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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
雲の大地と始まりの夢
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運命を託され覚悟を決めた

「もういやだかえるー! おうちにかえるー!」

「大丈夫よピアーニャ、ここが実家(おうち)でしょ?」


 屋敷の中で必死に逃げ惑うピアーニャを早歩きで追いかけるのは、冷たい笑顔のネフテリア。その手には、小さな服が握られている。アリエッタによってさらに可愛くなってしまった幼児服である。

 ピアーニャは体が小さく歩幅が狭い為、走れば簡単に追いついてしまうが、ネフテリアはあえて早歩きで追跡して、ピアーニャとの追いかけっこを楽しんでいる。まぁ、半分は着ている服の八つ当たりではあったりするが。

 ネフテリアが今着ている服には、前面に大きな顔が描かれている。目と口だけで構成されており、目は左右で色が違い、口は三日月形に開いている。そして背中には骨の翼。

 暗い色のシャツを再び受け取ったアリエッタは、ネフテリアのイメージがうまく浮かばず、なんとなく『悪魔っぽいの』を想像し、絵というよりはデザインとして描いてみた。

 美術の文化の無い世界で、いきなりそんなデザインが受け入れられるのは難しく、当然のように不評。だが、上目遣いで少し不安そうに見つめてくるアリエッタに怒る事も出来ず、顔を引きつらせながら着るしかなかった。

 1人だけ素敵な服を着ているミューゼを恨めしく睨みながら、ネフテリアは犠牲者を増やしてやろうと思い、ピアーニャの服を持ってきてアリエッタに差し出したのだ。

 もちろんアリエッタは喜んで可愛い絵を描いた。最初はハート柄を考えたが、そんな記号がこの世界にあるか分からなかった為、見た事のある甘い果物のパターン柄が出来上がった。ミカン、リンゴ、モモのような果物が多数描かれている。


「やめろちかづくな! そんなものきせるなぁぁぁ!!」


 子供扱いが嫌いなピアーニャにとって、それは絶対に身に着けてはいけない物。着れば尋常ではない可愛がりという辱めが約束される、呪われた服なのだ。

 全力で叫びながらホールへ走り、そして勢いよく扉を開け、庭へと飛び出した。外に出てしまえば、ピアーニャは『雲塊(シルキークレイ)』を使う事が出来る。

 しかし、外に出たピアーニャは、2つの『雲塊(シルキークレイ)』を前に出したまま、硬直した。


「かっ…かーさま!?」

「ピアーニャちゃ~ん、屋敷の中に戻りましょうねー♪」


 門の前に広がるのは、それぞれの『雲塊(シルキークレイ)』に乗ったメイド達。そしてそれを束ねるルミルテ。

 メイド達に今の作業を中断させ、総動員で屋敷を包囲していた。


「なんでそこまでっ!」

「そんなの可愛い娘の姿を見たいからに決まってるじゃないの」

「うぅ……」


 実に欲望に忠実である。メイドの中には、ヨダレを垂らしながらギラついた視線を送るものもいる。


「ふっ、観念してコレを着るのよ、ピアーニャっ!」


 黒い笑みを浮かべながら、手に持った可愛らしい幼児服を掲げる姿は全く様にならないが、ピアーニャを怯ませるには十分。メイド達も喜びの雄たけびをあげていた。


「いやだ! わちはオトナだー!!」


 負けじとピアーニャも叫び、迎撃態勢に入る。外に出たという事で『雲塊(シルキークレイ)』が使えるが、ネフテリアの背後には屋敷があるので、うかつに攻撃行動は出来ない。

 ネフテリアも負けるわけにはいかないと、体中に魔力を纏い、ピアーニャと対峙する。


「ネフテリア様、服を上へ」

「!」

「しまった!」


 その言葉通り、ネフテリアは幼児服を上へと放り投げた。それをキャッチしたのは空中を高速移動してきたルミルテ。ピアーニャとネフテリアが睨み合っている隙に近づき、大切な幼児服を保護する役を買って出たのである。

 ピアーニャにとっても、幼児服さえ奪ってしまえば恐れる事は無い。もし破壊すればアリエッタが泣くかもしれないが、確保・封印してしまえば大事にしていると思わせる事が出来るのである。

 すぐさまピアーニャが自身の『雲塊(シルキークレイ)』を纏い、ルミルテと幼児服を追いかける。鎧のように体に巻き付ける事で、自分の体を全力で自由に動かす事が出来るのである。


「あら、その方法は危ないわよ?」


 これまで『雲塊(シルキークレイ)』をこのように使おうとした者は少ない。ピアーニャも今咄嗟に思いついた方法だったりする。というのも、体に巻き付けて自分を動かすやり方は、大人の体でやると体に食い込んで痛いのである。全身纏う者もいたが、自由に体を動かせなくなるということで、熟練者である程この方法を嫌う傾向にあった。

 しかし今回ピアーニャはそんなやり方を実行した。


「そんなフクきせられるくらいなら、ジブンでつくる!」


 きっかけは可愛い服を回避したいという、のどかで強い想いだった。細くする程痛い事は知っている為、肩から腰までしっかり覆っている。見た目はモコモコで歪な鎧である。体が小さい事が幸いして、反動はかなり少ない。


(むぅ、あまりはやくうごくと、ロシュツしているブブンがくいこんでいたいな……かえったらケンキュウだ。いまはガマンするしかない!)


