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ロリ剣士  作者: 依依恋恋
東雲桜編
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第四十一話「決断の一歩目」

 

 ──凡人が戦争の世界で生き残るにはどうしたらいいのか。死を告げられた戦場で生を勝ち取るためにはどうしたらいいのか。


 そんな疑問は目の前に転がる死体の山を見ればすぐに分かることだった。


 幼くして両親を失い行き場のなかった私に与えられたのは、最前線で勇ましく戦い、そして死ぬこと。

 せめて一人と刺し違えてくれれば名誉の死。生き残れば次の盾。

 当時の私達にとって希望ある未来とは、常に死を意味する言葉と同じものだった。


 戦争の世界で生き残るなんて、そんな疑問は持つだけ愚問。死ぬことこそがこの世界の呪縛から解き放たれる最善の選択。

 生まれた時代が悪かった。生まれた世界が悪かった。

 人として生を持ってしまったが故に体感してしまう生きる事への執着。それでも周りの兵士は皆、死んだ目をしながら機械のように身を投げる。

 己の意思など皆無であることを告げるように、私にそれを諭すように。家族も友人も恋人も、知り合いさえその世界では形作ることがなかった。


 だけど。それでも私は、生きる事への執着を諦めなかった。


 呪われているのか、頭がおかしかったのか。死を当然とした世界で生きることを求めた。

 死んだ方がマシと言われた世界でも生き抜いてやろうと、そう決意した。


 理由なんてない。死にたいと願う人々がいるのなら、生きたいと願う人がいても何も間違っていないはずだ。

 そう言い聞かせながら幾多もの戦争でこのたった一つの命を守り抜いてきた。

 死こそが希望と謡われたその世界で、泥沼のように這い上がって来た。


 ──だからこそ。今この場に立っている私に、希望と未来は存在していない。


「……ほう」


 エントランスの中心でただ立っている私に関心の声をあげる者がいた。

 それはこの世界において最強と定義されるべき逸脱した存在。愛夏さんの復讐相手であり、私達の命を握る者。

 ──そんな彼を私達は"バケモノ男"と呼んでいる。


「こんなところで何をしている。と聞けば面白い答えが返ってきそうだな」


 バケモノ男は重力を無視するかのように上から見下ろし、天井を歩きながら私の真上をぐるっと回り続ける。


「色々と考えています。そしてその答えも出ています」


 簡略な返事を返し、私は己の疑問に終止符を打つ。


「ではその答えに対する覚悟が足りていない。と言ったところか」

「……いいえ。もう出来てます」


 ゆっくりと目を開け、自分の手を見つめる。

 そして大きく深呼吸をしながら、バケモノ男に頭を下げた。


「私を強くしてください」


 ただ一言。決意を込めてそう言った。

 余計な言葉を含めても自分の答えが変わらないと思い、ただ単刀直入に自分の意思を伝える。

 バケモノ男はその真意を読み取ってか、少しの間を置いて聞き返してきた。


「今のお前の目は希望に満ちている。俺に教えを乞えば強くなれると信じてその未来に目を輝かせている。それはこの屋敷へ連れて来た時のレイラと同じ目だ」


 そう言ってバケモノ男は地面へと足を着け、私を真正面から見下ろす。

 きっと暗に伝えているのだろう。今の私ではまだ早いと。いや、不可能だと。


「……それでも、です」


 私は変わらない決意を持ってそう告げる。

 遊戯神の一件から命の価値を学びなおした。自分の命に最大の選択肢があることを再確認できた。

 だからここで引き下がるわけにはいかない。


「この先にどんな未来が待っているのか、それともここでただ朽ちてしまうのか。……これは欲求なのかもしれません。先を知りたい、命の続く限り生を謳歌したい。そんな欲望の行きつく先かもしれません。でも、それでも私は強くなりたいんです」


 一歩も引き下がらない私の姿勢に、バケモノ男は少しの間考えると深く頷いた。


「ふむ。いいだろう、俺が直々にお前を強くしてやる」

「本当ですか!?」


 それは絶対に貰えないと思っていた返事だった。

 愛夏さんですら相手をしてくれないあのバケモノ男が、私の我儘に答えてくれる。それだけでこの決意に意味があったと思う事が出来た。

 感謝の意を込めて深く頭を下げる私に、バケモノ男は神妙な顔で問う。


「だが一つだけ聞きたい。何がお前をそこまで突き動かす? 愛夏と違ってお前に明確な目的は無いはずだが?」


 全知全能でありながら私の答えに期待をもった表情をしている。

 だけど私は、神でも無ければ愛夏さんのような規格外の人外でもない。ただの人間。

 ただの人間が選ぶ道は私の元いた世界では1つだけ。彼らは死ぬことと引き換えに苦痛からの解放を願った。

 私は違う。如何なる苦痛を身に受けても生き残ること。ただそれだけを一心に貫いてきた。


 確かに人類は淘汰されるべき存在なのかもしれない。私の生存権によって私の世界観が変わることはないのかもしれない。

 ──それでも。


「ありますよ、目的」

「言ってみろ」


 大きく顔を上げてバケモノ男を見つめる。

 それが例え無意味でも、無謀でも、無様でも。その意志に決意を抱くことは、私だけに許されたただ一つの自由な権利だ。生まれながらに全ての人権を失った価値無き軍人の心の破片だ。


 そんな凡人が掴んだ選択肢なんて、ごく普通で、当たり前で、誰もが考えるような当然の答えに決まっている。

 だから私はそれを全力で言いたい。突き進んでいきたい。

 納得できるその日まで。


「──全力で生きていくことです」


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