのだった。


「今日はどんな服を描いてるのかなー?」

「?」

 さくさくもぐもぐ

「アリエッタがどうしたいか聞くことが出来るのはいつなんだろうね……はやくお話したいねー」

(もしかしてクッキー食べさせてって言ってるのかな?)

「家にあるモノは半分くらいは教えたからなぁ。でも会話するにはそれ以外を教えないといけないし……」


 名詞以外を教える方法を考え始め、ふとドルネフィラーで『ジャンプ』を覚えた時の事を思い出していた。


(あのときはジャンプしながら『ジャンプ』って教えていたなぁ。ってことは……)


 ミューゼは膝の上でクッキーを食べるアリエッタを見て、その頭の上にポンと手を置いた。

 どうしたの?という視線を上目遣いで送られ、少し動揺するも、目的のためにしっかり耐える。


(アリエッタは賢いから、これならきっと)


 手を伸ばしてテーブルの上にあるクッキーを掴んだ。そして、言葉を口にする。


「クッキー」(これはクッキーね)

「くっきー!」(前に教えてもらったから、ばっちり覚えてるよ!)


 アリエッタが復唱したのを確認し、続いて手に持ったクッキーを自分の口に近づけた。


「た・べ・る」


 そう言ってから、クッキーをひとかじり。

 それを見たアリエッタが目をパチクリさせた。ミューゼにとっての緊張の一瞬である。


「たべる……! アリエッタ、くっきー、たべる!」(なるほど! 『たべる』か!)

 サクッ

「!!」(やっっっったあああああ~~~~!!)


 単語を連ねただけだが、確かに言葉で意思表示をした。

 教えた手ごたえと覚えた手ごたえで、2人とも歓喜で叫びそうになっていたが、顔が近いのでしっかり我慢していた。


 アリエッタは「たべる」を覚えた。

 ミューゼは動詞の教え方を覚えた。


「みゅーぜ。アリエッタ、え、かく!」

「うんうん、描いたら見せてね~」


 すぐに「描く」を教えた結果、これからやる事を言葉で知らせてくるようになった。ミューゼは上手く教えた事で大満足。調査報告書(いくじにっき)に急いでその事を書いていく。

 アリエッタも朝とは違い、少しだけだが会話が可能になった事で、良い意味でテンションが上がっていた。


(みゅーぜありがとう! 絶対喜ぶような可愛いデザインにしなきゃ!)


 やる気が上がったアリエッタが握っているのは平筆。そして白い色を発して()に色を付け始めた。


「えっ、板に?」


 紙ではなく板に描く事に驚き、動きを止めるミューゼだったが、どうせ考えても分からないのを知っているので、すぐに持ってきた魔法書を読み始めた。アリエッタに見せたり、守ったりする為の勉強である。

 しばらくして、アリエッタの色塗りはあっさり終わった。板を大きな白い四角で塗りつぶし、隅には枠を描いてある。手作業だったのでわずかに歪んでいるが、板全体が綺麗に塗られていた。そして枠の1カ所に模様付きの小さな円も描かれている。


(できた! うわー懐かしいなー。時々使ってたからなー)


 その出来に満足したアリエッタは、さっそく板に紙を2枚乗せた。白紙と、その下に先程描いた自分の輪郭絵を重ねて。


「うん?」


 アリエッタの動きが変わった事に気付いたミューゼが顔を上げた。その時──


(スイッチおーん!)


 アリエッタが円の部分を指で触れると、白い部分が明るくなり、白紙の下の絵がハッキリと透けて見えるようになった。


「へっ? 光ってる……」

(よーし大成功! これで下絵を使いまわせるぞ!)


 アリエッタが今回描いたのは、トレース台だった。絵を描くときに下に重ねた絵を光で透かせ、上の紙に描き移す為の道具である。

 想定通りの結果になった事で、アリエッタのテンションはさらにアップ。ウキウキしながら筆を進めていくのだった。

 そんな楽しそうな姿を見ていたミューゼは、また何かよく分からない物が出来たと苦笑しながら、再び調査報告書(いくじにっき)を手に取った。


「帰ってきたら2人とも驚くだろうなぁ……」


 その予想通り、帰ってきた2人は新しい道具に驚いた。さらに、そのトレース台で出来上がった()()()の絵には、ミューゼも一緒になって驚いていた。

異様にチーズが食べたい気分。

カマンベールとかモッツァレラあたりが大好きなんですよねぇ。じゅるり。

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― 新着の感想 ―
[一言] ki*iのクリームチーズはおいしいですね。 パフィさんに頼んでチーズ系のお菓子を作って貰わないと。
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