第四十九話「舞い上がれ桜吹雪」
少し前に屋敷の書庫に数万と置いてある魔法書をいくつか読み漁ったことがある。
そこには魔法の真理と呼ばれるものがいくつも書かれていたが、結局それが何を意味しているのか理解することはなかった。その複雑さ故に今後も理解することはないのだと勝手に成長を止めていた。
──たった今、理解した。
世界はモノクロである。
ペンキで塗られた鮮明な建築物も、鏡に反射する真紅の瞳も、全てはただの偽物。かつてはその目に映る景色を彩で満たしていた幻想的な奇跡は色を忘れて眠りについた。
今のそれは色を宿していない。紛い物、レプリカ、副産物。
本当の奇跡とは無粋な詠唱発言など必要としない。祈り、願い、そして自らの力で生み出していく。どれだけの修練を積んでも会得出来なければ、すぐに使えるようにもなる。色に触れた者だけにその権利が与えられ、地力や努力など無意味に等しい。
モノクロの世界に置き去りにされた明確な"色"、それは常として己の身に既に存在している。
魔法陣を形成する時、必ず光が漏れ出る。それは直視することを自然と辞めてしまうほどに綺麗で眩しい光。
一瞬ならばその光は白色か、もしくは黒色の光に見える。でもごく稀にそれ以外の色が見える時がある。
バケモノ男の魔法には僅かに紫色のような光が視界に映ったような気がした、気がしただけ。
それはほんの一瞬で、認識するにはあまりにも早すぎる刹那の時間。人はそれを感覚でしか捉えられないと思うし、事実認識するには至らなかった。
──だから、その色を掴んだ。
魔法に置ける原理原則は誰かに認知された瞬間にそれを可能とする。それは奇跡だって同じこと。身に降りかからなければ幻想として幕を閉じるが、体感すればその奇跡は現実としての軌跡を残している。
バケモノ男が放った数種類の色彩叢書、本物の魔法と言われる正しき色。
私が『広範囲・業火爆炎放』を放った時、そしてバケモノ男が同類の魔法の神髄を見せた時、明確な違いを掴むにはここしかないと思った。
それは感覚でしか言い表せない何か、泥沼に手を突っ込んで掴み取った宝石のようなもの。感覚では分かっていても口には出せない。元よりそれを口に出せて言語化出来ていたのなら本にもそう書いてあるはず。書いていないのは遠回しにしか伝える事しかできないものだから。だから読者は永遠にその真相に辿り着けない。
そもそも本来そんなものは存在しない。存在しないことが世界の常識として紡がれその理を回している。
だけど今の私には見えている、自身に宿る色がぼんやりではなく明確に映っている。
それはさっきの魔法を直に触れたこの右手が教えてくれていた。
指の先が消し飛んで出血すらしていない。焼けて真っ黒に染まっている第二関節に彼の放った魔法の魔力が付着している。赤く光る靄が視界に映るどの彩色よりもその色を強調している。
──私の眼は、この時初めて本当の色を認識したのだ。
「やはり、あなたは全能者じゃない」
「……なんだと?」
意表を突いた言葉にバケモノ男は眉を顰めた。
自分に向けられた死の宣告の魔法を前に、私は自身の発言の証左を突きつける。
彼と同じ声色で、彼と同じ音階で、彼と同じ感情で、彼と同じ魔力で。確か、こんな感じだった。
「『■■ST■■CTI■N』」
僅かに微笑んだ口から破壊の定数が刻まれた。
願いは言霊となり、言霊は魔法陣を生み、魔法陣は魔法を紡ぐ。本来在るべき色を取り戻したそれは赤とも白とも呼べない絶妙な色を模して小さき欠片が散っていく。
直後、バケモノ男の手のひらの上で踊っていた球体が弾け飛んで消えて去った。ただその事実だけが互いの視界に映った。
「バカな……」
心の底からの、初めてとも言える明らかな動揺がバケモノ男の表情から見て取れる。
