2 妹よ! まずは俺を救ってくれ!
『シルバーウルフ』そう名乗った俺を少女はきょとんと眺めている。
あらら? 本名を名乗ったほうがよかった……?
俺の名前(本名)は『井上銀次狼』そうさ! 安直だけど『シルバーウルフ』とはゲームの中で使っている名前だ。だってそっち(ゲーム名の方)を名乗ったほうがいいのかな~~と思ったんだも~~ん。
「ぶっふふ。あははははっ」
突然、少女が笑いだした。
「シルバーウルフて! あの山にいる? シルバーウルフ?」
遠くに見える山脈を指差し、少女は目に溜まる雫を指で拭っている。
えっと~泣くほど?
でも先程までの警戒心は和らいだようだ。少女は起こそうと投げ出した俺の手を掴んでくれた。
「よっと!」
持ち上げると少女はスカートのお尻をパタパタと払い、
「シルバーウルフさんはここでなにしてるの?」
と聞いてきた。
「――それが……俺にも分からん」
「シルバーウルフさんは、『クスクス』迷子に、『グフフッ』なったのかな?」
あの~笑い声が、心なしか漏れてますよ……
「質問していいか?」
「なに? シルバーウルフさん『あははっ』」
やっぱ漏れてんだよな~~。
「えっと~まずここがどこなのか教えてくれるとありがたい」
「待って! 無理! あははははっ~~~~シルバーウルフって! あはははは! なになに、育てられたの? シルバーウルフに? だから服着てなかったの? だからそんな貧相な服着てるの?」
少女はとうとう腹を抱えて笑いだした。
むむむっ! この娘! 失礼な奴やな~~。
もしかしてこの世界に、シルバーウルフて魔物が存在するのか? やはりまだゲームの中なのか?
「おい! 笑いすぎだぞ!」
「ごめんごめん。だってシルバーウルフて言うからさ。本当なの? 冗談でしょ? ウケ狙いよね?」
ううっ……そんなに変なのか? ゲーム名なんてこんなもんだろうが? ここはゲームの世界じゃないのか?
「……実は冗談だ! 本当は銀次狼だ」
負けた……だってよ~笑いすぎなんだもん……
「はあ~おかしかった! 久々にこんなに笑ったわ! えっと~私の名前は『メバル』よ! この丘の麓の村に住んでるわ」
「メバル? 魚のか?」
「えっと? はあ?」
「いや、なんでもない。続けてくれ」
「ここは、トータム地方の西の端、コッタ湿原。私はここに薬草を取りに来たのよ」
トータム? コッタ? ??? やばい全くわからん……
「あの~この世界に魔法はありますかね?」
変なことを聞いて、また笑われるのも堪らん。俺は恐る恐る尋ねた。
「あるに決まってるでしょ! 銀次狼さんもここまで魔法で来たんじゃないの?」
むむむっ! やはりゲームの世界っぽいぞ! だけど俺はまだ魔法使えないんだな~~これが。
なにせ昨晩からのスタートだし……剣技も攻撃の『突き』と防御の『払い』しか知らないんだよな~……
そう、つまりスタート時からある『スキル』しかまだ使えないのだ。
このMMORPGは、よくあるレベルアップ制ではなく、スキルアップしたけりゃ特定のモンスターを倒す際に、その特定のモンスターが使う技を盗む(真似して)なりして強くしていく方法がとられている。
敵モンスターの情報を知らないと、いきなりの大技にぶつかることもあれば、しょぼ技にぶつかることもある。
そして俺はまだ、盗める技を持つモンスターに出くわしたことがない……
よって魔法も、剣技も、初歩の初歩。レベル1の状態と言っていい――
つまり! 上級者の『妹』がいなければ、なにも出来ない。むしろ生き残ることさえ困難と言える。
妹よ! お兄ちゃんはここだ! 早く見つけてくれ!
俺は祈るように、妹とはぐれた空を見上げる。
「あー、あれ! 上空のプラズマね! あれは結界なのよ! 空から敵が侵入しないように張られているのよ」
見上げた空には、光の粒が漂っていた。所々で弾けるように時に激しく、時に緩やかに輝いている。
「へ~綺麗なもんだな~人は近づけるよな? あの結界とやらに?」
「え? 無理よ! 触れたら焼け死んじゃうわ!」
「は? 俺はあの先の空から落ちてきたんだけど……」
「馬鹿なこと言わないで。たとえ上級の剣士様だってこの結界は破れないわ」
「いやいや実際……」
「この場所にたどり着くには、トータム地方の南の港町から歩いて来るしかないわ!」
嫌な予感がする……
「えっとだなその港町からここまで歩いて何日かかる?」
「ん~~そうね~大体、2ヶ月くらいかしら」
終わった……妹がすぐに迎えに来ない理由が判明した瞬間だった……
おかしいと思ったんだよ! だってよ、空から落ちただけなのに、空を自由に飛べる妹なら、すぐに迎えに来れるはずだろ?
それが見ろ! 濡れていた服だって乾いちゃうくらい経ってるのに、姿も気配すらも、可愛いしまパンだって見えやしない……
やべ~よ! 俺、これからどうやって生きていくんだ~~。
あ! そうだ、ウィンドウを出してログアウトすればいいじゃないか!
…………
あの~~なにも出ませんが!!!?
「さっきからなにしてるの?」
「いやウィンドウを出そうかと」
「ウィンドウ? なにそれ? 魔法?」
これって詰んでる?
「えっと~メバルさん。君もプレイヤーなんだよね?」
「ん? プレイヤー?」
違うっぽ~~い。
「君は生まれた時からこの世界にいるのかな?」
「なにそれ? クスクス、そんなの当たり前じゃないの!」
当たり前じゃないの……当たり前じゃないの……当たり前じゃないの……
メバルが発した言霊が頭の中で反復する……
「本当、おかしな人ね。それより迷子の銀次狼さん! これからどうするの?」
「…………」
途方に暮れる俺……
「よかったら家に来る? そんなに広くはないけど、客間の一つくらいならあるわよ」
女神! 降臨!
「うん! うん! うん! うん!」
俺は激しく頭を縦に振りまくった。
――――――――――つづく。
メバルって……ネーミングのセンスのなさ……我ながら圧巻www
今回も足を運んでくださいありがとうございます。
『妹』タイトルなのに妹が出る予感がしない……そこ、そんなこと思ったら負けですよ!
そこは斬新! て思ってね! てへっ!
次回も妹は出るのか? と、モヤモヤしながらお待ちください。ペコリ!