戦士と女神官(見習い)
「あなた!ちょっと一緒に来てもらいます!」
グッと腕を掴まれ、トッシュは女神官に引っ張られる。
自分よりもかなり小柄な体からは想像も出来ないような力で。
「うわわ……っ!」
この世界の生き物は魔力によって身体能力を高めているので、魔力の使えないトッシュでは抗う事は出来ず、なすがままに引きずられてしまう。
「待つのね!彼をどうするつもりなのね!?」
慌ててポピンが止めに入り、女神官の行く手を阻む。
「彼が私達の探し求める人物であれば、まずは手厚く治療を受けていただき……
然る後にその役目を果たしていただきます。」
「あの……それって探してる人と違ったらどうなるんですか?解放してもらえます?」
「いえ、死刑になります。」
ーーー死刑。
冗談じゃない、この世界に来てすぐに死にかけて
せっかく拾った命なのに何だか分からない理由で殺されるかもしれないなんて!
そう思って力を込めて抵抗するが、小柄な女神官は巨大な岩かの如く動かす事すら出来ない。
「そんな事、急に言われても納得出来ないのね!
彼は連れて帰るよ!」
「そうはいきません、世界の命運がかかっているのです!」
「神殿が何も知らない若者を理由も告げずに連れ去るだなんて、穏やかじゃないね……!
しかも、場合によっては殺すとまでハッキリ言っている。
こんな事が世間に知られたら、世間はどう思うのかね?」
「構いません。これは教皇様のご意志です。
それに時が来れば皆分かってくれます。神殿の行った事は正義だとね!」
語気を強める女神官に、ポピンは諦めにも似た視線を向け小さな溜め息をもらす。
「……それなら、力ずくで彼を連れ帰らせてもらうしかないね。」
「私をただの見習い神官だと思って侮ってもらっては困ります。
私はアリア!
アリア・ペンネ・グラト!!
齢20にして、中位魔法をも操る……将来必ず聖光教の聖女と呼ばれるこの私に勝てると思ってるの!?」
どこから取り出したか、光で出来た手錠のような物をトッシュの両腕にかけ、アリアは黄色く光る石のはめ込まれた小さな杖をポピンへと向ける。
あと、何故か口調も変わっている……恐らくこっちが本当の彼女なのだろう。
「そう言うことは自分で言うものじゃあないと思うんだけどね……」
とんちんかんな自己紹介に半ば毒気を抜かれたようなポピンだが、その目はしっかりとアリアを見据えていた。
「私の名はガゼット・ウル・モンカ!傭兵団、甲羅の無い亀の団長だ!」
(……??ガゼット?甲羅の無い亀?)
理解の追い付かぬトッシュを尻目に、ポピンは腰に差したメイスを構える。
形状こそ、棒の先端に球体の据え付けられた普通のメイスだが
持ち手は木製、先端に据え付けられているのは大きな氷の塊だった。
おそらく、溶けて無くなったりしない魔法の氷なのだろう。
合図など無しに戦闘が始まる。先手必勝とはよく言ったもので
初めの一撃でダメージを与えればそれだけで戦いは有利になるのだ。
負けられない戦いでは、正々堂々などと言ってられないのだろう。
「光の精霊よ、我が敵を焼き尽くす矢となりて仇なす愚か者に制裁を与えよ!……くらえ!シャイニングアロー!」
杖の先から発する光が矢の形を成し、ポピンを目掛けて飛んで行く!
両者の間は数メートルも離れておらず、飛びかかれば組みつける程度の距離であった。
にも関わらず、女神官アリアが遠距離攻撃であろう魔法の矢を使ったのは体格の良い男相手に近接戦闘では分が悪いとふんでの事なのだろうか。
「甘いっ!プロテクションウォール!!」
ガキンッ!と矢が弾かれる高い音が辺りに響く。
目にも止まらぬ速度で放たれた光の矢は、ポピンの身体に触れる前に、氷のような障壁に阻まれ弾かれて消えた。
「ふーん……やるじゃない。
おじさんってまさか、無詠唱魔法が使えるのに戦士なんかやってるの?」
矢を放つと同時に後方へ飛んで距離をとっていたアリアが、羽のようにフワリと着地をする。
「いや、私にそんな才能は無いね。
……ただ、戦いが始める前にあらかじめ詠唱をしておいただけなのね。」
「それって、精霊力と魔力を発揮させずに体に留めてるって事かしら?
どっちにしても凄い才能がないと出来ないと思うけ……ど!?」
アリアが言い終わる前に、ポピンが一瞬で距離を詰め
太っちょの見た目からは想像も出来ないような早さで、胴体目掛けて横凪ぎにメイスを振るっていた!
「早い……!
だけど、残念でしたー!その攻撃は予想してまーす!
勝つのは私でーす!」
回避不可能と思われる攻撃を目前にしてもアリアは余裕の笑みを笑みを崩さない。
唐突に戦闘です。
ちょっと無理やりかな……
まだ主人公戦ってないんですけどw
10話位で主人公の戦いにしたいと思ってはいるんですが……なかなか上手くいかないもんですね