1話 見知らぬ地
こんばんは、狼天狗です。
本日もお越し頂き誠に感謝します。
さて、今回から本編の方が始まります。
かと言って、原作主人公が一番最初に出るとは限りません。しかし、ヒロイン補正キャラのあの子が出る…?
ではでは、お楽しみ下さいませ。
気が付いて目を覚めし体を起こすと、目の前には魔女の住んでそうな西洋風の一件家があり、その辺りだけ木が伐採されていた。
空を見上げると、どうやら時刻は夕方前。
その一軒家の見た目は、陰鬱なイメージは無く、明るいイメージを感じる。そして、扉の横には"霧雨魔法店"と書かれた看板が立て掛けてあった。
どうせ何もしないよりマシだと、勇気を出して扉を叩く。だが、返事は返ってこない。
留守かな? と、どこか安心する俺。しかし、直ぐに安心からの気持ちは変わった。
後ろから何者かが落ち葉を踏む足音が聞こえてくる。よくよく考えれば、ここは見知らぬ地だ。何がいても可笑しくは無い。
ビクビクしながら、ゆっくりと振り返る。化け物か獣かと思いきや、目に映ったのは人間だった。
その人は銀髪と白髪の混じったような色でショートボブに、一本だけ跳ねあがったアホ毛がある。
瞳の色は金色で眼鏡をかけており、眼鏡は下だけ黒い縁がついたやや楕円形の物を着用していた。
黒と青の左右非対称のツートンカラーをした洋服と和服の特徴を持っている服装で、首には黒いチョーカーを付けている。
どうやら、青年男性のようだ。
俺は声を掛けようとした。だが、それを拒否するように体が硬直していた。
俺を見かねた彼は、声を掛けてくれた。
「君は里の人間……では無さそうだね」
思ったより優しい声で、気を遣って問いてくれた。俺は声が出ず、頷く事しか出来なかった。
「取り敢えず、僕の店へ案内しよう。もう少しで夜になって危険だからね。そこで軽く話を聞くよ」
彼はそう言って、背中を向けて元来た道であろう場所を通って行く。俺も慌てて、見知らぬ人物を追い掛けた。
道中。俺は自分から名乗って、その青年に名前を聞いた。
「俺の名前は紫月封太。お前の名前は……なんだ」
「おや、やっと喋ってくれたね。名乗ってくれたし、聞かれたからにはしっかりと答えるよ。僕の名前は森近霖之助。今向かっている場所は、この森の入り口にある"香霖堂"だよ。詳しい事はそこで話すからね。それにしても……君は化け物茸の胞子に強いね。胞子が宙を舞う中、よく瘴気に耐えられるよ。ここの環境は人間だけでは無く、妖怪にも適していないからね」
霖之助は何故此処を通って来れたのかと疑問に思う前に、自分が何故その様な耐性を持っているのかが気になって仕方がない。 それは香霖堂で聞くとしよう。
数分後。遂に出口らしき場所に辿り着く。そしてその近くには、瓦屋根の目立つ和風の一軒家が建っており、入り口はドアで、窓は障子で合っていない。隣には大きな倉があった。
霖之助如く、見事な桜の木が一本生えており、春に一人静かな花見を楽しんでいるらしい。
霖之助に中に入れてもらい、中を拝見する。中は締め切っているためか薄暗く、様々な道具や、一見ガラクタに見えるモノが並べられていたりしていた。更に、奥の部屋には霖之助が私生活で使っているであろう場所があったが、中々清潔感が無く、散らかっていた。
「散らかっているが、そこらへんに腰でも掛けてくれ」
取り敢えず置きっ放しにされているガラクタを退けて、その場に座り込む。その間に霖之助がお茶を出してくれた。
「まず初めに、僕から質問してもいいかな?」
俺はコクリと頷く。
「ありがとう。それじゃあ、まずは簡単な質問からだ。君は……幻想入り、したのかな?」
「幻想……入り?」
「おっと、全然簡単な質問じゃなかったね。もっと簡単に質問しよう。違う世界から来たのかな?」
違う世界……やはり、俺はあの光に包まれてこの世界へとやって来たのか。となると、此処は一体どこになるのだろうか。
「どうやら、その様だね。それじゃあ、簡単にこの世界の事を説明しよう。ここは"幻想郷"と言って、君の住んでいた場所、日本の辺境の地で、ここには妖怪などの人外のものが多く住んでいるが、僅かながら人間も住んでいるんだ。
実はと言うと、僕は人間と妖怪のハーフでね。君が目覚めた場所であろうあの家、霧雨魔法店で昔はお世話になってね。今はそのお店の店主の娘だけが住んでいるんだけどね。どうやらさっきは居なかったようだ。因みにあの森は、魔法の森って言うんだ。
そんな事は置いといて、ここ"香霖堂"には外の世界で消えつつある道具が流れ着くんだ。ここにある商品が全てそう。いくつか販売している。因みに人間も同様、流れ着くよ。そうだな……君はこれから、どうするんだい?」
