第十三話「いつも通りの私」
私には今一番欲しい、と言うより一番知りたい事があった。
私の復讐のためには、バケモノ男を倒すためには絶対に必要不可欠な事。それは──。
「不死の塔だ」
私が言おうとしていた事を阻まれ、代わりと言わんばかりにどこからともなく声が聞こえる。そして天井を見たらやっぱりいた。──バケモノ男だ。
人が答えようとしていたのを横取りするなんて、あんたは私の保護者か。
そんな事を思っている私とは裏腹に、少年の様子が変わっていることに気が付く。
「……大事な遊びの邪魔はしないでくれるかな」
「人の家に勝手に上がり込んで邪魔者扱いとは、随分と偉い立場になったものだな。ペテン師」
バケモノ男と少年とで火花が散る。なるほど、知り合いと言っていたからてっきり仲が良いのかと思っていたけど、全然違った。二人は想像以上に仲が悪いらしい。
そして今さらっとペテン師って聞こえたけど、何も聞かなかったことにしよう。
「それより不死の塔だ。愛夏、それが今お前が望んでいることだろう?」
私は深く頷く。
その通り。私が今一番望んでいることは不死になること。老いないだけじゃバケモノ男はおろかこの世界で生き抜いていくことすら出来ない。
不死になって、不老不死になって初めてスタートラインに立つんだ。
「……ええ、そうね。私が今一番望むのは不死になる事、その不死になるために必要と言われている不死の塔に行きたいのよね」
微かな望みでも口に出す。元居た世界じゃ不可能な事は不可能だと馬鹿にされた。だから可能にしてきたとき、皆口を合わせてこういう。──お前はそれを可能に出来る力があったと。
冗談じゃない、私は皆と同じ立場にいた人間だ。それを怠惰に貪っていた底辺の同類に言われたくはない。
確固たる強い意志を持って告げる。不可能はそこにたどりつく姿が想像出来ないから不可能と言うんだ。
私は想像してきた、この男を殺すために何をすればいいのか。考え、そして今も尚戦っている。
今の私が願うのは不死になる事。それが通過点であり、戦いの始まりになる。今の私はその場にすら足を立てていない。だから"今は"それが願いだ。
「不死にするのは僕の力じゃ無理だけど、不死の塔の場所なら知ってるよ。あそこは審判に果たされた者しか入れないからね。頂点に辿り着いた僕が一緒に行けば入り口までは無事に送ることができるよ」
「じゃあ、私が勝ったらあんたに不死の塔までの案内を頼むことにするわ」
まさかこんなに早く不死の塔への手掛かりをもつ人間に出会えるなんて思わなかった。──いや、人間じゃないか。
「わかった、それでいいよ。──ただし」
少年は一拍溜めると笑顔が淀んでいき、形相を変えはじめる。
やがて狂気に染まった笑顔をした少年は答える。
「もし君が負けたら、──死んでもらう」
あぁ、そうか。
私は顔を俯けると拳を握りしめる。
私が勝ったら不死の塔への案内、負けたら死ぬ。か。確かにその条件は一般的な目線から見たら釣り合っているのだろう。
私はこの世界に来て、この屋敷に来て毎日修行を重ねながら勉学もしていた。この世界にしかない強くなる手掛かりを見つけられる絶好の機会だからだ。
だから不死の塔が生半可に辿り着ける領地じゃないと言うこと、それは重々承知だ。そもそも不死になれる場所に誰でも辿り着けたら世界の勢力図がとんでもないことになる。
そして今私が知る限り不死の塔に辿り着けたのはバケモノ男と、目の前の少年だけだろう。ミットも状態的には不死かもしれないけど不死の塔を登ったことはないと言っていた。
だったらバケモノ男に頼んで不死の塔について教えてもらえばよかったって?そんな判断は愚の骨頂だ。
相手は死んでも私の復讐対象。向こうから勝手に塩を送り付けてくるのはいいけど、私からこの男に慈悲を乞うなんて以ての外だ。
そもそも私が復讐する敵に対して楽に教えを乞うたりしたらきっとバケモノ男は失望するだろう、失望すると言う事は殺されると言う事。
私はバケモノ男の屋敷に住まわせてもらっている。だけどこれは慈悲なんかじゃない、いつでも私を殺せるぞと脅しているのと同義だ。
だから私は今バケモノ男に飽きられるわけにはいかない、そもそも私はそんな向上心のない女じゃない。
命のある限り、絶対に殺すと誓ったのだから。
──私はバケモノ男を見つめる。男は腕を組んだまま私を見つめ返すのみだ。
「……これは僕とこの子との遊びだ。超越神、お前は絶対に邪魔をするな」
私がバケモノ男を見たことで遊びが中止されると踏んだのか少年は怒気を放ちながらバケモノ男を睨む。
「ふむ。俺は何もせん、いつも通りだ。これは一応愛夏の晴れ舞台なんでな、観戦しようと思ったまでだ」
バケモノ男は余裕を崩さず天井に佇む。
「ふん、ならいいけど。それより君の名前、愛夏って言ったっけ。悪いけどこの遊びに拒否権はないよ、僕の力は一度遊ぶ相手を決めたらその相手は絶対に遊びを受けなきゃいけない制約が掛けられるんだ」
それが"神"の力か。なるほど、力が無くても知恵で勝てれば望むものを手に入れられる、遊びの神にはもってこいの力と言うわけね。
「別に構わないけど、一つ確認していいかしら?」
既にゲームを始めようと意気込んでいる少年に対し、私はこのゲームの要である絶対的に欠かせない要素を確認する。それが私の勝敗にすらかかわる事だからだ。
「このゲームは"この場所で"やるって事でいいのよね?後から場所の変更はないわよね?」
妙な事を聞かれたと言わんばかりにきょとんとした少年は、流れるがままに答える。
「うん?別に場所を変えたりはしないよ?もしかしてここでやるのは嫌だったりするのかな。別に場所は好きなところでも構わないよ?」
「いいえ、ここでいいわ」
相手の意図を確認せずに答えてしまっていいのだろうか、それもディーラーが。
そして私は首を上げ、バケモノ男を真っすぐ見る。
最後の確認だ。最後の、これ以上は必要ない。あとは私の問題。だからこれが最後の確認。
「──あんたはいつも通りなのよね?」
その言葉を聞いたバケモノ男はニヤリと口角を上げると、心からの期待の眼差しで私を見た。嬉しいのだろうか、楽しみなのだろうか。いや、そのどっちもなのだろう。
「ああ、俺はいつも通りだ。それは保証しよう」
その答えを聞いて、私は確信した。──この遊びの勝利を。




