表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリ剣士  作者: 依依恋恋
東雲桜編
50/51

第五十話「東雲桜は明日も生きる」

 

 全てを薙ぎ払ったガラス世界で、私は立っている事もままならずその場に倒れ伏せた。

 熱を帯びていたはずの鉄板の地面はひんやりと冷たく、周りを包んでいた青紫色の毒煙もいつの間にか消えていた。


「あぁ……」


 ようやく終わったのだと息を吐く。

 気づけば初めてこの場所に入って来た時の景色が視界に映っており、総じて庭と呼べるような瑞々しい花達が辺りを囲っていた。

 私は起き上がる気力もなく、その場に仰向けになって天井を見つめる。

 数分程か、そんな私を覗き込むかのように一人の男が顔を見せた。


「……まぁ、そうですよね」


 咄嗟に出た言葉はそれだった。

 そこに立っていたのは無傷のバケモノ男。恐らく分身か、再生でもしたのだろう。

 バケモノ男は非常に満足した表情で私に治癒を施し始めた。


「権能無き存在。あれは俺が神域に到達する前のものだ、よく倒せたな」


 そう言って私が先程まで相手をしていたバケモノ男が居たであろう場所に視線を移す。

 その言葉でようやく疑問点が腑に落ちた。

 先程まで戦っていた彼は確かに桁外れの力を持っていた、だけどそれだけ。神々のような全能感があまりにも無さすぎた。


「権能……?」

「遊戯神の強制遊戯のようなものだな。神々は必ず一つは持つとされる」

「神になったら貰えるんですか?」


 バケモノ男は首を振る。


「努力で手に入れられるものでも無さそうですね……」

「そうだな。権能も神も努力や才能では決して届くことはない」

「じゃあどうやって……。いや、そこが明確な差なんですね」

「順当な回答だが正解だな。誰しも努力すれば神になれるのならこの世界は有象無象の神々で埋め尽くされているだろう。それはただ神という名を持っただけの烏合の衆だ」


 確かにその通りだと思った。

 私はまだこの世界のことを何も知らない、外に出たことが無いから。

 だけど書物で読む限りはある程度の政治は為されているらしく、元居た地球のような荒れた荒野が広がる世界というわけでは無さそうだった。

 だからこそ神という存在は余計目新しく感じる。


「神というのはその分野における調停者、もしくは頂点に座する存在だ。何人たりとも敵わず、次第に挑む者が無くなり、そして周りが自ずと椅子を明け渡す。不動の存在であり万人が認める頂き、それが神だ」


 どんな世界にも格差はある。この世界はその格差が広がり過ぎてパワーバランスが崩壊した世界なのだろう。だから神という存在に置き換えて人々は均衡を保った……ということなのかもしれませんね。


「愛夏さんはそんな神を、遊戯神を倒したのですね」

「あれは神の中でもまだ若輩者だがな。それでも遊戯に置いては絶対たる存在だった。もし公然と行われていた勝負ならば歴史そのものが変わっていただろうな」


 歴史が変わる……言葉通りなら相当凄い事を愛夏さんは成し遂げたことになる。

 逆に遊戯神はそこまで読んで保険をかけた……というわけでもなさそう。あの表情は本気で自分の負けを想定していないものだった。


「つまりそれって、愛夏さんが遊戯神に……?」

「まさか、先程も言っただろう。挑む者が皆無でなければならない。万人が認めその座に不動となって初めて神と称される。遊戯神は6000年もの間、遊戯でひたすら勝ち続けた。過去にたった一度の敗北すら記録には残っていない。だからこそ神としての名を歴史に刻んだのだ。仮に遊戯神が神の座から降ろされる事になったとしても、愛夏が新たな遊戯神の座に着くことはない」

「なるほど、そういう仕組みなんですね」


 神々がその名を名乗っているのは何千年という歴史を積み重ねてきた結果。本当に歴史的な快挙を成し遂げた者だけに許された呼称というわけだ。

 遊戯神は私の想像以上に凄い存在だったのだと今さらながら感嘆した。


「まぁ、俺が神と呼ばれないのもそういうことだ」

「……? でも確か超越神って呼ばれて……あ」


 ふと単純な見落としに気づいてハッとする。

 超越なんてつくからてっきり万物を越えた神とばかり思っていたが、それは逆の発想。超越した神ではなく神を超越した者という意味。

 つまり目の前のこの男は……神じゃなかった。


「神々からしてみれば不都合この上ない存在だったのだろう。神を越えた存在という位置づけを与えて俺を自身の名誉の糧とする計算でも立てたか。最も俺を倒せないのは神々にとっても誤算だったろうが」


