第七話「人間をやめる少女」
「な、なぜ生きている……!?どうやって……どうやって逃げた!?いや、避けた!?」
自分の銃で殺したはずの少女がそこにはいた。その事実は科学の発展してきた世界で育ったアーク達には信じられない事実だったのだろう。
何かのトリックか、それとも別人か。彼らは目を見開き混乱していた。
「あんたには目がついてないのかしら、そこに私が転がってるじゃない。すぐ消えるけど、間違いなく私は死んだわよ」
まるで理解し難い言葉を言われたかのように、アークたちは私をバケモノの様な目で見つめる。
「な、何言ってるんだ……お、おい!お前ら、次は外すな!殺せ!」
再度、私に銃を向ける兵士達。
私は自分に向けられた全ての銃口を目で捉えた。
「すー……殺気を、向ける──」
バケモノ男が言っていたように、私は何度も新しい事に修行してきた。例え復讐する相手に教わる事だとしても、私は吸収するためなら何にでも耐えてみせる。
抑えていた剣気を尖らせる感覚。全体じゃなく、1点に集める。
速さの限界を越えるように、腰に下げている剣に全神経を集中させる。
──そして、一気に解き放つ!
「今度は逃がすな!──撃てッ!!」
「──こうッ!」
私に向けて無数に飛び出される鉛玉を、同時に上抜刀で切り刻む。
たった1振りで全ての鉛玉を粉々に切り刻み、私に届く寸前で花火のようにバラバラに飛び散った。
「……できた」
明らかに物理現象を超越した抜刀、こんな事が自分に出来ることに驚いた。
私は人間だから魔力なんて超越した力は持っていない。でも、その壁を越える道があることに嬉しさを覚えた。
◇◇◇
──なんなんだ。
俺が心臓めがけて撃った弾をコイツはたかが一振りで斬った、全てを斬った。
そうだ、あいつは1回しか剣を振り上げていない。
なのにその1回で自分に目掛けてくる何百発の弾を全て切り刻んだ。
斬った風圧で斬撃は歪んで見え、俺達の方まで激しい風が襲いかかる。
──そして気づいたら、手に持っていたはずのカービン銃まで粉々になっていたのだ。
一体、何が起こってるんだ……。コイツは何をしたんだ……!
俺は恐る恐る愛夏を見上げる。
そこには人間性の欠けらも無い、明らかに違う世界を見ている目をしていた。
その赤い目が自分を握り潰すかのように、血の海に沈められる感覚になる。
「……できた」
「ヒッ……」
その時点でもう自分は戦慄していた。
死んだはずなのに生きていたり、超人的な斬撃を放ったり。
まるで人を殺すような、いや殺す事など当然と言うような目をする少女を前に。俺は完全に抗う気力を失った。
◇◇◇
「──あれ」
先程まで殺伐としていた兵士達が、気づいたら全員戦意を失っていた。
私は首を傾ける。
何故諦めているのだろう?何故攻撃してこないのだろう?
自分の武器が無くなった程度でどうしてそんな顔をしているのだろうか。
武器は自分の力じゃない、武器の力だ。あれだけ啖呵を切っておいてまさか武器に頼っていたっていうの?
……いくら待っても兵士達は顔を俯けて何もしてこない。
その目は、その表情は。昔の私を見ているようで酷く不快だ。
「……つまらない」
人間とはこんなにも柔い存在なのだろうか。まだ初撃しかぶつかっていないのに、その程度で諦めるような戦意だっただろうか。
天災と恐れられたあの子なら、きっとこの状況でも冗談を言えるくらい余裕があったに違いない。それに比べてこの兵士達と言ったら、失望ものだ。
私はバケモノ男を視認すると剣を納刀する。
「実験とやら、しないの?」
私の質問にバケモノ男は男は満足したように答えた。
「実験は既に終わっている。その人間共は好きにするといい」
突如聞こえた声にアーク達は辺りを見渡すが、バケモノ男を視認することは出来ないらしく混乱していた。
何も知らないのなら、そのまま知らずに死なせてあげる。
「そう、好きにしていいのね。──じゃあ殺すわ」
私は手のひらを広げて水平に向ける、今の私なら素手の風圧だけでこいつらの首を撥ねれる。
私はゆっくりアーク達に向かって歩き出す。
危機感を感じ取ったのかそれをアークが必死に静止する。
「ま、待ってくれ!命以外なら何でもやる!金も出す!お前を咎めようとしたことも許す!だから──」
「何言ってるの?」
私はアークの目の前まで迫り、ゆっくりとその手をアークの首元に当てる。
「この世界は許すとか許さないとか、そんな言葉は通じないわ。そして今それを決めるのはアーク、あなたじゃない。私よ」
「わ、わかった……!謝る、俺が悪かった!そ、そうだ!帰ったら俺の権限でお前を遊撃隊長に任命してやろうか!」
あまりの戯言に私は興味すら失い、この場にいる人間全てを殺そうと手を挙げる。
しかし。辺りを見回すと一人だけ、明らかに雰囲気が違う人間を見つける。
私は醜い言い訳続けるアークを無視して、1人悲壮な表情をしている少女に真正面から話しかける。
「──へぇ、あんた良い目をしているわ。その絶望している目の中に未だ消えない希望を抱いている。いや、希望なんて憶測じゃなく、勝機を見出してる目」
「あなたは……?」
俯いていた少女は顔を上げると私を見る。
敵意は無い、だけど彼女は私から逃れる術を必死に考えている。
それはアークのような形のないものじゃなく、ありとあらゆるものを行使してこの場を脱しようと策を練っているように感じた。
そう、その目を見れば明らか。ここにいる誰よりも諦めていない。
「愛夏よ、あんたは?」
「……桜。東雲 桜、です」
少女は途切れ途切れにそう紡ぐ。状況整理でもしているのだろうか。私もあまり時間はかけたくない、本心は考えないで答えるからこそ本心なのだから。すぐに少女に聞きたいことをそのまま聞いた。
「そう、桜は今ここで死にたい?それとも生き残りたい?」
正直な話、どっちを言っても殺すつもりだ。
だからこれは審議、私が審判を下す立場。理不尽で不合理な成否を判断する主観。
正解なんてない、正解は私が決めるのだから。
そして、諦めているやつと諦めていないやつの差はここで出る。
「……いえ、生き残ります」
そう、その言葉は私に頼る言葉じゃない。自分で責任をもって下した言葉。
──覚悟があるということだ。
私は桜に背を向けながらエントランス中央、先程私が死んだ所に歩き出す。死体はまだ残っており血の匂いが充満している。
私は飲み残した紅茶を再度手に取ると、ずっと私の方を見ている桜に告げる。
「いい返事ね。じゃあ桜、──こいつらを全員殺しなさい」
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