表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリ剣士  作者: 依依恋恋
東雲桜編
48/51

第四十八話「天上の存在に挑む人間」

 

 睨み合いは不動の如くその場を動かないバケモノ男と、じりじりと体勢を移し替えて距離を詰める私との僅かな間で行われた。

 そして互いの攻勢が噛み合った時、第二戦は早くも始まる。


「──ッ!!」


 私はバケモノ男の目の前まで一気に縮地した。

 50mはあった距離を一瞬で詰めた私にバケモノ男は関心した表情を見せる。


「素晴らしい魔法だ」


 隙を見せず素早く刀を逆手持ちに組み替え下段から切り上げる。姿勢を崩しながらもそれを避け地面を蹴り距離を取ろうとするバケモノ男に持っていた刀をそのまま投げつける。

 投擲は意表を突き、一定の速度で後方に下がり続けるバケモノ男が投げられた刀を弾くとその後方から赤い魔法陣を3つ形成した私が魔法の詠唱態勢に入っていた。


「むっ……」


 私とバケモノ男が接触する直前で放たれた魔法は燃え盛るような火炎の渦。

 痺れるような腕の痛みを必死に堪えて解き放つ。この熱き地面の温度の何十倍にも及ぶ業火の帳に彼を閉じ込める。

 逃がさない、絶対に──。


「後ろだ」


 火炎の焼き切る音が感触を伝える。意図したものとは思えないほど熱を通していない。

 背後から聞こえてきたその声は、既に彼の蹴りを躱した後に聞こえた。

 飛ばされた刀を拾いつつ反射的に応じた回避は空を切る音を呼ぶほどに速く、そして的確な隙を捉える。


「はァッ!!」


 放っていた魔法を止め即座に抜刀、寸分違わず反撃に転じる。攻撃の隙を与えない、詰めて詰めて更に追い詰めるまで。

 詠唱に失敗した魔力が体から溢れだすが、それでもデタラメに詠唱した魔法で攻撃を繰り出し同時に刀を振り続ける。流星のように消え光のように現れるバケモノ男を必死に目で追いかけ続けた。