勝ちを確信していた男の目から、余裕が消えた。
「かつて私の恩人が言っていました。生きるということはかくも普遍的な概念で、それに挑むことは誰よりも辛く、そして理解されないと。でもその上で明日を生きろ、泥沼を這いずる人生を謳歌しろって無茶難題を押し付けてきたんです。こっちは何も喋ってないのに言いたいことだけ好き勝手言って去っていったんですよ」
今まで後ろに下げていただけの足を前に進める。
服は焼け焦げ、見えた皮膚は青紫色に変色し、顔は血と涙でぐちゃぐちゃに染まりきってそれが強者と呼ぶには相応しくない姿。
圧倒的な力の前には屈するだけのただの人間で、軽く仰げば吹き飛ぶほどの矮小な存在。
「そんなたった数十分のそのやり取りを今でも覚えてます。あのとき死に溺れそうだった私を救ってくれた唯一の人の言葉でしたから。白黒の世界に生きていた私にも色はあるのだと見抜いたのでしょう、展望の春と言ってくれたあの比喩の意味がようやく解りました」
そんな弱者を前にすれば強者はいつだって余裕な態度を取るだろう。明確な実力差を前に自身の勝利を揺るがぬものとし、勝ちの決まった戦いに愉しみを生み出す戦闘狂のようなものだ。
天秤は常に上下にしか動かず、力量を見極めれば単純ないたぶりと成り果てる。
人間はいつの世も弱者であり、その立場を強いられるべき敗者である。
……だけど、その順当な天秤を壊してきたのはいつだって"人間"だった。
「ここまでは私の人生。そしてここからは──私の人生です」
「ぐっ──!」
無から力が溢れ出た。空っぽだった体内から無限に湧き出る身に覚えのない魔力。それは抑え続けることも出来ずに駄々洩れように溢れ出て、地面の熱に当たり蒸気を発する。
背後からは空間が割れるような音が聞こえ、その穴から淡紅色の光が射している。
「人の身でありながら魔法の真理に、彩に触れたのか。……お前の魔力は既に無くなっているはずだが、自力で理を跳ねのけたとは」
極彩色が舞う。けたたましいほどの色がモノクロの世界を塗りつぶす。バケモノ男の視界にのみその異様な光景が映る。
私は折れた刀をバケモノ男に向け、今までの待遇に対する軽い意趣返しをした。
「自己紹介が遅れました。私の名前は東雲桜といいます。以後、お見知りおきを」
思えば私はこの人からお前だの人間だのとしか呼ばれていない。ならばこれからその身を下す相手の名前くらい覚えてもらわなくちゃ困る。
次に始まるであろう互いの一閃を前に私は暫し笑ってその名を口にした。愛夏さん以外に対する初めての自己紹介である。
そんな私の行為にバケモノ男は少しばかり驚いた表情を見せたあと、楽しそうに笑った。
「……覚えておこう!」
水色のガラス板。外壁を囲う緑と紺色の茨。後方で燃え上がる青白い炎。
今まで見てきた偽物の彩色とは違う紛れもない色鮮やかな景色が視界に入る。
周りに渦巻く淡紅色の煙は柄を通りありもしない切っ先を形作る。揺らぐような迷彩の切っ先が浮かびあがる。
色は映しておらず、不安定な形を以て靡いていた。
この男に下手な小細工は通用しない。だから極上の細工でトドメを刺す──。
これまでの戦いで一つだけ分かったことがある。
それはバケモノ男の意識が常に一つだけしかないということ。何を当たり前のことをと思うかもしれないが、この男に当たり前なんてものは無いに等しい。
常に破壊的な攻撃を行い、尋常ならざる魔法を放ち、そして移動速度も常人からまるで逸脱している。おまけに攻撃を受ける際は全てにおいて無力化、いや効いてないと言った方がいい。
それほど全てにおいて何一つの欠点がない状態だった。
だが、それらの行動は決して重複していない。
