第十一話「遊戯神へと至るまで」
最初は勝つ楽しみを得る為に努力していた。そして何よりその努力によって勝てるのが本当に嬉しかった。
遊びは楽しい。正法から逸脱したやり方で相手を驚かしたり、あえて非常識に振る舞うことで疑いを誘ったり。様々なやり方が勝ちに結びつく。
この世界とは違って制限がない、ルールだって自分達で決められる。
僕は沢山の遊びをしてきた、それは誰もが出来る単純な勝負から高度な対応を求められる勝負まで様々。
そこには大金を賭けたものから命を置く勝負だってやってきた。
やってきて、ただ勝負に全力で勝ちに行った。ただそれだけなのに。
……僕はいつしか知性ある人々に恐れられた。
周りに貶され裏切られ、最後には牢獄に入れられた。
度重なる勝負で無敗を記録し続けていた僕は、イカサマをしていたと容疑を持たれた。
当然僕はそんなことをした覚えはない、ルールの範囲で出来ることしかやってない。
公の場で種明かしだってしたのに。みんなは僕を遠ざけるばかりで、誰も僕の言うことを信じてはくれなかった。
やがてはこの世界から僕を抹消しようと試みだす連中もいた。
……みんな、みんな僕を目の敵にしていたんだ。
「お前の遊びで何人死んだ?何人不幸にした?何人の大切なものを奪ってきた?賭け事は遊びじゃねぇ、みんな勝つ可能性があるから賭けるんだ。お前みたいなイカサマだらけのペテン師に一体どれだけの人間が犠牲になったと思ってる。俺達はお前を許さない、一生を掛けてその分を償え」
厳重な牢獄に閉じ込められ、そんな言葉をかけられる。
何重にも掛けられた箱の中で一人蹲り、口に含んでいた金具を吐き出して手錠を解く。
そしていつものように手を捻り、牢屋の柵を開け始めた。
……今度は柵を開ける脱出の遊び。
なのに何故か身体が重い、楽しくない。楽しいのに、楽しくない。遊びは楽しいのに、なんで……。
暗い部屋の中、見た目が子供同然の僕はゆっくりと扉の解錠を始める。
この技術も遊びのために、全ては遊ぶために学んできたのに。対等な条件で遊んでいたはずなのに、勝ち続けただけで追い立てられる。
勝てる時は勝つのが当たり前、手を抜いたら僕にとって遊びじゃない。それでも、自ら少しは負けるべきだったのだろうか。
いや。身体がもう、負けを覚えていなかった。
「……イカサマされていたのは僕の方だったのに」
最初は勝負師の神童なんて言われていた。賭け事は良いこととは言えないけれど、僕を育ててくれた村のみんなの費用のためには手段なんて選べなかった。
──みんな、最初は喜んでいた。みんな、最初は感謝していた。
そして今、僕は牢獄に放り投げられている。首謀者は僕の親で、協力者は村のみんな。
「……あはは、ばかだね僕は」
村のみんなを救ったのは、昔のあの頃の日々が続いてほしいと思ったから。
村のみんなが僕を牢獄に入れたのは、そんなあの頃の日々を取り戻そうとしたから。
……そっか、そうなんだ。村のみんなはそれを望んだんだね。
思考は行き着く先を越えては戻り、やがてそれを見つめる愚者を演じる。
村のみんなは僕が巻き上げた資金で生きていくより、僕を牢獄に入れることで手に入れた懸賞金の資金で生きていくことを選んだらしい。
とても正義感の強い、正しい行動だ。正しいが故に、間違っている人は断罪される。
僕は遊び人、楽しい事をして自由に生きる。常識なんて嫌いだ、常識は人を守ると同時にその他の全てを奪っている。
僕は遊び人、人生を面白おかしく生きる全知な愚か者。
「──愚者は愚者らしく自由に生きよう、自由は良いことも悪いことも出来る。価値観は僕が決めよう、常識は僕の中に作ろう。ルールの中で遊べないのなら、ルールの外で遊べばいい」
もうこの世界の遊びは全部尽くした。無駄な駆け引きも、余計な賭け金も。そんなものはまがい物でしかない。
だからもうこの地位にいるのはやめよう。僕が楽しめるルールを作ろう。
そんな考えを抱いたまま、僕は果てしない旅へと足を踏み出した。
──
────
──────
それから6000年。僕の名前はいつしか人々に知れ渡り、"遊戯神"として歴史に名を刻んでいた。
相変わらず僕は非常識と言われている。この世界ではもう僕と対等に遊べる者はいない。
知能の神や知識を全て持っている賢者とも遊んだ事があったけど、結果は全勝だった。
挙句には賢者に「お前のやっている事は理にかなっていない、あまりに愚かすぎる」と説教をされたが、所詮は負け犬の遠吠えだろう。
いつしか1人を除くこの世界全ての強者に遊びで制覇し続け、気づけば僕は神と言われる領域に足を踏み入れていた。
遊びで勝ち続ける無敗の神、遊戯神トリック・スター。
歴史にはそう名が刻み込まれている。
あれからもう6000年は経つのに、僕は死なないどころか見た目が子供のままだ。
きっと不死の塔なんて馬鹿げた名前の塔の頂点にたどり着いたのが何よりの原因だろう。
やがて僕は負ける事を忘れ、スリルさえ感じなくなり。勝手に意識が勝利へ導こうとするまで遊戯の全てを知り尽くしていた。
そんな今の僕からしてみれば、全ての遊びは僕が勝つ前提の勝負と成り果てる。
空間を操り空気を自在に動かし、他人の心理をコントロールしながら全てを思いのままにする。
もはや勝負なんてただの作業でしかない。あの頃の勝つことへの執着心はもう、失っていた。
──そんな僕が最近している事は、知恵のある人間を捕まえて命賭けの勝負をさせることだ。
命をかければ人間は本気になる、本気にならないと遊びにすらならない。
けど、それでも今の僕は誰よりもつまらない顔をしているのだろうね。
「そういえばあの男、この前人間を捕まえたって言ってたな~」
つまらない顔はやがて笑顔を取り戻すように、滲み出た狂気に染まっていく。
あいつが人間を捕まえるなんて余程のことだ、きっと大切な玩具なんだろう。
そして唐突に思いついた最低最悪な名案にニヤケが止まらなくなる。
「もしアイツのオモチャを壊したら、どんな顔をするんだろうなぁ~?」
僕は子供のように無邪気に跳ね上がる。
もう勝つのは決まった答えだ、だったらどうやって勝つかを考える方がもっと楽しい。
人間なんて脆い生き物。あの男の悔しい顔を見るためならどんな大切なものだって……壊しに行ってやる。
雲の空から身を投げ出し、森に囲まれた巨大な屋敷の元へと飛び降りる。
そして目的の少女を前に、僕はニコっと微笑んで挨拶を交わした。
「こんにちは、小さな小さな人間さん」




