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これがわたしの花嫁道  作者: 傘 ハヂメ
プロローグ
1/82

1

 ついに、この時が来た。


 この国を混乱たらしめた魔物は、ついに滅んだ。わたしたちは成し遂げた。


 その成果が王城で今行われている、この盛大な式典だ。


「神託の使徒たちよ。前へ」


 王様が威厳に満ちた声で告げた。

 わたしたち五人はついていた膝をゆっくりと上げ、前へ進み出る。


 謁見の間に集まる各領主や王都のお偉いさんも達成感に満ちた顔つきだ。

 普段は公の場には近寄らない冒険者ギルドのマスターも今日は顔を出している。


 彼女にも随分と苦労をかけた。

 あのひとがこの時を待ちわびていたのは当然だ。


「よくぞ長きにわたり戦い、務めを果たした。さっそくだが望みを言うことを許す。王の名において叶えることを誓おう」


 長かった。そして辛かった。あんな思いはもうしたくない。

 それがみんなの共通認識だろう。わたしだって二度とごめんだ。


 でも、わたしが辛く苦しい道のりを頑張れたのは、この瞬間のためだ。

 わたしがそんな感慨にふけっていると、広間の視線を一身に受けた格闘家、拳のダガンが一歩前に出る。


「わたしの願いは我がモンブドー家に着せられた濡れ衣の撤回と名誉の回復です。あとはなにも望みません」


 二メータルを超える巨体を誇示するように立ち、金色のその目で王様を見つめる。

 今日の彼の精悍な顔つきも頼もしいけれど、わたしとしては大事な場面でダガンが『わたし』と、ちゃんと言えたことを褒めてあげたい気分だよ。

 いつもみたいに『おい、おっさん。おれ様はよお』とか言われたらどうしようかと思っていた。あと、いつもボーボーの無精髭も、ちゃんと剃ってきたのにもビックリだ。


「あいわかった。その願い、たしかに聞き入れようぞ」


 王様は大仰に頷き、次にダガンの右隣にいるルン教団の神官、癒しのエレに目を向けた。

 彼女は教会の最高位だけが持つことを許されるその錫杖をシャンと鳴らして宣言する。


「わたしの望みはこの国の復興です。傷ついた民を癒すことがわたしの望みですー」


 三国一の美少女と謳われた、その愛らしいお顔でそう言うと頭をさげた。

「おお、さすが女神の巫女。戦いが終わっても献身の心を忘れないとは」といったどよめきが聞こえる。


 うん、本当にエレは立派だ。わたしも親友として鼻が高い。

 ただ、その後に顔を赤らめて「あ、あとは……えと、エリオス様のお嫁さんになりたい、かなー、みたいなー?」と、俯いて言ったのが、音声増幅器のせいで広間中の人に聞こえているのはご愛敬。本人は小声で言ったつもりみたいだけどね。

