第五話「神より強い男」
「……っ!──おぇぇ……っ……」
私は目が覚めた直後に血だまりを吐いた。
痛みはないけど、全身に力が入らない。
「目が覚めましたか」
私の起きたタイミングを見計らったかのように部屋に入ってくるミット。
嫌なトラウマが走馬灯のようにフラッシュバックしたが、あの時対面した異常な殺気はもう感じなかった。
「……私、どれくらい寝ていたかしら」
「3ヵ月くらいです」
「……質問を変えるわ、その3ヵ月間で何回死んだのよ」
「11回です」
体が動かないのはそのせいか。
まさか寝ながら死ぬなんて芸当を繰り返していたとは……。
「……はぁ」
私は仰向けになり天井を見つめる。
このままここで休んでいてもまた餓死を繰り返すだけ。早めに体を動かせるようにならないと。
そんな私を見てミットは感心したように告げる。
「主人より食卓まで自力でこい、だそうです」
「主人?あー、あのバケモノ男ね。と言うかどう見てもあんたの方が強そうなのに主人って立場なんだ」
私の言葉に首を傾げるミット。だが私が誤解しているのを理解すると、笑うように衝撃の事実を語る。
「主人は私より強いですよ、私が本気を出しても5分耐えればいい方です」
「──は?」
さらっととんでもない事実を聞いたんだけど、嘘を言ってるようにも見えない。
星が砕ける程のパンチを数時間止むことなく打ち続ける神に5分で勝てるバケモノ男って……。
私は頭が痛くなるのを抑えて苦笑いする。
「と言うかそれ大丈夫だったの?この世界よく保ってられたわね」
いくらバケモノ男が強いからと言ってミットと最初から一緒にいるというわけでもないだろう、きっと一度くらいは戦ったことがあるはず。そしてそんな二人が戦ったらこの世界が保っていられるとも思えなかった。
そして、そんな疑問を抱いていた私を一瞬で消し飛ばした言葉はあまりにもひどかった。
「いえ、元々この世界は宇宙の次に広い大陸だったのですが、主人と私の余波で銀河規模で跡形もなく消滅しました」
信じられない事実を無理矢理頭の中に詰め込まされる。
……あのバケモノ男は本当の意味でバケモノなのでは?
今の今まで如何に自分が手加減されて弄ばれていたのかが納得できた。というかこんな常識外れの二人がいる屋敷に人間の私が住み着いてるなんてどうみてもおかしいでしょ……。
「……はぁ、私そんなやつを殺そうとしているのね」
「この事実を聞いてまでそんな反応で済むなんて、こちらの方が驚きです。愛夏さんは本当に主人を殺すつもりですか?」
「ええ、もちろんよ。例え神だろうとその上を行く存在だろうと、この命が尽きても地獄から這い上がって殺しに行くわ」
その言葉にミットは少し驚いたような、満足したかのような笑みを見せ深くお辞儀をする。
「では、食卓で待っています」
そう残すとミットは体が分解していくように消え去った。
「さて、私も行かないとね」
なんて軽口で言っているが、体が動かない。
「……あと何回か餓死しそうね」
比喩じゃない言葉に自分で言って自分で驚いた。
こんな言葉を人生で言う日が来るなんてね。
◇◇◇
食卓に沢山の料理を置き、その人物が来るのを待つ。
「どうだミット、面白い人間だろう」
「あのような人間初めてです、と言うより本当に人間なのですか?」
私は怪訝そうに質問する。愛夏は見た目が人間なだけかもしれない、事実私や主人も見た目は人間と同じなのだから可能性が無い訳では無い。
しかし主人はハッキリと断定する。
「あれは人間だ、今まで話してきても一切嘘をついていない。地球という星で不老の薬を飲んでずっと修行してきたらしい」
「不老と言っても人間の体では限界があるのでは?」
主人は少し考えるが特に細かいことは気にしない様子だった。
「……さぁな。ただ愛夏は人の子でありこうして俺の元まで来た、その事実が全てを物語っているからな。人間であり、今こうして存在している。その二つが事実であるならその過程で何をしてようと関係ないな」
主人が席に座ると次いで私も席に着く。
風味のあるワインを片手に回しているのを見ているとかなり機嫌が良いようだ。
「随分と興味を抱いているのですね」
「今まで俺を殺しに来た者は沢山いた。それは超人的な力を持った者から天地をひっくり返すような遊戯者まで。だが、どれもつまらない存在だった」
神である私を数瞬で消滅させた男が言うのだ。本当につまらない存在ばかりなのだろう、私も含めて。
「だがあいつは人の身でここまでやってのけた、俺の予想を遥かに上回る精神力を持って。俺は玩具として扱うつもりだと、そう言ったのさ。そしたら愛夏はなんて言ったと思う?」
玩具は所詮玩具、壊れるまで弄ばれ、壊れたら捨てられる存在。
「既に壊れてるオモチャはこれ以上壊れないって言ったんだ。正直興味が増した、面白かった。あいつは敵の俺に何度殺されても皮肉のように俺の面を見て言ったんだ。本当に惹かれる存在だよ、愛夏は」
こんなに嬉しそうな主人を見たのはいつ以来だろうか。闘争に喜びを求めていたこの男が、人間の小娘に興味を抱くなど誰が予想したのだろう。
いや。愛夏が自分を何が何でも本気で殺そうとしているからこそ、闘争を求めてきた主人にとっては嬉しいことなのだろう。
全く、私もいつ追い抜かれるか溜まったものじゃない。
──そんな話で盛り上がっていた所、入り口先の食卓の扉が開いた。
「……はぁ……はぁ……くっ……」
そこには真っ青になりながらも壁に寄りかかり歩いている愛夏がいた。
「ふむ、よく来たな。ちゃんと"立っている"ではないか。約束だ、お前の世界のご馳走を用意したぞ」
「もう、何ヶ月も経っているわよ……食料が腐っているんじゃないでしょうね」
愛夏が疑惑の目でテーブルに並ぶ料理を見る。
「安心しろ、お前が寝ていた数ヶ月はあくまで"お前の中での時間"だ。俺は昨日食料を取ってきたばかりだぞ?」
「……まさか、あんた……時間も止めれるの?」
「愚問だ、時くらい無限に止められる。お前は老いないのだからこれが効率的だと思ったのだがな」
その言葉に頭を抱えだす愛夏。
まるで主人の常識についていけない様子だったが、どこか諦めたような表情でため息を吐いて席に座った。
「はぁ……もういいわよ。早く食べましょう……」
全員揃って初の3人での食事。
この世界に来て初めて人間界の料理を頬張った愛夏は、死んだ瞳を輝かせながら次々と食べていき見事食卓に並んだ料理を完食した。
──しかし、ここ半年以上何も食べていなかったせいで胃が動かず何度も吐き戻して死にそうになったのはまた別のお話。
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