「──ッッ」


 朦朧とする意識を強制的に覚醒させ、疲れた体を自力で癒す。魔力の全てを身体能力に費やし、それでも足りなければ辺りに漂う魔力の残滓を無理やり使って魔法を放つ。


 躱し、避け、捻り、振るい、避ける。


 幾多もの攻防が目に見えない速さで行われ、回避に徹してばかりの私は隙を見てなんとか一撃を叩き込む。

 振り下ろした刃がバケモノ男の腕に当たり甲高い金属音を生み出す。だが一向に斬れる様子が無い。


「なるほど」

「くッ……!」


 防いだ腕を削ぎ落す勢いで刀を握る両腕に全力を込めるがびくともしない。

 まるで本当に金属を相手に切り付けているかのような感覚で、先程のような柔らかい肉質はやはりどこにもない。


「なら──ッ」


 受け流された剣筋を回転させズレる重点を遠心力に変えて再び全力で叩き込む。

 今度は岩をも砕く勢いで刀を振るった。


「ハアァァ──ッ!!」


 だが、やはりその切っ先は彼の腕を斬ることはなかった。


「終わりだ」


 そういってバケモノ男は迫りくる切っ先を素手で掴むと、まるで赤子の手をひねるようにその刀を真っ二つに折った。


「ぁ──」


 折れた切っ先が宙を舞う。鋼鉄を斬っていた手に虚しいまでの感触が伝わってくる。

 唯一の武器を失われた私は呆気の顔で宙を舞う切っ先を目で追った。

 切っ先は地面に落ちると蒸気を発し熱せられる。


「はぁっ、はぁっ……」


 何度も突きつけられる実力の差、それは明確で変えようもない事実。如何なる手を使おうとも私の刃は彼の足元にすら及ばない。

 毒を防ぐために常時魔力を注ぎ続け、熱を防ぐために微量の氷魔法を自身に纏わせ続ける。

 酩酊が襲う。魔力不足による酔いが判断を鈍らせる。

 限界はとうに超えていた。


「ふむ、そろそろ9時間が経過する。もう十分だろう、今日はここまでに──」

「ハァァアアアアッッ!!!」


 バケモノ男が後退しようとしたその隙をついて剣撃を叩き込む。一瞬驚いたバケモノ男だがすぐさま攻撃を受け流す。

 認めない、その言葉に耳は貸さない。

 この男が戦いに置いて慈悲を与えることなんて過去に一度たりとも無かった。それを言うのは失望の表れだと彼女が言っていた。

 私は攻撃をやめることなく刀を振り続ける。


「言葉を変えよう、その程度ではまだ届かないと言っている」

「それは全知全能のあなたがそう思ったんですかッ!!」

「──!」


 いつも戦いに置いてのみ興味を示し続けた、そんな男が自らの戦闘を退こうとしている。

 威風堂々ないつもの彼とは違う、微かな違和感。


「もしそうなら大人しく引き下がりましょう……! 全能のあなたが言うのならそれが正しい。でも、もしそうじゃないのなら、私はまだ戦えます──!!」


 残された魔力を全開に解き放ち、絞り尽くすように魔法を放つ。

 ここで終わってもいい。今まで逃げ続けて生きてきたのだから決してここで逃げる選択が間違いだとは思わない。

 だけど、それは今までの自分を肯定して凡庸のままでいることを認めるようなものだ。

 真っ暗だった視界にほんのわずかな光が射している。それを無理だと諦めて蹲るのは今までの私が散々してきた行いに他ならない。

 そんな妥協はもう十分、十分なんだ。


「──そうか」


 バケモノ男は向かい来る私の魔法を指を鳴らして一瞬で消失させ、組んでいた腕を降ろして私を見下ろした。


「ならば手加減は要らないな」


 火、水、土、風。それぞれの属性を含んだ球体がバケモノ男の手に出現する。

 球体はまるで高速で回転しているかのように激しさを増し、触れれば肉片すら残らないような威圧感を放つ。一目見るだけで命の危機を感じる、そんな球体が4つ。

 バケモノ男は今までにない真剣な顔で詠唱すると、その4つの球体を掛け合わせて禍々しい一つの球体へと重複させた。


「色彩叢書第二節・『ELEMENT(四属魔法)』」


 見たこともない銀色の魔法陣が球体の上に浮かび、二重になって陣が反転する。それを私へ向けて軽く放つと目で追うことも出来ない速度で勢いよく飛んできた。


「──ッ!?」


 小さな球体は直前で巨大な球体へと膨張し、視界を完全に覆いつくす。

 そして一瞬の閃光が走駆すると球体は爆発。水と土の刃が弾け飛び、それらを混在するように火炎の嵐が吹き荒れた。


「これが本当の魔法というものだ」


 その魔法は今まで使っていたものとは明らかに次元が違うと一目見て思った。魔王である彼女が使っていた魔法よりも遥かに格上、魔法の為ではなく目的の為に存在しているかのような攻撃。

 私は飛び出す石礫を刀で弾きながら必死に後退する。まともに正面から対応できる魔法じゃない、桁違いの威力すぎて飛び込んだら絶対に無事じゃすまない。


「くっ──」


 地面に転ばないようなんとか魔法の効果領域から逃れ視界を広げると、そこには既に詠唱を終えたバケモノ男が待機していた。


「何を安堵した顔をしている。次は二つ同時だ」


 今度は両手にそれぞれ火、水、土、風の球体を出現させるバケモノ男。

 彼の魔力は無尽蔵なのか、冗談じゃない。


「はぁぁあああッ!!」


 折れた刀に魔力を込め、風の威力を携えた真空の刃を形成する。

 それを一振り、かまいたちのように弧となって放つ。

 刃は透明な斬撃を映してバケモノ男の放った球体に直撃し起爆。互いの視界が遮られるように爆発し突風と煙が巻き起こる。

 その煙の中からもう一つの球体が飛び出しこちらに向かってきた。


「ひとつなら──ッ!」


 真正面から迫る球体。先程とは違い視認できる速度でこちらへ向かってくる。

 私は全速力で右に駆け出しそれを回避、そのまま視界を遮る前方の煙との位置を見計らうように距離を取る。

 彼の感覚は常に完璧じゃない。聴覚や視覚を封じた最初の攻撃は通用しなかったけど、私の攻撃を全て見切っているわけでもなかった。

 先程の魔法も目で捉えられる速度まで落ちていた。でも煙の先にいる私へ向けて正確な位置を狙ってきていた。

 突出した鋭利な感覚は恐らく意図的に弾き出しているもの。魔法か、手を抜いているのか。でも彼はさっき手加減はしないと言った。彼は絶対に嘘は吐かない。なら魔法によるものなのは間違いない。

 身体強化、五感強化、相手を視認する魔法なんかも本には載っていた──。

 どれを使ったのかはハッキリとは分からない。だけど魔法は確かに使っている。

 いつ使ったのか? どのタイミングで? 常時ではない?


「そういえば、近接戦はやけに私と拮抗してましたね……っ」


 渦巻く煙の中から私へと狙いを定めたように的確に魔法を放ってくるバケモノ男。煙を払った方がもっと正確に攻撃出来るはずなのになぜかそうしてこない。

 思い返せば彼は戦いが始まってからいつもその場を動こうとはしていなかった。こちらが攻撃を仕掛けるまで常に受ける体制ばかり、彼の攻撃はいつだってカウンター。

 かといって接近戦が不得手とは思えない、明らかな威力を持った殴打と格闘技。相手を岩石か何かだと思っているかのような重く破壊的な攻撃は決して接近戦を嫌っているようには見えない。


「色彩叢書第四節・『QUAKE・ZERO(原地崩壊)』」


 そう声が聞こえると、見ている空間が弾み歪むような軽い衝撃が一波。振り返ると地面が波打ちこちらへ向けて崩壊していく、それも四方八方から逃げ場を無くすように。

 それはガラスの板が剥がれるというより地表そのものが消滅している。起点が分からず地面が崩れ消えていくため魔法や物理での対抗策が見当たらない、逃げるしかない。

 だが攻撃は八方から囲むように迫っている、どうあがいても接触は避けられない。

 避けられないなら──!!