 本当に可愛い子だ。いつものように抱きしめたくなるけど、ここは謁見の間。お偉いさんの目がたくさんある席なので、我慢我慢。


 そのエレの宣言を苦笑交じりに聞いていた、光の使徒にして第二王子、剣のエリオスは王様に向かって力強く言った。


「わたしもエレと志を同じくします。王を支え、民に寄り添い、荒廃したこの国のために尽力することを誓います」


 城内にまたもや「おお」と感嘆の声が響く。

 さすが優等生キャラのエリオス。周囲の心情を慮って絶対に外さない発言をする。


 けれども、自分の要求も忘れないのがエリオスという人物だ。

 エレの手をしっかり握りながら「ゆくゆくはエレを娶り、ふたりで国の未来の希望となります」と高らかに結婚宣言。

 隣のエレが「キャー! 恥ずかしいです。ぐえへへ」と言ってニヤニヤしているのが微笑ましい(笑い方がすごいキモイけれど)。


 二年にわたり恋を応援していたわたしとしても、このふたりにはいつまでも仲睦まじくじてもらいたいものだ。

 ただ、今はキャーキャー騒ぐのはやめたほうがいいと思うのよ。王様とお貴族様が困った顔で見ているからね。


 そしてわたしたちの真ん中にいる第一王子。盾のレオーネは静かに、しかし堂々と言う。


「父上、わたしも個人的な要望よりも国を立て直すことを、まず念頭に置きたいのです」

「ほう」


 レオーネの言葉は本心なんだろう。愉快そうに王様は破顔する。


「わたしは各地に赴き、民心をいつも身近にしてきました。平和になった今こそ民に誓いたい」

「うむ……うむ」

「エリオスと心は同じです。国のため、民のためにこの身を捧げる所存です」

「そうか、よくぞ言った、第一王子よ」


 王様は本当に嬉しそうに、うんうんと頷く。

 目じりに涙が滲んでいるようにも見える。


「そしてわたしも妻を娶り、やがては国を継ぎ、王妃とともにより良い未来を築いてまいります!」


 城内から「おおっ!」と声が響き渡る。

「レオーネ王子が、ついに……」とすすり泣くお城のひともいた。王様とおなじく万感の思いなのだろう。


「レオーネの心意気や良し。しかと聞き入れた。して……」


 王様はさきほどまでの威厳に満ちたスタイルのどこへやら。今はもう相好を崩して玉座ですっかりリラックスしていた。

 あれじゃあ、王冠と豪華な御召し物がなければ近所の人の良いおじさん丸出しだ。


「偉大な黒の魔法を使うものよ。そなたの望みはなんだ。言うてみい、おっちゃんが聞いてやろう」


 王様はニコニコしながら、わたしに聞いてきた。こんな場でおっちゃんを自称していいのかね?

 と、まわりから視線を集めていることに気づく。


 王様と王妃様をはじめ、領主様やお貴族様にお城勤めの方々。みんな、二年のあいだにすっかり顔なじみなった人たち。

 仲間もわたしを見ている。ダガンはさっきまでの凛々しい顔は影を潜めて、いつも通りのニヤけ顔。エレとエリオスは繋いだ手もそのままに、わたしに微笑んでいる。


 そして――レオーネがわたしを見つめていた。

 決意を宿した力強い眼差し。その琥珀色の瞳で優しくわたしに微笑む。


 仲間やまわりの人たち、ひとりひとりと視線を交えてからわたしはレオーネの顔を見上げる。

 彼は右手を差し出した。それをわたしはしっかりと握る。その手はとても温かい。


「レオーネ……」

「なんだ?」


 彼の視線が恥ずかしくて顔が熱いし、たぶん真っ赤だ。

 けれど顔が赤いのを隠せないのは、この先に言うことを考えれば仕方ないと思う。

 わたしは真っすぐに彼を見た。


「ありがとね。わたし、あんたのおかげでここまでこれたよ」

「……わたしもだ。おまえがいたから戦いにも勝てたし、わたしはここにいることができるのだ」

「うん……へへ。なんか照れるね」

「そうか……。だが王と皆に言うべきことはきちんと言うのだぞ」

「うんっ!」


 ああ、こんな日が本当に訪れるなんて。

 そうだ、わたしはこの日のために二年間頑張って、夢を現実にするために今日を迎えたのだ。

 それも彼の助力がなければ無理だったのかもしれない。


 ――本当にありがとう、レオ。


 決意を固くして、すべてのひとに聞かせるように大きな声で言う。


「わたしは故郷に帰って幼馴染のラグと結婚します。そしてふたりで畑を耕して生きていきます。あと、王都には今後二度と来ないと思います。みなさん、今までお世話になりました!」


 満面の笑みで言い切って充実感と満足感に震えるわたしの耳に、レオの絶叫が突き刺さった。


「うおおおおおおおい! 待て待て待て! ちげーだろ、おいいい!?」

「うるさいなー。デカい声出さないでよ。なにも違くないよ? わたしがそのためにがんばってきたのは、あんたも知ってるでしょ」

「きっかけがそうなのは知ってるけどよお! つーか、おまえ、まだあのクソガキに惚れてたのかよ」

「ちょっとあんた! クソガキってなによ。わたしのラグを悪く言ったら承知しないよ」

「なにがわたしのラグだ、このアホ女。あんなクソガキなんかよりおれのほうがなぁ、ずっとなぁ!」

「アホ女ですってえ! しかも、またクソガキって言った! もー、あったまきた。あんたを結界で囲ってからインフェルノをおみまいしてやるんだから!」


 剣呑なわたしたちに王様が青い顔をする。


「衛兵出あえー! 今すぐレオーネを取り押さえるのだ!」


 その声を合図に多数の兵士が歓声やら怒声をあげて押し寄せてきた。


「イテテテテッ! おまえら乗っかってくんじゃねえ、重いだろ! おい、待て、ドサクサまぎれに殴ってきたのはどいつだ! アダ! 蹴りいれんな! つーか、なんで取り押さえられんのが、おれなんだよっ! 古代魔法をブッ放そうとしてるこいつをどうにかしろよ!」



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