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ロリ剣士  作者: 依依恋恋
魔王来襲編
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第二十九話「本音」

 

 愛夏の放った斬撃は屋敷を一瞬で吹き飛ばし、直線上にいた木や土などの障害物や数えきれないほど蔓延っていた屈強な魔物達を一掃し絶滅させていた。

 地面は大きく割れ、斬撃の跡が残る。それは生半可なものではない、見れば誰であろうと一目瞭然。真の強者だけが放てる人間離れした大技。魔法に特化したこの世界では物理攻撃と言うものは下級の人間がするものであり、それは自分が無力だとさらけ出すようなものだ。


 ならばこれは一体何なのか。明らかに戦いは一方的だったはず、彼女を押していたはずだ。なのに現状は全くの真逆。

 全身から冷や汗が止まらず、本能が逃げろと命じてくる。逃げる?わたしが?人間に対して?

 脳内が破裂する程の勢いで状況を整理しようとするも理解が追い付かない。この攻撃は本当にあの人間が放ったものなのか、真実に直面していても信じることが出来ない。


「フーッ"……フーッ"……!」


 氷の牢獄から這い出るように現れる愛夏。全身は焼け焦げ、片目は破損。そして剣を振るった両腕はあらぬ方向に折れ曲がり、腹部に大きな穴が開いて血が止まらず流れている。

 それは間違いなく自身の魔氷牢獄が直撃したに等しい事実だった。


「あ、あなた一体何者なの!?」


 私は声を震わせながら愛夏に問う。もはや生きてるかも怪しい状態だというのに、それでも立ち上がろうとする愛夏。その異常なまでの執念に感じたことも無い恐怖が芽生えた。


「くっ……五重奏爆炎弾(クインテットファイア)──」


 迫りくる恐怖に打ち勝とうとすぐさま魔法の詠唱を試みる。

 しかし、愛夏が右手をこちらに向けると唱えていた魔法は蒸発したように跡形も無く消え去った。


「な、なんで!どうして魔法がっ──!」


 詠唱自体は成功している、なのに魔法が外に出た瞬間掻き消される。大気中に流れる魔力の欠片、魔界の結晶が意図的に消滅させられているのだ。

 その原因は目の前の少女にあるのだとすぐさま理解するも、体の震えは増幅するばかり。当然魔法を掻き消す魔法なんて存在するはずもなく、私は口を開け顔を歪ませながらその感情を怒号に乗せた。


「な、なんなの……あなた一体なんなのよ!」


 魔法を使用した影響か、愛夏の口から大量の血が零れ出す。辺りは赤く染まり、血の海が出来るほどになっていた。もはや人間が保っている血の量を遥かに越えているにも関わらず、それでも這いつくばるようにしてこちらに向かってくる。

 その姿はまさにバケモノだ。


「──ただの人間って言ってるでしょうが……ッ」


 出会って初めて聞いた怒気の含む威圧、それと同時に数百の斬撃が目にも止まらぬ速さで放たれる。

 あの怪我でだ。いや怪我どころではない、間違いなく瀕死。いつ死んでいてもおかしくない状態だというのに最初に交わした攻撃の時より遥かに早く重い一撃。

 畏怖に駆られ上手く避けることが出来なくなった私は、最後の斬撃を防ぎきることが出来ず左腕に直撃する。


「痛っ!あっ、あ……ッ!──痛い痛い痛いィぃいやぁあ"あ"ッ!!」


 全身が焼けるような痛さ、今まで経験したことも無かった。殴られたり蹴られたりしただけでも凄く痛かったのに、これはその比にならない。右手で流血する左肩を抑え天へ向けて絶叫する。


