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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
雲の大地と始まりの夢
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庭で大暴れした

「おとなしく服着なさーい! 【魔連弾(ラピッドショット)】!」

「うるさーい! ゼッタイきるかっ!」


 ネフテリアが庭を走りながら魔法名を叫び、無数の魔力の弾丸を連射。魔力弾は少しずつずらしながら飛び、空中にいるピアーニャへと降り注ぐ。威力は低いが圧倒的な弾数と軽い追尾性能で牽制する、魔属性の攻撃魔法である。

 自分の扱いの悪さに怒り心頭のピアーニャは、それらを雲の盾で防ぎながら接近を試みる。


「ええい往生際の悪い! アリエッタちゃんの時と同じようにお姉ちゃんのいう事が聞けないの!?」

「だれがおねえちゃんだ! それにアリエッタはかんけいない!」


 ピアーニャの抗議など絶対に聞きたくないネフテリアは魔力弾を止め、両腕を横に開き魔力を広げる。そのまま前方のピアーニャに集中し、接近してきたところで腕を前方に向けて勢いよく閉じた。


「良い子だから一緒にオシャレしましょうねぇっ!!」


 今度は魔法名ではなく、願望を叫びながら魔法を発動。大気の流れを制御して、左右から空気の塊で挟み込む。空圧による捕獲を試みたのである。


「チッ……こんなもんで、とらえられるとおもうなぁっ!」


 魔力弾を防ぐために盾を模って前方の視界を防いでいたピアーニャは、完全に反応が遅れた。圧縮した空気に挟まれ、一瞬空中で動きが止まってしまう。しかし、その程度で捕獲出来る程、リージョンシーカーの総長は甘くない。

 服として装着中の『雲塊(シルキークレイ)』を変形、全方位に向けてトゲを伸ばした。


「!」(まぁ無理だとは思ってたけど)


 一瞬驚いたのは捕縛を解かれたからではなく、全身トゲトゲになったピアーニャの姿に対して。

 空気の塊は元々密度の無いモノを固めているだけなので、物理的な高圧力にはひどく脆い。硬度のあるトゲによって抉られれば、その箇所を中心にあっさり霧散するのである。しかし、その分無傷で何かを包んで捕縛するのには向いている。挟まれたピアーニャからしてみれば、ちょっと固めのクッションを左右から押し付けられたような感覚だった。


「なら…【空跳躍(スカイリープ)】」

(マホウをとなえているのは……フェイントへのフセキか。さっきはちょっとヤられたからな)


 空中を蹴って駆け上がるリルティナを警戒しながら、その姑息かつ応用力の利く戦略に感心するピアーニャ。

 ファナリアの魔法には使用方法がいくつか存在する。大まかに分けて『イメージ』と『呪文』と『媒体』というものがある。

『イメージ』は想像力で魔力を操り、思い通りの事象を起こすやり方。何をするのかが読まれにくく、先程の空気の塊での捕縛のように、見えない状態からの不意打ちには特に有効な手段となる。

『呪文』は言葉を発して、言葉通りの事象を起こすやり方。言葉にする事でイメージがしやすく、魔法を使い慣れていない者が特に重宝している。

『媒体』は杖などの道具を使って、力を増幅したりイメージだけでは不可能な特殊な事象を起こす手段。ミューゼの使う植物系の魔法がこれに相当する。

 ネフテリアは『イメージ』と『呪文』を使い分けているが、ネフテリアにとって『呪文』はイメージしやすい初心者用の方法などではなく、魔法名という『呪文(キーワード)』を唱える事によってイメージを固定パターン化する即行技術であり、同時に相手の行動を誘導する手段なのである。

 事実、最初に魔法名を唱え、前方を盾で見えなくしたピアーニャは、次に何も叫ばれなかった事で対応が遅れたのだ。


(マゴのようなコイツがセイチョウするのはうれしいが、もうダマされんぞ。ゼッタイにたたきつぶしてやる!)