刀で彼の腕を斬ろうとしたとき、まるで金属でも斬っているかのように呆気なく弾き飛ばされた。
しかし彼の意識が守りの姿勢に向いていないとき、その腕は人間のものと差異がないほど柔らかくなっており簡単に切り落とせた。
最初は彼女の力によるものだと思っていた。だけど違う、彼女は私に力を貸したわけじゃない、自力で勝つための道を教えてくれただけだ。
自分の力で戦ってみて、近接戦や魔法戦を幾度も体感してその答えにようやくたどり着けた。バケモノ男の意識は常に一つしかない、常軌を逸した力を発揮するためには行動を単独に分割する必要があるのだと。
その証拠に彼はその場から一切動いていない。動くという行動と攻撃を行うという行動にワンテンポ挟んで複合していた。私が彼の攻撃をギリギリ避けられていたのもそのワンテンポの隙があったからだ。
そもそもあれだけの力を持っているのだ、仕留めるなら私の背後に瞬間移動して即その鉄拳を振るえばいいだけの話。魔法も然り、至近距離の死角から放てば避ける暇もない。
だが彼はそれをしなかった。手加減をしていたと言われればそれまでかもしれない、でも彼は決して嘘を吐かない。本気を出すと言ったからには自身の矜持に従ってその通り容赦のない姿勢を見せるのが彼のポリシーだ。
だから私が勝つにはここしかない。彼の意識が防御に回せないほどの隙を作り、そこに全力の一撃を叩き込む。いいや、防御してもそれを砕くほどの手数で突破する。
つまりやることは単純明快ただ一つ。
「真正面からぶった斬る──!!」
掴み取った色は何色だ、白黒に飾るは如何なる色彩だ──!
虚空を埋めるほどの量を突き刺し、敢然とした一閃を叩き込む。
全能無き威厳に風など吹かない、神の排斥は常に人間の一振りだけだ!
「よかろう。これが全魔力を込めた魔法だ、避ける事は叶わぬ。死の希望を乗り越えた矜持を示してみろ、東雲桜!」
ついにその目は背丈を共にし並び、同格のみに許された視線が交差する。
互いに歯を見せるほどの力みを発した瞬間が決戦の合図となり、火花を散らした。
「色彩叢書第十節──」
「舞い上がれ……ッ!!」
刀を振り上げ未知の魔力を解放する。
本当の全力とは文字通りと言わんばかりに両手で大円の巨大な魔法陣を描くバケモノ男。明らかに対人間を想定していない、以前の私なら青ざめた表情で戦慄して逃げ出している。
そんなことを思いながら鬼気迫った表情で目の前のそれに対峙した。一歩も引かずに真正面から捉え、制御しきれないほどの力が籠った刀をしっかりと握りしめた。
「もっと、もっと──ッ!」
バチバチと弾ける光が私とバケモノ男の辺りを覆う。それは瞬時に桜の花びらとなり、何もないこの空間に満開の淡紅色で彩を付けていく。
バケモノ男はそんな光景に目もくれず、目の前の敵を屠るための一撃を解き放った。
「──『ATOMIC・RAY』」
「──今!!」
バケモノ男から強烈な電撃を帯びた熱光線が放たれる。
色は内側が白く外側が黒い棒状の光線、触れずとも近寄るだけで全身が焼け落ちることを容易に想像できる恐怖の魔法。
しかしそれを目で捉える頃には既に手遅れで、私は体に巨大な穴をあけて全身を貫かれていた。
──だがその体は突然桜となって散開する。散開した桜は瞬時に焼け焦げ灰も残さず熱量で燃え尽きる。
熱光線は最奥の壁をいともたやすく貫き、屋敷のエントランスが見えるほどの次元の穴をあけた。
「……なるほど」
バケモノ男の最大の攻撃を見切った私は彼の死角となる後方で舞う桜から実体を現し、これ以上ないほどの隙を前に勝利を確信して刀を振りかざす。
全力全開の一撃、これが決着だとそう思った。──互いに。
「俺の弱点を見極められた所までは褒めてやろう。だが深い考えは時として単純な答えを見落とすものだ」
