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これがわたしの花嫁道  作者: 傘 ハヂメ
エベリア村
8/82

6

「おいおい、ドルゴ。まだ、なんの説明もしてないんだぞ」

「アンドレ! おまえは話が遅い! 王子から可及的速やかにとのお達しだ。話なら馬車の中でもできるだろう! すぐ出立するぞ。マナ、急いで荷造りをはじめなさい」

「待て。この件は強制ではないと言ったのはおまえだろが」

「ああ、もちろん強制ではないぞ。そうだ、マナよ! 私の馬車に乗りたくはないかね? 最新式の馬車で乗り物マニアの心をくすぐる外観と装備なのだよ」

「えーっと、いえ、べつに興味はないです」 

「マイガー! あの馬車に興味を持たないとは、とんだ誤算だ。馬車の中で事後承諾させる予定がオジャンではないか! おい、このままでは若き英雄が誕生しないぞ。どうする気だ? アンドレ!」

「待て、ドルゴ。おまえ飛ばし過ぎだ。マナが固まってるじゃないか」


 なんなんだ、この状況は。

 そこへ、さらにドドドドと足音をたてて、大音量で怒鳴り込んでくるひとがいた。


「アンドレーッッ! おまえ、ドルゴにウチの娘を売りやがったそうだな!」

「濡れ衣だ! おれはむしろドルゴを止めてたんだぞ!」

「ジギー、入っちゃダメよ。まだ、話がおわってないんだから」

「お、お父ちゃん!? それにお母ちゃんも」


 フラフラどこかにでかけていた父と、このお館で働くメイド服を着た母が騒々しく乱入してきた。

 見れば父は薄汚れた革鎧姿。さっきまでなにをしていたんだろう? あんな姿は初めて見た。


「マナ、王都になんかいく必要はないからな。戦いなんて最強のおれに任せればいいんだ。そんなことは女の子がするもんじゃないぞ」

「た、戦い? 最強?」

「ジギー黙りなさい、マナはわたしたちの娘なのよ。きっと成し遂げるわ。でもね、マナ。危なくなったら誰でもいいから盾にして、自分だけは逃げなさい。他人のことを考えてたら死ぬわよ」

「ち、ちょっと待って、お母ちゃん。わたし、話が全然わかってないんだけど。あと、サラッと酷いこと言ってない?」


 父と母まで加わって、場がさらに混乱する。


 領主がわたしに用があって、戦争のはなしになったと思ったら、魔物がどうとかで、なぜかわたしに王都に行けという。

 もうなにがなんだかわからない。それに狭い客間に人が多すぎでしょ。


「まったく。話の中心のマナさんが困っているじゃありませんか」


 父と母のうしろから困ったような気弱な声がした。

 室内の人垣をかき分けるように現れたのは、このひと、絶対に苦労人だろうなぁ、と思わせる弱々しい雰囲気の丸眼鏡をかけた青年だった。 


「先輩方は変わりませんね。騒々しいことこの上ない。いつになったら大人になってくださるんですか。みなさんを見ていると、こいつら頭わるいんだろうなぁ、って思えます」

「アルト、てめー、久しぶりに会っといてその言い草たぁ、いい度胸じゃねーか」

「そうだ、アルト。おまえは昔から気弱なくせに、思ったことをすぐに口にだしおる! けしからんな」

「アルト。おれをこのふたりと一緒にしないでくれ。おれがいつも止め役だったのは、おまえだってよく知ってるだろう」

「アルトくん。わたしまでジギーたちと一緒の精神年齢に叩き落されてるのはなぜかしら? あと、あなたのこと引っ叩いてもいい?」


 全員が好き勝手に喋っている。

 アルトさんは「はぁ」と溜息をつき


「わかりました、はい、わかりました。いったん、みなさん、部屋から出ていってください。マナさんには、わたしから詳しくお伝えしますので」


 どうやらこのアルトさんというひとが事情を詳しく教えてくれるらしい。

 でも、みんな部屋から出ていくってことになると。

 ……じゃあ、やっぱり、ラグもいっちゃうんだよね。


 アルトさんはわたしととなりのラグを見比べると優しく笑った。


「ラグくんは、この場に残ってくださいますか」

「あ、ぼく……ここにいていいんですか?」

「ええ。そのほうがマナさんも安心するでしょう」


 そう言って、わたしの腕を指さした。


「なにしろ、そんなに不安そうにあなたの上着をしっかり掴んでいるのですからね」


 言われてわたしは気が付いた。

 ラグの袖をしっかりと指で摘まんでいることに。

 そしてラグがわたしの指に自分の指を重ねていたことを。


「いいですね、淡い恋が垣間見えるエピソードですよ。あ、申し遅れました。わたしは文官のアルトと申します。おふたりとも、どうぞお見知りおきを」


 たしかにこの人、苦労人で押しが弱そうだけど、見かけによらず言いたいことは結構言うタイプみたい。じつは食わせ者だったりするのかも。

 アルトさんの生暖かい笑みに恥ずかしくて俯いてしまう。


 横目でラグをチラっと見る。

 耳を赤くした彼は、反対側に顔を背けてその表情を見せてはくれない。


 けれど、わたしに重ねたその指を離すようなことはしなかった。


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