第二十五話「各々の思想」
祝勝の晩餐が始まって暫くの時間が過ぎた。
月明かりが食卓の影を照らし、気品ある風景と成り上がる。
そういえばここは異世界なのに月や太陽が存在する。気温や気象の面から見ても、その環境は地球とさほど変わらないように思える。
一体この世界は宇宙のどこに存在しているのだろうか。
「ほえー……」
だが、そんな小難しい思考は今の状況には似つかわしくなかった。魔王の子、と言うより魔王本人が口を開けてぽかんとしている。何やらミットの話で盛り上がっていたけど、彼女から見てミットはそんなに凄い存在なのかしら。
私も最初はその強さに驚愕したけれど、絶対に勝てない相手じゃない。いや、勝たなければならない。バケモノ男より弱い相手なら、例え命を賭してでも全て勝って見せなければならない。
私の基準はあくまでバケモノ男ただ一人、それ以下に並ぶ者に驚いてる暇などないわね。
「じゃ、じゃあ遊戯神に打ち勝ったこの子は何者?まだ幼いけど、雰囲気は全然違うわよね……やっぱりわたしの知らない神様とか……?」
魔王と自称するレイラに指を指されて眉を寄せる。
勝手に私を神様認定されても困るんだけど、と言うかさっき乾杯するとき否定したよね?この子本当に話聞いてるのかしら……。
「人間よ」
「人間だぞ」
私とバケモノ男が同じタイミングでそう言い返すと、レイラの動きが止まり乾いた笑いが出始める。
「あ、あはは……それは流石に嘘だよね?」
「先程から嘘だの冗談だのと言ってるが、逆に俺が嘘を吐くように見えるのか。心外だ、飲み込みが悪い奴はあまり好かん」
バケモノ男は珍しく冷たい態度で突き放す。いつも冷たいって言えば冷たいけど。
まぁ、常識的に考えれば疑問点が沢山出てくるのは理解できる。この子見た目は少女だけど魔王というくらいだし、恐らくかなり長い期間生きているはず。そこに今までの経験を重ねて判断するのだから、自分の目で見たものが信じられなくなることも多々あるだろう。
でもここは常識を捨てる場所だ、自分の生きてきた足跡を水で流されることなど日常茶飯事。一々他所と比べていたらついていけなくなる。
その点桜は順応性が高い。私が突然魔法を使い始めたり狂気に陥ったり、今日あった出来事はあまりに多かった。だけど桜は無駄な事を考えるのを諦めたような顔をして、今も食事を楽しんでいる。
きっと疑問は沢山あるのだろう、聞きたいことは山ほどあるのだろう。でも聞くだけ自分が愚かだと理解する羽目になると理解している。
結局、物事は結論から疑問に入っても"納得"するだけでその内容は何も変わらないのだから。
「だ、だって人間よ!?数億人の人々が私を恐れているというのに、そんな私より遥かに強い神の地位にいる遊戯神に単身で勝つなんておとぎ話でも聞いたことないわよ!」
そんな事は露知らず、レイラは幾度も自分の疑問をぶつけている。
「だからここにいる」
「え……?」
バケモノ男は深いため息をつくと、レイラの方を真っすぐ見つめた。
「俺はそもそも人間なんかに興味はない。魔族も神もその他の全ても、何一つ興味が沸かない。お前に関してもだ。今回は異例で招き入れたが、本来なら捨て置くか土の養分にでもなってもらうつもりだった。俺はそういう類の思考だからな。だが、逆に言えば興味のある奴なら誰だろうと関わるだろう。例えば、──人間でありながら神を倒す者。とかな」
「……!」
バケモノ男は再度グラスを手に取ると、ミットがそれを察してワインを注ぐ。
濃度の高い葡萄酒をグラスの中で数回まわし、そして一気に呑み込んだ。
「そして愛夏はお前の知ってる人間と言う種族と同じだ。平凡に育ち平凡に生き、そして波乱に身を投げた」
「……」
その言葉に、黙って食事を取っていた私の手が止まる。
「……と、思う」
「……思う?」
レイラが怪訝な表情をする。
「実際のところはわからん、愛夏から直接聞けばいいだろう」
酔いが回ったのかはわからないけど、その言葉は私にとって地雷そのものだ。意図して今の言葉を発したというのならやはりこの男は私の過去を知っているということになる。
私は明らかな殺意を向けてバケモノ男を睨みつける。
「そうね、私の歩んできた過去なんてわからないはずだからね」
「ああ」
白々しく返事を返すバケモノ男、ここで駆け引きをするのは無意味と言いたげだ。私も一瞬出した殺気を収め、再度食事を始める。レイラは何のことかわからずに首を傾げたままだ。
「概ねそいつの言ってる通りよ。私は人間で遊戯神に勝った、さっきも言ったけど運よく勝てただけよ。私に対して興味を持っても何の価値にもならないから気にする必要はないわ」
運が介在しない勝負。と言ってもどうせ理解できなさそうだったので適当に答える。
するとレイラは目を輝かせて桜の方を凝視した。
「そ、それならそこにいる桜さん?と言う方も凄い人なんでしょうか!?」
先程までのやり取りを前に、ただ一人黙ってもぐもぐと口に頬張っていた桜。レイラに問いかけられると「ほえ?」とハムスターの様な阿呆面をして、直後口の中のものを物凄い速さで飲み込んだ。芸当だろうか?
「私は本当にただの人間ですよ。気づいたらここに連れてこられて、逃げ場も無かったので愛夏さんについて行くことに決めたんです。私がもっと強ければいいんですけどね、外にいる魔物にすら勝てないので暫くはここの屋敷に棺桶状態です。……最も、そこにいる方に邪魔だと判断されたら即殺されるので身を弁えてるつもりですが」
久しぶりにまともな会話をした桜。やはり自分が余計な存在だと理解しているからなのか、本当に余計な事は口に出そうとしない。軍でも即出世できるタイプの人間だ。
バケモノ男も自身にとって邪魔な存在でなければ特に手を出したりはしない様子、事実今もこうやって桜の分の食事も提供している。
「え、本当に普通の人間?神話の神もいるこの状況に平然としていられるなんて、それだけで凄いと思うんだけど……」
「平然としていないと殺されかねないので」
「なにそれこわい……」
遊戯神との死闘で相当吹っ切れたのか、桜も段々思考が人外化してきた気がする。
やっぱりこの屋敷にいると常識なんてものは捨てた方がいいわね。
──遊戯神を倒したのはほんの小さな一歩、バケモノ男を倒すにはまだまだ程遠い。
もっと力をつけて、もっと可能性を広げて。そうしてこの無限とも思える長い人生の復讐に決着をつけなければならない。例え誰に否定されようとも、この想いは絶対に覆らない。
……でも、今はこの食事の時間を楽しまないとね。
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