「──っ!?」
バケモノ男は振り返りもせずにすかさず両手を合わせると、両サイドに手を広げて魔法陣を展開した。──全方位に。
「無理難題な理不尽を前によくぞここまで戦った。100点だ、これで文句ないだろう。満足して死ぬが良い」
バケモノ男は先程と同等の巨大な熱光線を全方位に向けて放った。比喩ではない、四方八方360度全方位に向けてその熱光線を放ったのだ。
光線は放たれると同時に光の速度で放射し、私は避ける間も無くその光に貫かれて抹消される。辺りにあったものも全てが無となり消し飛ばされる。毒を吐いていた茨も焼けるような熱を帯びた壁も粉々に貫かれて屋敷の外にいる魔物達まで燃え尽き死滅した。
上空を舞っていた桜も熱光線が生み出す余波の熱で灰となり黒焦げになって地面に落ちて再度燃える。
圧倒的な力の差、それは二人の勝敗を明確に切り分けた。
「……ふむ、甲斐性もなく本当に全力を出してしまったな」
屋敷の全方位に次元の穴をあけたことで空気が入り乱れる音が激しく聞こえる。それでも数キロ先の遥か遠方なのでこちらの空気が冷えることは早々ない。割れた次元の隙間から覗き込んだミットが無言で手際よく外壁を修復し始める。
未だバケモノ男の周りは黒煙が渦巻いておりほとんど視界が見えない。
一枚の桜がバケモノ男の頭上にひらりと舞い落ちる。
────。
黒煙が薄まり、明けた視界の中に私の気配が無い事を悟ったバケモノ男はこれ以上ないほど焦燥した顔で上を見上げた。
「──まさか」
灰となっていたはずの桜が色付きを取り戻し辺り一面に舞い上がる。見惚れるほどの淡紅色がバケモノ男の視界を埋め尽くす。
その上空から姿を現した私に切歯扼腕する彼の表情が窺えた。
「色彩叢書第■■節・『桜吹雪』ッッ──!!」
狂い咲く桜の渦を斬撃に込め渾身の一刀を放つ。
情景に混じりガラスに映らない幻の桜、新たな色彩生誕の奥義。そこに映る景色は満開に咲き誇る幻想的な桜そのもの。
振り下ろした斬撃はバケモノ男が対処するよりも先にその腕を真っ二つに両断した。血飛沫すら上げない綺麗な切断が柔い肉片を切り離し、追尾する幾多もの残撃が上空からバケモノ男の体を穿つ。そしてすかさず第二撃を放つべく地面を蹴った。
雌雄を決するは今──。
「頂きは遠いぞ桜ァ!!」
血塗れになった全身をものともせず咆哮を放ち背後に数百は越える魔法陣を展開するバケモノ男。
これは全力じゃない──本気だ。本気で殺しに来てる。
私が第二撃を入れるよりも先にバケモノ男は無詠唱で強制的に魔法を発動させ、自分すらも巻き込むほどの熱風と雷撃が辺り一面に巻き起こされる。
今度は部屋全体を覆うほどの攻撃。強者と言えど二度同じ失敗は犯さないバケモノ男の本気がこの熱風と共に知らしめる。
「ぐッ、ァア、ァあぁああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッ!!!!」
その威力は想像を絶するものだった。
魔法で防御していても信じられないほどの熱さが伝わってくる。脳が焼け落ちるような痛さと眩暈が押し寄せてきて今にも意識を失ってしまいそうになる。擦り切れた魔力が千切れるように削れていき、むき出しになった神経をやすりですりおろされているかのような痛みを感じ始めた。
摩耗した精神が限界を迎える。継続して力んでいた筋肉が痙攣して自由が効かなくなる。
「……──ッッッッ!!!!!」
心臓がバクンと、聞いたこともない音を立てた。
何かが爆発したような感覚が胸の内から全身に流れていく。時間が遅くなっているような状態が何秒も続き、鈍化していた思考が突然加速して全ての物事を許容し始める。
