第六話「死に過ぎた人間」
エントランスの椅子に座る私とバケモノ男。
正面玄関からすぐ目の前にある巨大な広場がここエントランスである。
エントランスにはお茶菓子や飲み物等も置かれている。もちろん私は断食の修行の為、餓死するまでほとんど食事は取らない。
これになんの意味があるのかと言うと実は結構効率がいい。そもそも死という存在を克服するのが最終的な目標なのだから、死ぬことはこの類い稀な状況下に置いては意外と有効打だ。
それにこの世界には『不死の塔』と言って頂点まで登りつめると不死身になることが出来る伝説上の塔が存在するらしい。
この不死の塔に関しての情報は今のところ不足気味だけど、いつかは関与してくる問題だ。
バケモノ男を殺すのに不死になるなんてことはもはや大前提、命一つで勝てる相手じゃない。
だから今は今後不死身になることも見越してとにかく死に慣れる。死にまくって死ぬ恐怖を忘れる。健常者にとっては異常なことだけど、気の狂った私の目的にとっては必要不可欠なことだ。
そして出来れば戦って死を克服するのが一番いいのだけれど、ミットも忙しく中々付き合ってもらえない。
なので最低限食事はせずに餓死するまで耐えると言う二重面で頑張ることにしたというわけだ。
……傍から見たらただのドMとしか思えないわね。
だけど、そんな異常な人生を過ごしている私も最近は修行と死ぬこと以外にすることが無くて暇になってしまっている。
たまには外に出て景色や街を見たいけれど生憎私は弱い、森の魔物に食われる危険性だって当然あるわけだ。というより外に出る以前に玄関の扉がまず開けられない、力不足が非情を貫く。
そんなこんなで今日も何をするか非常に迷っていたところだったが、何やらバケモノ男が珍しい事を言っていた。
「……人間が来る?」
「ああ」
こんなバケモノしかいない屋敷に人間が来るなんて興味がわく。
もしかしたら私より強いのかも。
「まぁ、来るというより捕まえてくるのだが」
……まぁそうよね。
「なんで人間をわざわざ捕まえてくるの?食べるため?」
「それもあるのだが、少し面白い実験を思いついたのでな。趣味の一環と思ってくれれば良い」
いや面白い実験って……。
「嫌な予感しかしないわ、目の前で同族が拷問にかけられる未来しか見えないんだけど」
「嫌なら抵抗してもいいぞ」
「隙があったらいつでも切り伏せてるわよ」
「嫌とは言わないんだな」
「……私にとって夏歩以外の人間なんてどうでもいいわ」
「ふむ、言われてみればそうだったな」
強がりと言えば強がりかもしれない。
私だって昔は人が死ぬなんて例え敵でも嫌だったくらいなのだから。
「主人!人間が来るって本当ですか!?」
人間が来ると聞いたミットが大騒ぎで階段から転がり落ちてきた。
この神どんだけ信徒増やしたいのよ。
「ああ」
「そ、そうですか!フフフ……今度こそ私の崇高な──」
「ミット、そろそろ食料が尽きるから買い出し頼むな」
「はうぁ~!」
ショックを受けながらお決まりのセリフで微塵に消えていくミット。
神様なのに願望が小さい。
「ふむ、そろそろ来るぞ」
「……?屋敷の外には誰も気配を感じないけど」
「外じゃない、上だよ上」
「上?」
すると屋敷の天井から円を描くように光が散らばり、そこから人間が複数人落ちてくる。
意識を失いながら落ちてくるもの、死体のまま落ちてくるもの。色んな状態の兵士が落ちてきた。
「これは……ヴァンクール帝国と、ルクセンライト王国の人間……?」
落ちてきた人間は私の知っている国の人間だった。
──そして顔見知りも数人。
だけど、ルクセンライト王国の兵士はほとんどが死体か気絶しているものばかりだった。
「いてて……ここは、屋敷……?確か俺は大穴に落ちて……」
「久しぶりね、アーク」
私は混乱しているアークに声を掛ける、いや声をかけたら更に混乱したりして。
「愛夏?愛夏じゃないか!大変なんだ!今ヴァンクール帝国がルクセンライト王国に戦争を仕掛けてるんだ!」
ヴァンクール帝国とルクセンライト王国とは私が住んでいた地球で現在トップ2の独占国だ。