「ぐッぁぁ──ッ!」


 私はそのまま直進して攻撃をまともに喰らいに行った。

 肉が簡単に裂け骨までも砕けていく。想像していたよりもずっと重い痛みに涙腺が緩み声が漏れるが、それでも必死に堪えて突き進む。

 そして視界が明けた先、煙の隙間に見えた隙だらけのバケモノ男に向けて全力の魔法をぶちかます。


「『広範囲(マルチ)()業火爆炎放(フレア)』ァァアアア!!」


 もうひとかけらも残っていない魔力を無理矢理絞り出して放った魔法は導線が弾けるような音を生みつつバケモノ男に狙いを定める。

 光が通り過ぎれば煙に巨大な風穴があき、ようやく振り返ったバケモノと目が合う。その魔法は逃げるには範囲が広く、対応するには遅すぎる状態。

 その一撃が彼の命を屠るか否かは関係ない。ただ間違いなく決定打になるであろうことは確信した。

 矛先の折れた刀を握りしめ、追撃の構えを取る。

 全身に力を入れ、最後の一撃を奮うための息を整える。


「──『DESTRUCTI(破壊)ON』」


 私の放った魔法はバケモノ男に直撃する直前で霧のように消え去った。

 風を当てられたロウソクのようにあっけなく。全力の魔法をいとも簡単に……。


「……はっ……はは」


 思わず笑ってしまった。追撃を見せようとしていた私はその場で立ち止まり硬直する。

 そんな私に対しバケモノ男は容赦なく手のひらを向けた。


「本物を見せてやる」

「──ッッ!!」


 雰囲気が野生の勘というものを刺激したのだろう。

 突然、全身から危険信号が発せられた。体が勝手に明後日の方向へと動き出す。


「──『MULTI(広範囲)()FULARE(豪火爆炎放)』」


 彼が魔法を放つ前にその場を脱兎したのが功を奏した。もし事前に全身に力を入れて無かったら、今の魔法は避けられなかったかもしれない。

 僅かに触れた右指が音もなく消滅した。

 そして放たれた魔法は私の元居た場所を光の速度で貫き、そのまま遥か遠方の最奥にあるガラスの壁にぶつかりいくつかの煌めきを放ったかと思うと、目を瞑るような閃光が辺りを包んだ。


「ッッ……!」


 少し遅れて、かつて聞いたこともないような爆発音が耳に入る。土を弾く音とも機械を四散する音とも違う、爆発そのものが慟哭のように叫び破裂する轟音。白く霞んだ粉塵と視界いっぱいのガラスの破片を前にその魔法の威力を悟る。

 ──桁違いだ。強いとか弱いとか、そんな当たり前の物差しで測れる境地のものじゃない。何か別の世界を目撃しているかのような異次元の惨状が視界に映る。

 あれだけの熱を帯びていた地面のガラス板が灼熱に飲まれて激しく燃えていた。燃えたまま宙を舞っていた。

 やがてそれは空中で真っ黒に焼き焦げ灰となって私の前へと落ちてきた。


「……バケモノですか」

「そう呼ばれているが」


 淡々と答えるバケモノ男に戦々恐々とする。

 ガラスは理論上溶ける事はあっても燃える事はない。だがそれは燃えていた。

 もしかしたらそれはガラスに似た別の物質なのか、それとも常軌を逸するほどの熱量を浴びたから燃えたのかは分からない。ただ目の前には黒く焦げた炭のような何かが転がっている。

 全身から悪寒がした。


「正直ここまで生き残れるとは思わなかった。当初の予想では5時間も持てば十分と思っていたが思ったよりも長くまで耐え抜いたな。──まぁ、それでも想定の範囲内だったが」


 棒立ちする私に戦意の意志を感じられなかったのか、バケモノ男は決着と言わんばかりに『ELEMENT(四属魔法)』の詠唱を始める。


「終いだ。合格まではあと数百歩だったな、暇つぶしにはなったぞ」


 一人の命に終焉とは大それたこと。ここまでの大差を見せつけられてもまだ立ち上がろうとする愚者は早々いないだろう。

 それは確かに恐怖を煽るには十分すぎる原因だった。……だけど、勝利を掴むにも十分すぎる要因があったのを彼は知らない。


「……そういう、ことだったんですね」


 消失した右手の指から発せられる淡い光に口角を上げる。迷走していた辻褄が全て噛み合った。ずっと迷霧の中を突き進んでいたからこそ、それを乗り越えたその喜びに思わず顔が上がった。

 既に死の宣告を終えたバケモノ男が魔法を放とうとしているのに、私はその愚者に倣って立ち上がる。

 勝てない戦いに活路を見出すほど夢想家ではない。だけど既に道は開かれている、渡れと希望が叫んでいる。

 勝てる戦いに笑みを浮かべて何が悪いのだろうか。


「やはり、あなたは全能者じゃない」


 色は淡紅色。形状は薄い花びら。まだ見たことないはずのそれは私とバケモノ男の視界いっぱいに広がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