「そんなもので痛いですって……?甘えたこと言ってんじゃないわよ……ッ!」


 続けて大振りに構える愛夏。既に腕に力が入っておらず、肩を無理矢理捻らせて標的を探す。眼球が血で赤く染まり、意識が朦朧とし始めてもう前が見えないように思える。

 それでもわずかな音と勘を頼りに斬撃を飛ばす。その意志は標的を絶対に逃がさないと、そう誰が見ても思うほどに鋭かった。

 そして最後に放たれた幾ばくもの斬撃も、しっかりと標的である私を捉えていた。


「ひっ……!」


 私は既に戦意喪失しており、残った力で防壁を展開しようとするも抉られた肩の痛みでそれどころではない。

 迫りくる殺意の塊に、私は降参と身を乞う小さな悲鳴しか上げることが出来なかった。


「そこまでだ」

「……!」


 突如目の前に現れた男。──屋敷主、バケモノ男だ。

 終了の合図と共に、私に向かっていた斬撃を人差し指で全て跳ねのける。愛夏の斬撃とバケモノ男の目にも止まらぬ一瞬の攻防で、後方にいた私の方へまで竜巻が起こるほどの風が吹き荒れる。


「余興にしては面白いものが見れた、終わっていいぞ愛夏」

「……」


 バケモノ男が終わりの指示をだすが、愛夏の盲目な目は鋭く私を捉えたままだ。その目は強者や弱者がする目ではない、相手を射殺す殺意の弾丸そのもの。

 地に突き落としても這い上がってくる人間はいるだろう。だが這い上がる術を無くしても虚無に手を掻き登ろうとするものはいない。

 しかし愛夏の目は例え腕を無くしても足で上がろうとし、足を無くせば頭のみで上がろうとするような目だった。狂ったように天を目指そうとするその目に、諦めと言う感情は芽生えていない。絶望を自ら引き寄せ、無理だとわかっていながら進み続ける。

 そんな、自分の全てを失ってでも這い上がろうとするその強い意志が彼女にはあった。


「うっ……ぐすっ……」


 そんな計り知れないほどの殺意を向けられ、同時に戦闘が終わったという緊張の糸が途切れたことで私は力が抜けたように地面に座り込む。


「もう、もう嫌ぁ……!いたい、いたいよぉ……なんで、なんで私ばっかり、うっ……こんな痛い思いしなくちゃならないの……。魔国でも追い回されるし、誰も私を味方してくれないし、いくら頑張っても全然強くなれないし本当にもう嫌……私が一体何をしたっていうのよぉ……っ」


 ぽろぽろと涙を零し虚空に向かって訴え続ける。今まで沢山のことを経験してきた。周りは皆敵で、魔王という立場にありながら命を狙われ続ける毎日。

 そんな日常を乗り越えるために何年も努力をして、様々な苦悩を乗り切った。そして誰にも文句を言われないために、史上最強という力そのものを得るためにこの屋敷を訪れた。

 それがこの結果だった。


「……嫌、ですって……?」


 泣き喚く私に虫唾が走ったのか、愛夏は力の入らない右腕で私の胸ぐらを掴むと体が浮くほどの力で引っ張り上げる。


「そんな強靭な肉体と魔法なんて奇跡に等しい力まで持って生まれたのに、一体何が嫌なの?何が不満なの?何に苦労したの?何も努力はしてこなかったわけ?そんなに苦しいならその体を頂戴よ、私と交換してよ。私があんたの分の苦労も全て引き受けるから、だからその力を頂戴よ!」


 今まで感じたどの恐喝よりも怖い表情で迫られた。

 努力ならした、苦労もした。だけど、私と彼女ではその桁が違っていた。


「私が必死の思いで何千年努力しても手に入らなかった力をなんでそんな簡単に持ってるの?私より努力をしたの?私より苦労したの?精神がぶっ壊れるまでやりきったの?なんで肩をほんの少し負傷した程度で涙を流してるわけ?」


 ほんの少しの負傷。彼女には本当にそう見えるのだろうか。

 私の肩は肉が完全に裂け、骨まで見えていた。今まで感じた事もないほどの激痛が襲ってきている。

 なのに彼女は、愛夏はそれをほんの少しだという。


「私にはまだまだ足りないのよ、何もかも足りない。だけど誰も与えてくれない、くれなかった。だから一人で努力し続けてきたの、一人で剣を振るってきたの。幾度も諦めようと思った、世界で一番つらい思いをしているのは私だとすら思った。それでも続けた。ずっと、ずっと長い間、自分でも記憶から消えていきそうなほどに努力したのよ」