 ピアーニャは高速で飛びながら、もう1つの『雲塊(シルキークレイ)』を操り、ルミルテへと狙いを定める。生半可な攻撃ではそもそも通じない事をよく知っているので、最初から全力である。


「おちろ! かーさま!」


 もはや仲の良い母親に向かって言う言葉ではない。ピアーニャの『雲塊(シルキークレイ)』は高速で伸び、回避するルミルテを追って折れ曲がる。

 ルミルテも盾を作って防ぐ事もしているが、防いだ直後にピアーニャの『雲塊(シルキークレイ)』が真横に伸びて盾を回避し追撃する。『雲塊(シルキークレイ)』を足場にして上に乗っているだけのルミルテは、あまり速く移動は出来ない。速すぎると振り落とされるからである。


(今のピアーニャにはすぐに追いつかれるし、服を護ったままやり合うのは難しいわね。さっすが私の娘!)


 まだルミルテの方が単純な実力が上とはいえ、ブランクがある上に、ピアーニャは現役のシーカー総長である。細かい技術はともかく、咄嗟の判断力に関しては娘の方が冴えている。しかも庇わなければいけない物がある分だけ、ルミルテの方が不利となっていた。

 防ぐ度に別方向から回り込んでくる鋭い攻撃を防ぎながら、屋敷の玄関前へと移動する。そして、そこにいるネフテリアごと覆うように、2つの『雲塊(シルキークレイ)』を使って大きな壁を作った。


「めくらましか!?」


 2人の姿が見えなくなったピアーニャが警戒する。もちろん周囲のメイド達にも注意するが、動く気配は全く無い。ならば服を奪うのみと、空中で全力の攻撃態勢に入る。壁を破壊する為に、『雲塊(シルキークレイ)』を渦巻(ドリル)状にして、高速回転させ始めた。

 次の瞬間、突然大きな壁に穴が開き、ネフテリアの姿が見えた。


「【水の弾(アクアバレット)】」


 その手から、数発の水の弾丸が発射されるが、ピアーニャは難なく弾いてネフテリアを睨みつける。


「ほーう、わちにいどむか? いいドキョウだな」


 服の件でイラついていたピアーニャは、不敵な笑みを浮かべた。

 その殺気を感じたネフテリアは少し腰が引けるが、ピアーニャに幼児服を着せる為と気合を入れ直す。


「屋敷は私が守るから、思いっきりやっちゃってくださいな」

「が、がんばります」


 ここで屋敷と幼児服を防護する為に、ルミルテは戦線離脱(リタイヤ)。ネフテリアにピアーニャの運命を託す。

 ピアーニャ達のような高速空中戦闘は出来ないものの、ネフテリアも魔法に関してはかなりの実力者である。しかし、ネフテリアにとってピアーニャは、戦闘面を含めたいくつかの分野の師匠のような存在。勝算というものはあまり無い。しかし、その目は覚悟を決めた者の目だった。


「オマエがかなうとおもっているのか?」

「……正直怖いけど、絶対にやり遂げなければいけない事が、そこにあるの」

「そんなシメイカンはいらん! なんでそうまでして、わちにあんなフクきせようとするのだ!」

「分からないの?」

「なんだと?」


 ネフテリアは魔力を両手に集めながら、前に進む…ピアーニャを睨みつけながら。


「貴女はアリエッタちゃんの妹であると同時に、正式にわたくしの妹にもなればいいのよ。あの服はその為の第一歩よ」

「だれがイモートだあああ!! わちのほうがトシウエなんだからな!?」

「そんな些細な事で、わたくしの興奮は収まらないわ!」

「だまれヘンタイおうじょ! けっきょくオマエら、にたものキョウダイだな!」

「失礼ね! わたくしはちゃーんと、合法の年齢でのお付き合いを選んでいるわよ。それに姉妹なら結婚も出来ないでしょう?」

「わちからしたら、ナニもかわらんぞ!」

「……どうやら、説得は通用しないようね」

「どこにセットクようそがあったのだ!? あーもう、ハナシつうじなさすぎだ!」


 特に意味の無かった話が終わり、結局実力行使へと移行する。

 ピアーニャと言い合いをしたネフテリアからは、着ているシャツに対する不満は一旦霧散し、その勢いとテンションのまま、ピアーニャに挑む。元より格上に挑むネフテリアは真剣な顔つきで魔法を構え、ピアーニャも身の危険を常に感じ、全方位を警戒しながら真剣に相手をする事を決心したのだった。




 一方その頃、元凶のアリエッタはというと……


「あ~う~! と、といれぇ」(やばい漏れそう! ずっと描いてたからトイレ行くの忘れてた!)


 ギリギリの状態で屋敷の廊下を必死に走っていた。集中して絵を描き、休憩にジュースを貰い、また描くという事を繰り返したせいで、大事な事を忘れていたのである。

 ミューゼが心配そうに付き添い、メイド達の横をオシャレになった服で駆け抜ける。その際に視線が刺さるが、今はそれどころではない。

 目的の場所が近くなり、アリエッタはラストスパートをかけた。


「アリエッタ、慌てると転ぶ──」

 べしゃっ

「んぎゅっ!?」(ぃたっ……あ……)

「あっ……」

アリエッタが(関係ない所で)敗れたか……ヤツは主人公の中でも最弱


あらすじ見たらずいぶん前のもので不満だったので更新しちゃいました。

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