その直後、精神が限界を越えて自身の核の扉をこじ開けた。
「……吹、き……──荒れろォッ!!!!」
熱風の中から極彩色の桜が舞う。荒れる。吹き荒れる。
光る何かが私の中で走駆した。朦朧としていた意識が一気に覚醒する。
耐え難いほどの暑さはいつの間にか涼しい風のように感じ、バケモノ男との距離があまりにも近いような気がした。
──だから、踏み込んだ。
「なにッ!?」
この熱風の中たった一歩地面を蹴っただけでバケモノ男の目の前まで距離を詰める。
驚くバケモノ男だが、その頃には全身に斬撃の跡を刻まれ全身から血を吹き出していた。
「くっ、色彩叢書第一節──」
「遅いッ!!」
バケモノ男が詠唱するより先に斬撃を命中させる。10回、20回、30回。1秒すらも越える速度で全能者の体を微塵に切り刻む。
やがては事前に張っていた防壁のようなものも破壊し、いよいよもってその生身へと斬撃を叩き込もうとした瞬間。
「このッ俺をッ舐めるなァ!!」
巨大な魔風がバケモノ男から溢れ出し、尋常ならざる一撃で私の放った斬撃を弾き飛ばした。
それどころかそのまま拳をこちらまで突き出し刀ごと粉砕しようと拳撃を放つ。それによって刀を弾かれ全身の体勢が崩れる。
だが決して刀は手から放さずその遠心力を利用してバケモノ男へと回し蹴りを浴びせ、その足の力のみで遥か彼方へと吹き飛ばす。
遠方まで飛んで行ったバケモノ男は壁にぶつかり前のめりになるが、それより速く頭を掴み顔面へと膝蹴りを浴びせる。
「グアぁッ!?」
「ハァアアアアッッッ!!!」
一切の反撃を許さず斬りつける。薄い淡紅色を纏った見えない切っ先で数えきれないほど斬りつける。
一方的な攻防は十数秒続き、ボロボロになったバケモノ男が僅かな隙をついて必死の攻撃を仕掛け刀を弾き飛ばす。が、すぐさま手を伸ばして取り返し、その刀に魔法を付与して間髪入れずに激昂した。
「人間を舐めるなァッ!!」
防御しようとしたバケモノ男にゼロ距離で魔法を付与した刀を振り下ろし自分諸共爆発させる。
過剰なまでの威力を乗せた一撃。しかしバケモノ男には一切のダメージは入らない。
そしてこれを僅かな隙と捉えたバケモノ男は黒煙で埋まった自身の視界が明けると同時に反撃に転じる姿勢を見せる。
だがそこには、同じく全身全霊の一刀を下さんとばかりに構えた私がいた。
「しまっ──!?」
精神は完全な状態へと進化し、ひとつの臨界点へと至る。
刀は完全に折れており、刃は根っこからほんのわずかしか鋭利さを見せていない。魔力で形成していた切っ先も薄らいでしまい、短剣よりも短いその凶器を刀と呼ぶにはあまりに乏しい玩具と成り果てている。
だがその勢いが途絶えることはなかった。猛然と火炎が舞うこの部屋で壊れた刀を大きく振り上げているその姿は、誰よりも勝利への渇望を手にしている生者の瞳。
希望へと突き進む未来の眼だ。
「っはッ、ハァ、ハァ、この一撃は、絶対にッ、当てる──ッッ!!」
既に無くなっているはずの魔力。その常識に逆らうように青い靄に包まれた桜が舞い上がり、黒く赤い血の羽根となって鋼鉄のような棘を見せる。
それはまさに一瞬の出来事で、攻撃に転じていたバケモノ男がその意図を理解して防御に転じるまでの猶予は存在していなかった。
私が刀を振り下ろしたと同時にそれらは一斉に飛び出し、バケモノ男を貫かんと無数の光が集中放火する。防御に転じていなかったその体は一瞬にして無数の蜂の巣と化す。
そこへ私の渾身を越えた全力全開の一撃が加わった。
「──合格だ」
自身へと刀が振り下ろされる直前、バケモノ男はそう一言だけ呟いた。
そして天地開闢に等しい轟音と共に一刀両断の餌食となり、屋敷全体を崩壊させる程の衝撃が辺りに響き渡った。