 それは確かに大誤算だ。例え神と言えどこんな無茶苦茶な男を倒せる者がいるとは思えない。


「もしかしてですけど、複数の神々を相手にしたこともあったんですか?」

「最近ではめっぽう減ったが昔は毎日のように何百という神々の相手をさせられていたぞ。いい加減しつこくなって静寂を求めこの地にやってきたが、奴らは逃げたと思っているだろうな」


 軽口で述べる武勇伝にしては些か度が過ぎていた。

 何百という神々……もちろん嘘ではないんでしょうね……。この人なら本当にその数を相手に戦いかねない。


「でもそれ、逃げたって思われているなら名誉的に結局してやられちゃってません……?」

「興味ない。世界の理に準ずる者共の考えなど俺やミットにとってはどうでもいいことだ。それに超越神など字面だけ見れば大層に思えるが嫌味でつけられた総称だ。お前達のバケモノ男という名称の方がよっぽど性に合ってる」


 そのセンスはよく分からないけど、彼が神で無いことを知ったのが一番驚きだった。

 ミットさんは確か創造神と呼ばれていた。創造ということは明らかに神の中でも頭一つ抜けているはず、そんな彼女がバケモノ男に従うのだから相当な実力差が神々とこの男にはあるのだろう。神々とそれを越える者達の存在……あまりに天上の話過ぎて想像がつかない。

 そんな駄弁りを何分か行っている間にバケモノ男は私の傷を完治させ、ようやく本題に入った。


「それで、今回の修行はどうだった? 随分な成長は遂げたように思えるが、お前自身は満足出来たか?」

「……満足、というより私にはちょっとレベルが高すぎました。死ぬ覚悟はしていましたが当然のように死を突きつけられるところまでさせられるとは思いませんでしたから」


 正直、漏らすかと思うくらい怖かった。

 開き直りで立ち上がる気力も失うくらい圧倒されてどうしたらいいか分からなくなっていた。今回勝てたのは偶然としか言いようがない。


「人は極限状態が最も力を発揮しやすく成長するものだからな。一歩間違えれば精神的な病に陥ったり廃人と化したりするが、お前なら出来ると思った」


 バケモノ男はいつもみたいに何でも分かってる風にそう答えた。


「そう思えるのは、全能者だからですか?」

「そうだ。全能者だからだ」


 あの時答えてくれなかったその言葉に今度は瞬時に返事をかえした。


「それにお前が死んでも生き返らせる予定だったしな」

「え? でもあのとき生き返らせないって……嘘をついたんですか?」

「何を言う? 確かに死んだアイツはお前を生き返らせないと言ったが、この俺は言ってないぞ」


 ああそうだった。この人はそういう人だった。

 嘘は吐かないけど真実も言わない人、愛夏さんも口癖のようにそう言っていた。

「はぁ……」と深い溜め息を零すも、同時に少しだけ安堵した表情を浮かべた。


「ここは自らの強さに胡坐を掻いている者達が跋扈する世界だ。強さを求めて本当に命をかける者は少ない、それ故にお前達のような存在は俺の退屈を凌いでくれるのさ。ただ孤独に強さを高める日々にも飽きというものがあるからな」


 外道というには優しすぎるけど、いい人というには鬼畜過ぎる。倫理観もあるのかないのか、本当に考えの読めない人だ。

 ──というか今孤独に強さを高める日々って。


「……え、もしかしてまだ強くなるつもりなんですか!?」

「当然だ。俺はこの身この命が潰えるまで永遠と強さを求めるぞ。それが唯一の生き甲斐だからな」

「愛夏さん泣いちゃいますよ……」


 とんだ戦闘狂だと苦笑する。

 既に相手が残っているかも分からない状況で更に強くなろうとするなんて異常だ。神々に嫌われるのも納得と思ってしまう、というか同情してしまう。

 私の手を取って立ち上がらせたバケモノ男はその手に小さな魔法陣を描き、それによって作られた銀色の鍵のようなものを渡してきた。


「では桜よ、今後修行する場合はエントランスの中心に来るといい。これを持ってそこに展開してある魔法陣に触れればこの部屋に飛ばされ今回の俺と同等の強さを持った魔物が出てくる。そこで好きなだけ修行し、自分で納得のいく強さまで到達したらやめるといい」


