1.まさかのデビュー!?
「では次、52番の人ー」
「はい!」
わたし、南波渚は、ただいまオーディションの最中。
内容は"歌手デビュー"。でも、別に歌手になりたいわけではない。
そもそも、わたしは歌は人並みで、ただ音楽の成績が5だったから出ただけだ。
なんとしてでも、まだ高校生のわたしが働いて稼がなきゃいけない理由があるのだ。
そう、それはつい1ヵ月前のこと・・・。
_____________________________
(あ〜、門限過ぎちゃった!やばいなぁ…)
そう思いながら、わたしは玄関のドアをそっと開けた。
時刻はもう日付が変わろうとしている頃。
今日は中学の同窓会で、少し遊びすぎてしまった。
「ただいま!今日は電車に乗り遅れて、ちょっと遅れちゃったけど許して!!」
観念して、用意しておいた言い訳を言いながらリビングに入る。
……けど、何も反応がない。
「お、お母さん?お父さん?」
確かに、わたしの目の前には2人の姿があるのだが。
相当怒らしたのかも……。
「あの…」
「なぎ」
もう一度謝ろうとしたとき、お父さんにさえぎられてしまった。
「…はい」
怖くなって目をつぶると、微かに鼻をすする音。
まさか・・・、と思いつつ顔を目を開くと、ほとんど泣いているような顔のお父さん。
同じように、お母さんも。
「え、どうしたの…?」
話を聞けば、お父さんがリストラされたとのことだった。
「お母さん、お父さん。大丈夫だよ!わたしバイトするし」
そう言ったとき…。
「バーカ、そんなんでなんとかなるかよ」
いつ帰ってきたのか、そこには弟の悠貴が立っていた。
「悠貴!?ちょっと何言ってんの!!」
わたしが怒鳴りつけると、悠貴はフンッと鼻で笑って腕を組みながら言った。
「バイトで4人が食ってけると思ってんの?普通に働くしかねぇじゃん」
「でも…、高校中退で働けるとこなんか……」
「あるじゃん。芸能界」
__________________________________________
なんでそんな発想になったのかはよくわからないけど、そのとおりに私たちは今片っ端からオーディションを受けているのだけれど、そう簡単にはいかない。
「どーだった?」
「んー…」
もちろん、言い出した悠貴も一緒だ。
「あー…、名案だと思ったんだけどなぁ」
「バカはあんただよねー。ありえないっつの」
「なんだろう…。お前、男っぽすぎんのかな?顔は普通なのに」
悠貴とは1つ違いで、高3と高2の姉弟。
昔っから態度がでかくて、なのにモテるからムカつく弟だ。
「あんたねぇ!!」
言いかけて、突然話しかけてきた誰かに遮られてしまった。
「ちょっとよろしいですか?」
「「……へ?」」
.