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第四章 最終章
それは…それは…そのおばさんは…
ずっと探していた母でした。
「ようこそ来てくださいました」そう言って私の中に招き入れてくれました。
どんなに会いたかったことか、私がどれほどまで探してここまでこれたのか…私は嬉しくて生きていて本当に良かったと涙が零れ落ちてしまいました。
髪はボサボサで、顔にも艶がなくやせ細って頬もこけていました。
泣き崩れる私を見て「どうぞ、中にお入りになって下さい」母は心配そうにしながらも他人行儀で言うのです。顔が変わっているのでまさか娘だとは夢にでも思わなかったことでしょう。
「お久…ぶりです」涙を流しながら中に入ると、父が今の机で座っていました。
そんな父の姿を見て私は益々涙が止まらなくなったのです。
そんな私に母は熱い緑茶を注いでくれました。
そして私が落ち着くまで母はずっと子供の頃の様に背中をさすってくれました。
落ち着きを取り戻せた頃「ありがとうございます。私達があなたの生きる道で少しでも手を差し伸べることができたのであれば、嬉しく思います」母は静かにゆっくりと言いました。
父は黙り込んでて何も言いませんでした。
父もすっかり別人の様になっていました。
私がいない間に一体何があったんだろうか…そう思うと胸が張り裂けそうでした。
兄たちは…?兄たちの事が気になり辺りを見回しましたが私と両親だけでした
。
「可哀相にとても辛い人生を過ごしてきたのね…」母は涙ぐんでそう言いました。
…お父さん、お母さん今までどうしてたの…ずっと心配していたのよ…
喉まで出かかっているその言葉をグッと必死に抑え込みました。
両親が生きてくれていて本当に良かった、それだけで私は嬉しい…。
母は泣いてばかりいる私に、手作りしたカレーを器に注いでくれました。
「私にはあなたくらいの娘がいてね、その子はカレーが好きでね」母はそう言って寂しそうな顔をしながら言いました。
…娘はここにいるよ、お母さんお父さん、私ここにいるよ、目の前にいるよ…。
本当に何度も何度も正体を明かそうと思いました。
母のカレーをスプーンですくい、口の中に入れると、懐かしい味がしました。
母は玉ねぎや人参、林檎ををピューレ状にして作り、母だけにしか出せない味で、私が作っても同じ味には出来ませんでした。
「む…娘さんは幸せですね」と声にならない声で私は言いました。
「そうね、もう少し娘の事を考えてあげればよかった。もう少し娘を思いやることが出来ていたら…ね」母はそう言いながら泣きました。
「母さん…その話はやめよう、まぁ色々と辛いでしょうが、どうか今を楽しんでください」父はそう言うと外に出て庭に置いてあるベンチに座りました。
寂しそうに辛そうな表情の母を真正面から見ることは出来ず、がむしゃらにカレーライスを食べました。
母は、きっと私を思いながら作ってくれたんだろうと…。
その時、「お待ちしておりました」と父が言ったのです、それを見て母は急いでティッシュで涙を拭き玄関先に出ました。
私も正座をして玄関の方に体を向けました。
そうです、ヘブン様ことその人がやってきたのです。
その人は鈴をジャラジャラと鳴らしながら中に入ってきました。すぐ後ろに父がいました。




