第四十二話「地獄の修行へ」
「全力で生きる、か。ふむ、重複した答えだが面白い。やはり愛夏が愛想を尽かさないだけの素質はある。お前のその凡庸さは如何なる他の殊勝をも寄せ付けない才能を秘めているのかもしれんな」
バケモノ男は私をしな定めするような目つきでそう答えた。
「──それに、ほんのわずかだが魔力反応がある。この世界で生活していくうちに辺りに漂う魔力がその体に浸透したか」
「魔法は独学で学びます。今の私に足りないのは精神力と忍耐力です」
「結構、では修行に移るとしよう」
バケモノ男が指を鳴らす。
するとエントランス全体が剥がれ落ちるように一変し、辺りは全く別の世界へと形を変えた。
銀色のガラス張りが一面に敷かれた地面が視界に映る。
「ここは…………ッッ!?」
突然胸が締め付けられるような痛みに襲われる。
息をするのが辛くなり、頭がぐらりと宙を舞った。
「かはッ!? ケホッケホッ……ぶっ、おえぇ──!?」
思わず胃の中のものを吐き出してしまう。
それは酩酊、幻覚。心臓の鼓動が今までにないほど早くなる。
氷のように透明な地面、それでいてとてつもない熱気を放ち地面から火炎が弧を描くように飛び散る。周りを囲むように紫色の茨が張り巡らされ、溶解するように毒気のある緑の霧を振りまく。
私の目に入った光景はそんな、今までに見たこともない異質な場所だった。
「ここは屋敷の庭だ、と言っても部屋の一部だがな。摂氏40度.重力8G.酸素過多の猛毒部屋、常人なら立っていられることすら出来ずに僅か1時間で死ぬ」
それは人間に対して行う修行にしてはあまりにも度が過ぎる環境だった。
私は愛夏さんではない。あの人のように人知を越えた力を持っているわけじゃない。
こんな場所に私が耐えられると、本気で思っているのだろうか。
「私は、何をっすれば……!」
「俺を相手にその刀を一撃喰らわせられたら終わりだ。簡単だろう? 愛夏も通った道だからな、最初の修行としてはうってつけだ」
──冗談、ですよね……。
「それとひとつ忠告してやるが、死んでも蘇生はしないからな」
「は、ははは……」




