第十二話「遊び人は遊びたい」
私の誕生日が過ぎ、この屋敷ではまたいつも通りの日常が始まろうとしていた。
しかし神はそれを許さなかったのだろうか。この屋敷での日常など所詮は非日常と変わらない。
エントランスで剣を振るっていた私は、見知らぬ気配に動きを止める。
突然目の前の空間が歪んだと思ったら、知らない少年が天井から降りてきた。
「……誰?」
ゆっくりと舞い降りた少年は笑顔で私に近づいてくる。
私は天井を見るが、当然のように天井は壁だ。
どこから現れたのかもわからない少年、見た目はどこにでもいるような好奇心旺盛な子供。
──だが私は剣を抜く。いきなり現れたのならそれは人間じゃない、それだけで私が警戒するには十分な証拠だった。
「おっと、そんな怖い顔しないでよ。別に急に襲ったりはしないよ、趣味じゃないんだ。……そういう血生臭い力の戦い」
少年は呆れた顔しポケットに手を入れる。
敵意がない事を悟った私も剣を納めると少年もニコっと笑う。
「うんうん、聞き分けの良い子だね。そういう子は好きだよ。理解のある人間だ」
先程からずっと上から目線で話しかけてくる少年。やはりこの子もこの世界の上位に位置する存在なのだろうか、はたまた本当にただの少年なのだろうか。
この世界じゃ一般人でも魔法が使えて当然だと思う。実際外にいる魔物があまりに強すぎるわけだし。だからこの少年もこの世界では普通の一般人と言う可能性もある。
そう、一般人。こんな屋敷に、一般人……。
どう考えても一般人なわけないわよね。
「私に何の用?」
考えるだけじゃ解決に至らないと思った私は結論を急ぐため直結に尋ねた。
少年は笑顔を絶やさない。ニコニコしている、とても愛嬌を撒く子供らしい笑顔。
「今日は君と遊びにきたんだっ!」
少年は両手を広げて子供のように喜ぶ。
遊び?私と?どうしてわざわざ私と遊びに来るのだろう。そもそもこの子はどうして私の事を知っているのだろうか。
仮に知っていたとして、何の遊びをするために来たのだろうか。確かに私も見た目は子供だが、実際は何千年も生きている、生憎子供に会うような遊びが出来る自信はない。
「私と……?なんの遊びをするの?」
やはり考えるより先に聞くべきだ。さっきからこの少年といるとどうも考えがまとまらない。
「んーとね、サイコロの目を当てる遊びだよ!」
少し流れる沈黙。
賽子の目を当てる遊び?そんなの何が楽しいんだろう、そもそもそれは遊びになるのだろうか。
かすかに透き通る違和感を感じつつも私は違う疑問を投げかける。
「それは別にいいけど、あんたは誰?私は知らない人と遊ぶほど暇じゃないのよ?」
少し高圧的に問いかける、子供に対してと甘んじてはいけない。魔法を使っている時点で私より強い可能性だってあるのだから。
「僕かい?僕の名前はリック、遊びが大好きな遊び人さ!」
遊びが大好きな遊び人って……。子供がそれを言うのは教育的にどうなの。
……いや、そもそもこの世界に教育なんてものはないんだったかしら。
「そう、遊びが好きなのね。じゃあどうして私の事を知っているの?」
話は原点に戻り、やっと私が聞きたかった事へと話題が戻る。
しかしこの会話、どうみてもおかしい。違和感がある。
「僕はこの屋敷の持ち主と昔の知り合いでね、最近人間を住まわせてるって聞いたから興味が沸いてきちゃったんだ」
この屋敷の持ち主、それはどうみてもバケモノ男で相違はないだろう。そんな男と知り合いの少年。……なるほど、こいつもバケモノか。
「ふーん、まぁいいけど。無断で入ってきていいの?」
「いいのいいの。どうせいつも奔放的な奴なんだし、僕が来たことすらわからないでしょ」
それはどうだろうか。私は何もない廊下の先、食卓の間を見つめる。
「そんな事より遊びをしようよ!」
