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ロリ剣士  作者: 依依恋恋
東雲桜編
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第三十六話「次の域へ進む者達」

 

 縦横無尽に剣を振るう様は剣聖の如く、神羅万象すら断ち切る我流を極めた剣技が愛夏から放たれる。

 全ては復讐を成すため、バケモノ男と呼ばれし怪物を屠るため磨き上げた驚異の力。

 それを真っ向から受け止めているのはただの人間──桜だ。


 そう、常軌を逸した攻防を繰り広げているのはどちらも同じ人間なのだ。その光景に私は何度も目を疑う。

 桜は愛夏の様に数千年の時を生きてきたわけでも、その時間を全て修行へつぎ込んでいたわけでも無い。なのに何故あそこまで迫れるのか、その疑問は尽きない。

 私とて決して彼女を侮っていたわけではない。毎日のように剣を振って力を磨いていたのは知っているからだ。だがその内容は一般的な人間のやるような修行と大差なく、ましてや超人的な動きを持ち合わせていたわけでも無かった。


 今日を振り返っても桜の修行は特段凄かったわけでも無い。愛夏が外へ出て行ったあと、桜は一日中このエントランスで精神統一していただけだ。

 ある時はエントランスをぐるぐると動き回り、ある時は一切剣を振らずに構えたまま硬直していた。

 それが修行と呼べるものかと問われれば否定せざるを得ないだろう。ならなぜ、彼女は今自分を打ち破った相手と互角に戦えているのか、魔王である自分より上に立っているのか。

 そんな焦燥感に駆られていた私に話しかけてきたのは、その全てを知り尽くした男だった。


「お前は戦争の最前線がどんなものか知っているか?」


 第一声。蝙蝠の様に天井を歩きながら私の頭上で問い質してきたのは、バケモノ男と呼ばれている最強の男。

 あまりに抽象的な質問に沈黙を続けていると、バケモノ男は何もわかってないなと言わんばかりに呆れたような顔をした。


「お前は敵と相対する時、どんな風に戦況を見渡す?」

「それは勿論……相手がどんな攻撃をして来るのか、どうやって勝つかを……」

「そこがあの凡人と違うところだ」

「え……?」


 間接的に自分の言った事が間違っていると伝えられた私はそれでも疑問は晴れない。

 バケモノ男は桜に目を移しその惨劇を読み取る。常人では耐える事の出来ない苦痛の日々、この世界の人々では決して想像もできない終末の世界を。


「あの凡人は戦争の時代に産まれ、戦争を体験し。その阿鼻叫喚の世界の最前線を今の今まで生き抜いてきた人間だ、戦いにおいて戦況を見渡す目が違う。もし戦争で相手が一人だった場合、その相手一人を警戒する馬鹿はいないだろう。周りに必ず誰か潜んでいる、奴は常にそういう感覚で戦っているのだ。 例え愛夏だけが相手でもそれ以外の全ての部分を注視している。だから奇襲もフェイクも通じないわけだ」


 戦いは自分の実力を最大限に引き出さないと勝つことはできない。だが戦争は違う、自分の実力を引き出したとしても死は免れない。負ける事を突き付けられながら1秒でも多く命乞いをする戦いだ。

 自分と同じ殺意を持った人間が突撃してくる恐怖、目視出来ない速度で飛んでくる銃弾。掃除でもするかのように自分達を消し飛ばす砲弾。

 それは常人の戦いじゃない。人間一人一人が抱いている夢を、希望を、家族と過ごす平和な願いさえ水の泡となる。それが戦争の正体。


「四方八方から浴びせられる銃弾、砲弾、空爆、地雷。それらを全て避けながら一つでも多く、相手の命を奪いに行くのが最前線にいる者の使命だ。命がいくつあっても足りない。盾となって死ねと言っているようなものだからな。だがそれでもあの凡人は生きている。今こうして愛夏と互角にやり合えているのもきっと、今まで命のやり取りを数えきれないほど経験し、その力を身に着けているからだ」


 私は首を振る。

 それはもう凡人じゃない、超人と言った方が正しい。人間の枠を越えている。


「凡人と言ったのか癪に障ったか?だが残念なことに奴の世界に住んでいる人間は皆そういう経験を持っている、一般市民ですらない。だからそれらと比べると凡人にすぎない、お前達はその凡人にすら劣るというわけだ」

「でも……!この世界だって魔物がそこら中に沸いているのよ、護衛だってつけないと人々はろくに街の外を歩く事だってできないじゃない!」


 この世界にだって危険はある。

 地球では存在しなかった魔物と言う人類の天敵もいる、戦争だってある。


「あぁそうだな。魔物が蔓延り、裏で世界を牛耳る悪者が暗躍し、魔王なんて人類の天敵が出現している。とても危険な世界だなここは。──街の中で眠れば平然と明日を迎えられ、金を払えば美味い料理を食べられ、それでいて少し強い悪者が出てくれば一斉に逃げ出し命を乞う。そんな危険な世界だ」


 当たり前の事を突き付けられてたじろいだのは初めてだった。私はその言葉の重みを今の今まで知らなかった。

 ……彼女たちの世界ではそれが当り前じゃなかったんだ。


「奴の世界では一夜で国が火の海に沈む、契約も条約もへったくれもない。無駄で無謀で無様で、それでも欲にしがみつく権力者や絶対王政なんて生温い程の強圧が常に圧し掛かる。市民すら統率を取って疑似的に戦争に参加する、病弱虚弱な病人は生きる価値が無いと殺される。街の中ではあって当然のように子供の死体が転がり、腹の空かせてた子供がその死体を喰らい、そして狂ったかのように食料のある戦地へと向かい命を絶つ。まさに人類達がみな滅亡を願っているような世界。それが世界大戦だ。──あの凡人と愛夏はその世界を生き抜いて、今この場に立っている」


 その時初めて私は二人の意志の重さを知った。

 今も熱戦を繰り広げている二人へ目を向けると、その表情は今までと全く違って見える。

 今まで真っすぐなだけだと思っていた桜の目は修羅の世界を駆け巡ってきた歴戦の瞳に感じる。幾度も絶望して心を失いそうになりながらも立ち上がってきた強者の炎が灯されている。

 ──自分なんかより遥かに強い意志を持った人間だった。


「それに比べてお前達阿呆共は、本物の戦争がどういう悲惨を帯びているのかを全く理解していない。はっきり言ってお前達のしている戦争とやらはただの遊びと同じだ。敵を倒せばいい、玉座を勝ち取ればいい。そんな甘い思考を持っているからいつまで経っても弱者と強者のバランスが変わらないんだ」


 バケモノ男の言葉に有無も言えなかった。

 二人の攻撃は相手を倒そうなんて意志は微塵も感じられない。

 完全に殺そうとしている。常に急所を狙い、周りに存在するありとあらゆる物を使って息の根を止めようとしている。

 その戦いは遊びなんかじゃなかった。


「強くなりたいと願うのは結構だが、彼女たちが生半可な気持ちでお前と同じ願望を抱いているわけじゃないというのは覚えておくことだな」


 そう言ってバケモノ男はその場から姿を消した。


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