急にそんな事言われても困る。だが、俺は何もかもから忘れ去られて、消えつつあった存在。つまり、元の世界に戻れる手立てがあったとしても、戻らない。あんなツマラナイ場所は二度とゴメンだ。
まだ見知らぬ人物と接している方が、気が楽だ。
「どうやら答えが決まったようだね。こんなに散らかって寝る場所が無いが、まあ適当にそこら辺で寝てくれ。僕はする事があるから」
霖之助はそう言って、部屋から出て行った。俺はその辺に置かれたガラクタを退けて、寝れる分だけのスペースを取って寝転がる。朝起きたら鼻が痛くなってそうだ。
翌日。俺は目を覚ますと、新聞が窓の障子を突き破って顔面に降って来た。
新聞を手に取り目を通して見ると、"文々。新聞"と書かれていた。変わった名前だな。
どうやら霖之助は作業机で寝ていた。起こさないようにスッと外に出て、太陽の光を浴びて伸びをする。時間は外の世界と変わらないんだな。私生活には干渉しなさそうだ。
森の入り口の反対側。簡単に言えば森の入り口から続く道の先を見ると、町か里であろう建物が沢山ある場所が目に映った。あそこに人間が多く住んでいるのだろうか。
霖之助が眠っている間に軽く見物して来よう、そう決めた。
行ってみると、どうやら其処は里のようだった。建物を見上げながら歩いていると、一人の少女にぶつかってしまった。
その少女は朱鷺色の羽を持ち、更に頭にも同じ色のした羽が生えており、ひょこっと角みたいなのも生えていた。
髪の色は前髪の一部だけ紺色で、全体は鳥の子色をしていた。
俺は手を差し伸べ、少女を引っ張り起こす。見た感じ、鳥の人外だな。
「ごめん、大丈夫か?」
「うん。お兄さん里の人?」
「いや、そう聞かれると違うんだが、外の世界って所から来てだな……」
其処まで言うと、少女は目を輝かせて俺の顔に顔を近付けて来た。ビックリして一歩下がる。
「私、朱鷺子って言うの! お兄さんは?」
「お、俺は紫月封太だ。あ、其処に本が落ちているぞ。お前のか?」
俺は朱鷺子が持っていたであろう、落とした三冊の本を拾って渡す。朱鷺子がそれを受け取ると、大事そうにギュッと握り締めていた。
その本には題名が無く、何の本なのか聞いたが、内緒との事だ。まあ、問い詰める事でも無いだろう。
ここで立ち話するのもお互い辛いので、一度香霖堂へ戻る事にした。
香霖堂へと帰って来ると、霖之助が俺が起きた時に投げ込まれた新聞によって破かれた障子を、今朝届いた新聞で補強していた。なるほど、そうやって直すんだな。
「お帰り。そっちの子は?」
「朱鷺子って言うらしい。里でぶつかって」
「もう里に行ったのか。それより、お腹は空いていないか? 今から朝食を食べに行くついでに歩いて周ろうと考えていた所なんだ。朱鷺子も遠慮せずに、食べに行こう。また其処で封太と話せばいいさ」
俺は頷き、朱鷺子に振り返る。朱鷺子も笑顔で、大きく頷いた。
外に出て、再び里に向かう。霖之助によると、人間が住んでいる里にも妖怪が住んでいて、楽しく触れ合っているらしい。
実際に俺は現代の方では金欠で、一日に飯が食えるかどうかぐらいだった。高校入学直後からバイトを始めていたが、どうにも賄えなかった。だからある意味空腹には慣れていた。
暫く歩き、とある店の前に着く。その店は、どうやら和食店の様だ。
店内に入り、四人席に着く。俺と朱鷺子が隣で、正面に霖之助が座った。
朱鷺子はじっくりとメニューに目を通し、ヨダレを少し垂らしていた。碌なものでも食べていないのだろうか。
俺もメニューに目をやり、食べたい物を選ぶ。それを霖之助に頼んでもらい、その間雑談をする事になった。
「外の世界の文明で、何か持ち込んでいないのかい?」
「文明……か。その時は荷物なんて持ってなくて、この衣服ぐらいだな。それに電子器具とかは、金が無くて持てなかったし。幻想郷には、そういった電気製品はあるのか?」
「どうやら、"山"の方で河童達が発明しているらしい。だが、其処は危険だ。妖怪が沢山住んでいるし、天狗もいるからな」
幻想郷も独自に文明が発達しているんだな。一度周ってみたいものだ。
そんな他愛もない話をしていると、一人の少女が店内に入って来た。そして、こちらを見るなり声を掛けてきた。
「どうも、霖之助さん」
その少女は、笑顔で言った。
【人物紹介1】
紫月封太
年齢は高校二年生で16歳。本作品の主人公。
虐められていた者としては、力を持っている。これと言ったスポーツはしていない。
いつも家では、引き篭もって自主勉強。嫌な奴らの居る学校に行くより、一人で勉強する方がいいとの事。
人間関係は全く悪い様だが、幻想郷では違う……?