クロスゲーム
敵チーム側スタンドがお祭り騒ぎになっている。
僕の、目の前で。
ボールを捕った生徒も、考えていることはないだろう、
僕らの夏が、この瞬間、終わったことを。
九回裏のスコアボードに、「2」と「×」が記される。
合計点も後攻の枠に「5」が入る。
幼稚園の時から遊んだ先輩が、マウンドで、
今まで、笑顔しか見たこともないのに、
大粒の涙を、流していた。
今日の記録員は、中学からの女友達。
点を取られては取りを繰り返す試合を、ずっと見守っていたけれども、
最後のサイレンが鳴ったとき、
ベンチ前で泣き崩れたのも、背中越しにわかった。
先輩を追いかけて、この高校に入った。
「最後は、笑っていよう」
そう、三人で誓っていた。
辛いときは、気持ちを吐露して、
時に喧嘩して、溝をつくったり、
春の地方大会で優勝した時は、三人でカラオケしたり、
そんなことも、もう
出来なくなる。
試合後、三年生の引退式が行われた。
悔いなく終われたという人は、一人もいなかった。
そして、先輩が、
エースとして、最後になった。
既にむせび泣く人もいた。
「最後ぐらい、勝って泣きたかったけど…ダメだったな。
でも…それでも…ついてきてくれた……後輩に…
申し訳ない」
一語一句振り絞っているのは、分かった。
帰りの新幹線で、三人で横一列で座った。
「昨日は、ホントにすまなかった」
「いいんです、もう。後は、僕らが頑張って同じ舞台で、
てっぺんになります」
そう告げると、先輩はふーと息を吹きながら背もたれに寄り掛かった。
真ん中で寝ている女友達を指して
「お前も、早くこいつに伝えた方がいいんじゃない?」
「ちょっと先輩!?」
赤ら顔になっているのがバレたのか、ニヤニヤしながら、
「グズグズしてると、とられっちまうぞ?」
この、小悪魔め。
翌年の夏、同じ舞台。
3対2、勝っている。
九回裏の守り、ツーアウト、
ランナー一塁、
僕は、マウンドの上で、
ロージンパックを手に取り、
大きく息を吸う。
あの日、先輩が打たれたバッターと、
18.44ⅿを隔てて、向かい合っている。
人が変わった以外はすべて同じ。
カウント、ツーナッシング。追い込んだ。
味方のスタンドを見る。
先輩が、いた。
目が合ったことに気付いたか、手を振ってくる。
笑顔になれた。
「あとひとつ、です。約束は、果たせそうですね」
心の中で、そうつぶやく。
大きく振りかぶって、投げた。
一瞬だけだったけど、ミットが鳴る音が、
ハッキリと聞こえた。
去年、ここで泣き崩れた先輩の代わりに、
円の真ん中で、
笑顔で、
人差し指を、高々と突き上げた。
「約束は、果たしました」
初の一発もの、どうでしょうか?
自分的には上出来だとw
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




