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超短編物語集  作者: サ野 アさよ
3/3

どんな小さなことでも、夢はありますよね。

それがあるから楽しめます。

「間もなく9番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側まで、下がってお待ちください」


 ふふふ。もうすぐだ。もうすぐ夢が叶うぞ。


「はい、お下がりください。お下がりください。電車が参ります。お下がりください」


 おっとっと。正直興奮しすぎて気づいてなかった。しっかりマナーは守らないと。

 夢が叶う寸前というのは、これほどまでにワクワクするもんなんだなぁ。

 そんなことを考えていると、遠くの方から電車が入って来る。

 いつもの見慣れたフォルム。そしてホームに入るまでの、ゆったりとした走行スピード。

 すべてがいつも通りである。

 でも今日はちょっと違うのだ。夢が叶うから。

 それだけなのに、いつもの光景がこんなにもワクワクするものになるとは思わなかった。

 面白い事実が知れたな。


 ガタン、ガタン、ガタン、ガタン。


 そう言っている間に電車がホームに入ってきた。

 ワクワクが止まらなくなってくる。


 ガタン、ガタン、ガタン、ガタン、ガタン……、ガタン……。


 電車がゆっくりと止まった。それと同時に俺は顔を上げる。

 そして目の前の光景を見て、喜びが爆発した。

 よっしゃー! 二階建てのグリーン車だ!

 ついに乗れる。少し贅沢が出来る人の証である、グリーン車に乗ることができる。

 ずっと今日まで、この瞬間を夢見ていた。本当に涙が出そうだ。

 幼少期、俺は何度もグリーン車に乗りたいと、親にお願いをしたものだ。

 しかし経済的な理由で、それは一度も叶わず、いつしか夢の一つとなっていた。

 高校生くらいになれば、こんな夢あっさりと叶えられると思っていた。

 修学旅行でも新幹線に乗る夢は叶えられたのだから、グリーン車も同様にあっさりと。

 だがそんなに甘くなかった。なかなか時間が無く、そしてきっかけもない。

 もうこのまま乗れないのか。夢は叶えられないのか。

 そんなことを思いながら社会人になり今日、転機が訪れた。


『君に大阪支社への転勤を命じる』


 これできっかけが出来た。そして社会人になったことで、経済的にも余裕が出来た。

 これでようやくグリーン車に乗れる。2階建て車両からの景色を満喫できる。

 本当に嬉しいなぁ。いろいろしんどかったけど、頑張ってきて良かったなぁ。


 プシュー。


 そんなことを考えているとドアが開く。そのドアも両開きではなく、片開きのものだ。

 これだけでもリッチな人と思える。

 よーし。思いっきり楽しむぞー。

 俺は意気揚々と電車に乗り込んだ。



 俺の夢の旅は終わった。

 感想は……、意外とそんなに感動しなかったな……。

 正直何度か大阪支社には行っていたので、景色は見慣れたものだった。

 確かに最初は感動した。いつもよりも高いところから見る光景は、少し新鮮ではあった。

 でもそれも数分経てば、だんだん薄れていくものだった。

 その後は見慣れた景色が続くばかり。

 感動する要素は少なかった。

 さて、早く会社に向かうか……。


 俺はいつもの日常に戻って行った。

でもそれが案外大したことなかった時もあるでしょう。

過度な期待はしない方が良いかもしれません。

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