せっかちな少年は軽く指を鳴らすと、何もなかったエントランス中心にカジノ用のボードが現れた。
これも魔法だろうか、つくづく便利な力だ。
「はぁ、唐突に現れて遊ぼうなんて言われるこっちの身にもなってほしいわ」
自分の為に何かをするのは躊躇いがない私でも、他人の為に時間を費やすのはあまり好きじゃない。老いない体を手に入れても時間を無駄に浪費するのは個人的に嫌いだ。
子供の面倒を見るような姿勢を取る私に少年の笑顔が少し引きつる。
「まぁまぁ、すぐ終わるからさ!ね?」
言われるがまま椅子に座る私と少年。ボードを挟んで対面する形になった、これはよくあるポーカー等でディーラーとプレイヤーに分かれる感じだ。
私も数千年は生きてる、付き合いの関係上ギャンブルに触れた事くらいは多少ある。
ボードの形的に少年がディーラー側に座っている、プレイヤーは私なのだろうか。
「それじゃあルールを説明するよ。まず前提として僕は何もしない、ただ喋るだけ。ゲームに支障をきたすような事はしないよ」
まるで疑われるのを初めから阻止するように重要な事だと話す少年。遊ぶのにこの子は何もしないのか。
「それを踏まえてのルール。ここにサイコロがあるよね、ごく普通のサイコロだ。君はこのサイコロを振って出た目の数を当ててもらう。振るのは君で、出る目を予想するのも君だ。僕は何もしない」
賽子を振って、出る目を当てる。なんて単純な遊びなのだろう。当てられるかどうかはさておき、これは子供でも出来る遊びだ。難しい心理戦は介入しない。
「そう、この遊びは君がサイコロの目を当てる、単純な遊びだ」
「確かに単純ね」
「だけど君が選べるサイコロの目は次の2つの内のどっちかだけだ」
少年は賽子を手に取ると、赤くそまった丸い穴、賽子で言う1を私に見せる。
「君が選べるのは"1"か」
次に、1を伏せて他の目を見せる。
「"それ以外"か、だ」
少年は絶対的なルールと言わんばかりに強調する。
あれ、話どこかで……。
「つまり。私は1が出るか、1が出ないかを決めて賽子を振ればいいのね」
「そういうこと、簡単でしょ?」
なるほど、と私は少し考え込む。
賽子は一般的な、地球にもあるごく普通の賽子。1から6の穴が開いており、四角い形をしたおもちゃ。子供からカジノまで幅広く使われている、普通の賽子。
今回はその賽子を振って、出る目をあてるゲーム。
ただし私が選べるのは"1"か、それ以外の"2から6"の二つのみだ。
常識的に考えれば2から6を選ぶだろう。と言うより細工がされていない限り1を選ぶメリットがない。
では何故あえて1を選ぶ選択肢を残したのか、それが疑問だ。
「出た目の数を当てるって言ってるけど実質2択じゃない、賽子の目を当てるっていうから6択かと思ったわ」
「そうだね、でも2択の方がはるかに簡単でしょ?それも1かそれ以外かなんて、僕にしてはあまりに優しい遊びだと思うな~」
少年は笑顔で愛嬌を振りまく。なるほど、その笑顔は偽りね。
そしてここまで来てようやく思いだした、この少年が何者なのか。先週あたりにバケモノ男が話してた事と同じ状況だ。
私は再び警戒を始める、この遊びは遊びじゃない。
「それで、私が勝ったら何かあるの?」
ただの遊びなわけはない、必ず勝ち負けに何かあるはずだ。後でルールを確認しなかった等と揚げ足を取られるなど以ての外だ。
「もちろん、ただで遊びに付き合ってもらうとは言わないよ。そうだね、君が今一番望んでいることを口にしてみてよ。僕の叶えられる範囲の事ならなんでもしてあげる」
少年は余裕を持って答える。それほど自信がある。いえ、私が負けると確信しているのだろう。
正直危険なら勝負はしないつもりだ、こんな遊びとは名ばかりのゲームに付き合ってられるわけがない。
けれど、今の私には一番欲しいものが。いや、知りたいことがあった。
それは──。