 普段であれば褒めてやりたいと思う成長っぷりだが、今はピアーニャにとって可愛らしい幼児服を着せようとする悪の変態である。


「ふりかかるヒのコは……けしとばさないとな!」

「……やっぱり怖い……けど、負けるわけにはいかない!」


 ピアーニャは数世代もの間エインデル王家の先生という立場である為、正面から逆らおうとする王族はこれまでいなかった。

 しかしそこは自由奔放な王女ネフテリア。殴られる事も怒られる事も割と慣れっこで、今回は着せ替えという目的もあり、身を引くという選択肢は最初に投げ捨てている。


「【水流蛇(アクエルネイグ)】!」


 ピアーニャと同じ高さまで昇ると、掌から水を放った。水は手から1本だけ放出され、蛇のようにうねりながらピアーニャに向かっていく。


(ミズか。ハカイとボウギョはムイミだな)


 水は空中を跳びまわるネフテリアから放出されている。壊しても伸び続け、防いでも回り込まれるのは目に見えている。


「だったら、テリアをフウインだ!」


 トゲだらけの状態から服の形に戻し、ネフテリアへの接近を試みる事にした。盾にしていた『雲塊(シルキークレイ)』も一旦球体に戻し、使いやすいように掌の前にある。


「でしょうね! 【珠封檻(プリズンスフィア)】!」


 流石のネフテリアも、空中を魔法で駆け回りながら2つの異なる魔法を使う事は出来ない。水の魔法を解除し、ピアーニャとぶつかり合う為に新たな魔法を行使した。

 跳び回った結果、ピアーニャよりも上から飛びかかる形になったネフテリアの前方から、魔力が放射状に広がった。


「むっ!」


 対してピアーニャの『雲塊(シルキークレイ)』も掌から放射状に広がった。

 小さい頃からピアーニャを見て育ったネフテリアの魔法は、ピアーニャの技に影響を受けているものも多い。魔力の壁を球状に変形させ中に閉じ込めるという魔法として創り上げたのだ。

 お互いの攻撃が相手を包み込むタイプの捕縛術。少し出が早かったネフテリアの魔法を、ピアーニャが物理的に食い止めている形となっている。


「ヤバッ、これじゃ見えない」


 ネフテリアの魔法は半透明だが、ピアーニャの『雲塊(シルキークレイ)』は白である。広げてしまえば向こう側はお互いに見えなくなる。

 ここからどうするか考えようとしたネフテリアだったが、その考え自体をすぐに払拭し、左へと向かって空中を蹴った。なにしろ相手は最強の総長ピアーニャである。迷って動きを止めてしまえば、その隙に一気に主導権を奪われてしまう。

 空中を跳び、魔法のぶつかりあいの端から飛び出た時にピアーニャの位置を確認したと同時にぶつける為に、意識を手に集中させる。そして飛び出すと同時に行使中の【珠封檻(プリズンスフィア)】を解除した……その時、


「ぅでおああああああぁ!?」

「ひぎゃああああっ!?」


 なんと飛び出たネフテリアの目の前、ほぼゼロ距離の位置に、ピアーニャの顔があった。驚き合った2人は、勢いをそのままに上半身だけのけぞった。


『だーっ!』


 流石師弟というべきか、そのまま同じ叫びをしながら互いに攻撃を放とうとする。

 しかし双方対面時に驚き、魔法も『雲塊(シルキークレイ)』も空振り。突き出した手同士がぶつかって組み合い、意味無く押し合いになった。


「ちょちょちょちょちょ」

「っっっくりしたー!」

『なんでおなじところから、でてきた!?』


 回り込む為に迂回した方向やタイミングが一緒だったのは、完全に偶然。息ピッタリの2人であった。

 そして気を取り直す瞬間も同時だった。


(しまった! このままでは!)

(あ、いつの間にかピアーニャ捕まえてるわたくし凄い!)