 魔物……ということは知性面では圧倒的に彼に劣る。その点今回のような死闘を繰り広げる心配もなく、かといって真剣に相手しなければあっという間に足元をすくわれる実力差。

 バケモノ男にしては中々塩梅の良い内容の提示だった。


「はい!」


 以前とは少しだけ違う声色の返事をする。

 戦争の世界で育ち、奇天烈に始まった第二の人生は思いのほか悪くない。戦争の妄執に取りつかれていたあの頃とは違って自らの生き方を選択出来ている。

 抽象的な感情から生まれた生きるという目的。それは決して曖昧なものなんかじゃなかった、この戦いでそのことに気づけた。

 未だに光を失っていない、希望を見据えて未来を見ている。そんな誰よりも当たり前の生き方を、あの世界で出来なった当たり前の生き方をこの世界で成し遂げるために──。


 こうして私の修行は秘密裏に幕を開けたのだった。



 ◇◇◇



「……と言う感じで毎日エントランスで修行してました。愛夏さんの時と同じように時間と空間を隔てているので傍から見たら棒立ちしているように見えたかもしれませんけど、ここ1ヶ月ほどは毎日ずっと修行してましたね」


 パタンと本を閉じて長い長い語りを終えた。

 気づけば外はすっかり夕暮れ時、橙色の光が窓の隙間から射しこんでそれを教えてくれる。


「え、えっぐ……」


 クッキーを手に持ったまま口元半開きでドン引きしているレイラさん。愛夏さんも想像以上の出来事だったのかかなり驚いた様子で終始話を聞いていた。


「なるほどね、ようやくあんたの目が未だに光を失っていない理由が分かったわ。死を覚悟して強さを求めたわけじゃなくて、死にたくないから強さを求めた。私との明確な違いね。それで納得のいく強さを得られたか確かめるために先日一戦を申し込んできたということね」

「ご名答です」


 正直愛夏さんの矜持は凄いと思う。死を恐れない、目的の為に全てを賭ける覚悟がある。それは私には到底出来ない事だし見習う点も多々ある。

 でも、私はこの命を守るために強さを手に入れた。明日という当たり前の未来を掴むために小さなチップを払ったのだ。

 だからこれからも今あるこの命を大切にしようと思っている。


「ありがとう桜、とても勉強になったわ」

「いえいえこちらこそ」


 愛夏さんが珍しくお礼を言って頭を下げた。レイラさんもそれを見てすかさず頭を下げる。

 私はただ自分語りをしただけだったけど、この二人には何やら得られるものがあったようだ。特に何かに行き詰っているようだった愛夏さんはその活路を見出したかのような目付きに変わっていた。


『みなさま~、夕食のお時間ですよ~』


 ……と、そんな話をしていたら突然屋敷全体に放送するようにミットさんの声が響き渡る。

 どうやらもう食事の時間らしい。私はお皿に乗せてあったクッキーを頬張るように口に入れて素早く立ち上がる。

 レイラさんが「えぇ……」と若干引き気味でこちらを見ているが気にしない。


「さて、続きは食事の席で話しましょうかね。今日は海の幸が出るらしいわよ」

「本当ですか! 魚介類は帝国じゃ滅多に食べられなかったので楽しみです!」

「まだ食べるの!?」


 リスのように頬を膨らませながらもしゃもしゃ食べつつこれからの主食に夢を膨らませる。帝国ではロクな物を食べてこなかった分、この屋敷で出される美味しい食材は全て食べ尽くすという信念がある!

 それに帝国にはこういう名言があるんです。『おやつは主食、主食は別腹』と……!

 口の中に放り込んだ甘くて美味しいクッキーを全てのみ込んで天高くガッツポーズをする。もちろん白い目で見られつつ両者にスルーされた。


「あれ? でもこの近辺って海とか無かったような気がするけど……?」

「ミットが世界の裏側まで飛んで行って捕まえて来たんじゃないの、最近料理人を攫った……雇ったみたいだし食材さえあればなんでも作れるでしょ」

「あ、相変わらず常識外れの行動だね……」

「この屋敷ではそれが常識よ、あんたも強さを求めるのなら早めに受け入れる事ね」

「は、はいぃ……」


 渋々返事をするレイラさん。でもその気持ちは凄くわかる。

 私も初めてこの屋敷に来た時はあまりの倫理観の無さに顔面蒼白待ったなしの日々だった。特に愛夏さんと遊戯神の戦いは今でも思い出すと身震いする。あんな残酷なことがあっていいのかと今でも恐ろしく思う。だけどそれはいつか受け入れなければいけない問題で、そのいつかは自分で覚悟を決めた時でしかない。だから私はすぐに自分に言い聞かせた、納得したわけじゃない。そういうことも起こり得るのがこの世界なのだと認めたのだ。