つい最近第四次世界大戦が終わったと思っていたんだけど、もう次の世界大戦を引き起こすなんて随分と殺伐としてるわね。
まぁ……戦争は当然ヴァンクール帝国の圧勝で終わると思うけれど。
──あの子がいる限り戦争なんてただの遊びに変わる。
「しかも突然巨大な大穴が空いたと思ったら空が割れて、地震が起きて地面が割れて!ああもう!なんて言ったらいいんだ……とにかく大変なんだ!」
「ふーん」
なんか大変そうだけど正直地球のことなんてもう知ったことじゃない。
と言うかその超常現象起こしたのこっちの世界の連中なのかしら。
「その大穴に俺も含めてみんな落ちて、アリス隊長とレナ中佐も居なくなって……」
聞き覚えのある名前に私は一瞬反応する。
……もしかしてあの2人もこっちの世界に来ているのかしら。
私はバケモノ男を一瞥するがバケモノ男は知らない顔をしている。まぁ、あの2人なら心配するまでもないだろうけど。
「色々起こってるみたいだけど私は関係ないことだし知らないわ」
私はアーク達の方へと振り返ると、興味無さげに見下した。
そもそも私はバケモノ男を殺すために生きてきたのだから、その過程にある事なんてどうでもいい存在だ。
「関係ない……だと?愛夏、お前は兵入りした時にヴァンクール帝国に身を捧げると誓ったはずだぞ!」
「ええ、誓ったわ、誓うだけね。まさか本気でそんなこと真に受けてる人がいるの?」
「なっ……!そんなこと言って。し、死罪だぞ!」
アークに続いて意識を取り戻したほかの兵達も私を罵倒している。
私を説得するより今の状況考えるのが普通だと思うんだけど、こいつらにはバケモノ男が見えないのだろうか?
「死罪って言われてもね、私はもうあの国には戻らないし」
「なら今ここで銃殺刑だ!」
この子達殺意高すぎない?そんな簡単に人を殺そうとする文化が成り立ったせいであの子みたいな天災が降り注いだのに、全然懲りないわね。
「別にいいわよ?殺したければ殺しなさい。ただし、私は"敵"には容赦しないわ。その引き金が自分に向けられてると思うことね」
私は剣を抜かず椅子に座ると置かれている紅茶を手に取る。
──まぁ、どうせ死ぬんだし飲み物くらいは飲んでもいいよね。
「くっ──馬鹿にしやがって!いくら軍の切り札とされていたお前でも、この最新式のカービン銃を10丁も向けられてまさか生きていられるなんて思わないだろうな?」
「ええ、まぁ私はまだ鉛玉で死ぬような人間だからね。数十発は耐えられるだろうけどその機銃では難しいわね」
「はっ──いつまでも余裕でいやがって。おい!お前ら、こいつはヴァンクール帝国の裏切り者だ!容赦することは無い!」
雁首揃えて私に銃を向ける兵士達から視線をそらし、私はバケモノ男を見つめながらゆっくりと紅茶を口に運ぶ。
うん、普通に美味しいわね。
「撃てーッ!!」
アークの指揮によって発砲された怒涛の鉛玉が私の体を貫通する。
激しい銃撃音と共に赤い液体が飛び散る。
「痛い痛い痛いって、痛っあっげふっ……!」
──普通に痛いのだけれど。
途中で喉を貫通され声を出せなくなった私はバケモノ男を見る。
「……ククっ」
こ、こいつ銃に撃たれてる私を見て笑いやがった!殺す!絶対殺す!
──だが、そんな殺意を向ける頃には意識が無くなっていた。
一方アークは血だまりになって原型を留めず倒れている私を見て、死体蹴りと言わんばかりに煽り立てる。
「はははっ!何が帝国の切り札だ!こんな鉛玉で死ぬんだからただの人間と変わらないな!」
「──そうね、今の私はあまり頑丈ではないわ。攻撃には自信があるんだけど。まぁ、だから何度も死んで耐久性を上げているところなんだけどね」
「……は?」
背後の廊下から聞き覚えるのある。いや、ついさっきまで聞いていた声が響く。
ところどころ赤く染まっている銀色の髪が影に揺れる。
──私は口内の血だまりを吐き捨てると腰に下げている剣を抜いた。
「私はこういったはずよ、"敵には容赦はしない"って。──あんた達はその銃の引き金を自分に向けて引いたのよ」
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