 元々逃げながら迎撃する立場のピアーニャと、ピアーニャを捕まえて着せ替えしたいネフテリア。偶然にもネフテリアにとって有利な状態になっていた。

 ピアーニャが手を慌てて話そうとするも、ネフテリアが一瞬早く手を握る。


「くっ、はなせ!」

「逃がすもんですか! こっちはピアーニャの事を任されてるのよ!」

「そんなもんムシしろ! わちにはメイワクだ!」


 手をブンブン振るが、そもそもピアーニャには肉体的な力は無いので、どれだけ振ってもネフテリアの手はほどけない。

 そんな慌てるピアーニャに、空中の足場をしっかり固定したネフテリアは静かに語り掛ける。


「何をそんなに拒否する事があるの? わたくしも、アリエッタも、こんなにも貴女を愛しているのよ」

「それがオマエたちのアイだというのなら、わちはアイなどいらぬ」

「……本当に、昔から頑固なんだから」

「オトナになってからは、そうカンタンにいきかたはかえられん」


 ネフテリアは優しい目つきで、ピアーニャは鋭い目つきで睨み合う。


「だったら……どれだけ時間をかけたとしても、わたくしがその呪縛から解放してあげるわ!」

「はっ、カイホウだなどと、わらわせてくれる! わちはオマエたちのいいなりには、ゼッタイにならん!」


 ネフテリアが魔力を爆発的に高め、ピアーニャは広げた『雲塊(シルキークレイ)』を巨大な球状にして自分達に向けて構えた。

 真面目な顔と言葉によってシリアスな感じになっているが、最後だけ要約すると「着てたらそのうち目覚めるから! ねっ?」「やめろ! 知るかボケ!」という事である。

 ピアーニャが変形させた巨大な球体を見て、ネフテリアの顔色が変わった。


「まさか自分ごと!?」

「ふりほどくのは、わちにはムズカシイからな。こうなったらジバクがいちばんカンタンだ」


 攻防共に優れた力を持つ便利な『雲塊(シルキークレイ)』だが、咄嗟に細かい作業をする事は不可能である。確実に手を離させるには、武器形状にして勢いよく攻撃するしかない。それでは殺傷力が高すぎて、王女であり弟子であるネフテリアに向ける事は出来ない。

 傷つけたくはないが仕方ないというのと、覚悟をもって脅せばもしかしたら離してくれるかもしれないという賭けも含め、自分ごと巨大な球でぶっ飛ばすという乱暴な方法を選んだのだ。

 しかし『雲塊(シルキークレイ)』は本来、形状の変化が主体となり、そこそこの大きさに拡大する事は出来るが、巨大化という程の事は出来ない。どうしてピアーニャが巨大化させることが出来ているのかというと、今回は単純に中を空洞にして体積を誤魔化しただけである。もちろん硬くしてあるので勢いよくぶつければ破壊力がある事には変わりない。

 しかしそれが分かっても、ネフテリアは手を離す気は無い。


「もうっ! だったら絶対守ってやるんだから!」


 ネフテリアの方も、最初から覚悟は決まっている。絶対に離すものかと、魔力で自分達を包み込むイメージで、球体のバリアを創り上げた。殴り飛ばされても、衝突から守る為である。


「そうくるか……くっふふふ…………」


 球体バリアに感心しつつも、自暴自棄気味になったピアーニャの目に狂気が宿った。

 そんなピアーニャの様子に恐ろしいものを感じたネフテリアが、さらに全力でバリアに魔力を込める。


「なら、おもいっきりいくぞ!」

「っ!」


 ピアーニャの叫びを合図に、巨大な球はかなりの速度でバリアに衝突した。

徹ゲーの後の爆睡でスッキリ(マテ


やっぱり必殺技とか魔法って叫ばないと描写的に面白くない。ということで、無詠唱魔法使いが魔法名を叫ぶ理由を組み込んでみました。現代的に言うと「マクロ」の実行ワードですかね。

ついでに不治の(チューニ)病を発症したかったんですよね、フフフ。(漢字つけとくと説明楽だし←

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