 その言葉に悔しさを噛み締める。だってそうだ、これは勝者が言えるセリフ。負けた私は言われる側なんだから、それが何よりも悔しい。悔しくて当然だ。


 だがこの時の私は分かっていなかった。本当の努力と、本当の悔しさを。

 愛夏はついに目から光が消え、何も見えなくなっていた。それでも唯一無事である喉と肺を使って無理矢理口を動かす。


「私に負けて悔しい?悔しいのはこっちよ!数える年月をやめるほどに長い間努力してきたって言うのに、ぽっと出の魔王に互角以上の力で痛めつけられて。私の今までの努力が全部否定されて水の泡になったのよ……悔しくないわけないでしょ!」


 その通りだ、そう分かるのはバケモノ男だけだった。他の者たちには分からない、彼女がどんな思いで血を流し永劫に近い時を自らの目的の為に費やしてきたか。そしてようやく実感できた自分の強さ、初めて勝機と言う二文字に自信を持って異世界へとやってきた。

 だが蓋を開けて現実を見てみれば足元にも及ばない。それどころか何の努力もしていないで、生まれながらに自らの力を大きく上回る者が大勢いた。

 ──その事実に最も傷つき、悔しかったのは愛夏本人だろう。


「愛夏、もうよせ」


 ついに愛夏から血が出なくなり、心臓の鼓動も聞こえなくなる。それでも愛夏はまるで生きているかのように口を動かす、私は涙を流しながらその信じられない光景に度肝を抜かれていた。


「だから、私、は……絶対に──……」


 最後の最後まで自分の意志を残しながら地に倒れ伏せる。これは人間じゃない、人間の皮を被った怪物だ。そう思わざるを得なかった。


「なん、なの……なんなの……なんなのよぉ……」


 私は脳内の処理が追い付かず、錯乱したまま涙を流し続ける。誰だってこんな非常識な人を相手にしたら頭もおかしくなる。

 私の方へと振り返ったバケモノ男は鋭い目つきで私を睨むと、やはりこうなるかといった表情で見下した。


「言ったはずだ、ここは地獄だと。一握りの希望を得る代わりに永遠に等しい苦痛を味わう事になると」


 確かに忠告はされた、当然覚悟もしていたつもりだった。……だけど想像以上だった。苦痛なんてものじゃない、その場にいるだけで元々あったはずの思考を片っ端から破壊されるような感覚。涙を流す以外に精神を守れる方法がなかった。


「これはまだまだ序の口だ。いいか、俺のやり方はお前自身が壊れるまでやってもらう。壊れて初めてスタートラインに立つんだ、それを理解しろ」

「愛夏ちゃんは……」

「あいつは既に壊れてる、目を見ればすぐに分かることだ。あの執念は本物、何があっても俺を殺しにくるだろう。例え目が見えなくなり声が出なくなり四肢を無くし達磨(ダルマ)になっても、迷わずその命が燃え尽きるまで殺しに来る」


 バケモノ男とて確証はない、だけどきっとそうする。そうしてきた、だからこその愛夏。だからこその自分を復讐相手にした。そこに理由はない、それこそが理由なのだから。

 愛夏に関して全てを悟っている復讐相手、その男に対して私はただただ疑問しか出てこなかった。


「どうしてそこまで……」


 いくら復讐と言えどそんな状態になりながらも求め続ける意味がわからない、わからないのだ。魔王として生きてきた私にとって、弱小な人間の求める理念などわかるはずもない。

 だけどこれは同じ人間である桜でさえわからないものだった。

 だってその答えは理屈じゃ説明できないもので──。


「それが彼女の生きる意味だからだ」


 その一言に全ての意味が込められている。


「いつまでそこに座っている気だ。辛いなら勝手に出て行け、逃げたければ逃げろ。ここは理なぞ現に消え失せる場所だ、力を求めたいならそれ相応の覚悟をしろ。餓鬼の育成場所じゃない」


 辛辣な言葉を浴びせその場から一瞬でいなくなるバケモノ男。私はただただその場で泣き崩れるまま、桜も同様に身動きが取れず固まっていた。

 ──するとエントランス中央の玄関が大きな音を立てて開き、メイド服を来た女性が空気を読まずに入ってきた。


「はぅあ~!ただいまです!ってなんじゃこりゃああああ!」


 半壊した屋敷に目を飛び出させながら買い物袋を持っていたミット、どうやらこの掃除は彼女がやるらしい。凄い形相をしていた。


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