 その上で前に進むことを決めた。明日を生きる覚悟を決めた。

 気づけばそこに立ちはだかる非常識なんて壁は、もうどうでもいい事だと思えるようになってくる。異常が正常だと勝手に受け入れられるようになる、そうしないと話が進まないのだから。


「まぁそのうち慣れますよ、というか慣れないと殺されますよ」

「桜ちゃんのその脅しほんと怖いんだけど」


 別に冗談で言ってるわけではないんですけどね……。

 そんなこんなでまた話が盛り上がろうとしていたところに今度は少し大きめな声で屋敷全体に放送が入った。


『み~な~さ~ん~? おしゃべりしてないで早く食卓の間へ来てください~!』


 盛り付けをしているのか、カチャカチャと皿の重なる音が同時に入る。こうして料理しているところを見るとミットさんが段々と本格的なメイドに思えてきた。創造神とは一体……。


「あら、見られたみたいね。それじゃ食事が取り上げられる前に行きましょうか」

「はい!」

「うん!」


 ミットさんに怒られる前に読んでいた本を片付けて図書館を後にし、急ぎ足で食卓の間へと向かう。

 長いテーブルを隔てていつもの席に座ると端の方にバケモノ男がいた。窓際に立ちワインを片手に既に食事を嗜んでいるようだった。

 そして自慢げな顔で料理を運んでくるミットさん。皿の上には海の幸が豊富に飾られており、見ているだけで食欲が湧き涎が垂れてくる。


「さあ好きなだけ食べてくださいね~あ、おかわりは3回までですよ~!」

「「いただきまーす!」」


 レイラさんと声を合わせて両手を合掌。無言で黙々と食べ始める愛夏さんを外目に目の前に置いてある綺麗な桃白い色をした刺身を一つまみ。醤油に浸してご飯と一緒にパクっと口の中に入れる。

 ──これはッッッ!!


「美味いか」

「ええ」

「すっごくおいしい!」


 即答するレイラさんと愛夏さん。しかしバケモノ男は間を置いても反応を見せず、窓越しに反射するその目線が私の方を見ていることに気が付く。


「……とっても! これで明日も生きる気力が湧いてきました!」

「──ふ、そうか」


 普段絶対に見せない彼の笑った表情が反射した窓に映った。

 まるで人間のような暖かみのある表情。……それを見て、この人が神にならない理由が少しだけ分かったような気がする。


「あっちょっとそれ私の!」

「早い者勝ちですよ~!」

「あんた達もう少し静かに食えないの?」


 かつて帝国で食べていた十数年のパンの味を忘れるほどに美味しい料理を頬張りながら、私は今日も楽しく人生を謳歌する。

 何かを目指したり誰かを倒したりなんて、そんな立派な目標はまだ何もない。ただ意味のない1日を過ごし、意味の不明瞭な明日を望んでいる。誰もが当たり前に感じているその日々を私は今まで得ることが出来なかったから、平々凡々と訪れる次の日に感謝しない日は無かったから。

 だからその目標は、誰よりも普遍的で当たり前な答えで返そうと思う。


 ──私は、東雲桜は明日も生きる、と。


「ミットさん、ご飯おかわり!」

「私もおかわり!」

「私も頼むわ」

「お前達今日はよく食うな」

「は~い!今用意しますから待っててくださいね~!」


 夕日が落ちて暗がりの屋敷が月に照らされる。静寂に包まれた無人の森と共に。

 それでも食卓の間だけは最後まで賑やかに光り輝いていた。


2023年11月27日追記。

大変お待たせしました!本作ロリ剣士の完全版である『不老少女は朽ちず、強さを求めてただ剣を振るうのみ~強すぎる復讐相手を基準に修行を続けていたらいつの間にかそこら辺にいる英雄を越えていた件~』が連載決定しました。


正式な連載日時は後日活動報告などでご連絡いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