表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

近年の異世界転移件数増加は社会問題にもなっており

 残業によってクタクタに疲れた帰り道。駅までの道を固まって歩く周りの人たちは皆、同じ表情だ。メガネ掛けたおっさんも。アルファベットのマーク付きの鞄を背負った小学生も。靴が合わないのかしきりに踵を触るOLさんも。


「まだ火曜日か」


 全員気持ちは同じ。ため息とともに疲れも出て行けばいいのに。ほふぅー。


 そんな有様だったから、とっさに動けなかった。

 意識が飛んでるのか、口開けて上向いて白目のドライバー。そんな彼が運転するトラックのライトが俺たちを照らし出した。

 歩道にいる俺たちに向かって、ブレーキも踏まずに。

 3、2……


 「危ない!」


 かろうじて、小学生だけは。突き飛ばした!

 へっぴり腰で子供を突き飛ばした俺は、そのまま動けず。

 突き飛ばされた小学生は「え?」という顔のまま真横にスライド。

 そして居眠りしていたトラックドライバーは、すんでのところで意識を取り戻しハンドルを右へ!


 ボグゥという低い音。


 車道に方角を直したトラックは、車道に突き飛ばされた子供を跳ね飛ばした。

 メガネとOLの固まった表情。

 カンフー映画を見た後に鏡に向かってジャッ○ーの真似してる時みたいに、腰を落として両手を突き出したまま、震える俺。うわあわぁ、小学生無事か!


 甲高いブレーキ音の後、響くような低い音を出して停車するトラック。何も考えられない俺の前に……



 巨大な光り輝く魔法陣が現れた。


 とっさに飛び退くOLさん。一瞬遅れて三連バックステップで逃げるメガネ。

 少し考えてから小さく頷くドライバー。ハネられて転がった姿勢のまま、グッとガッツポーズをする小学生。


「オレも、オレも連れてってくれぇ!」


 魔法陣に飛び込んだ。ドライバーの居眠りの目撃者がいれば違うかもしれないが、客観的には子供を車道に突き飛ばした狂人だ。どう考えても社会人終了のお知らせです。それよりも異世界に行った方がいい。


 当然の常識だが、異世界というものがある。

 そこは剣と魔法の世界で、ギルドがあり魔物がいる。たまに自国で対処できない問題に遭遇すると勇者を攫う癖がある。

 そこに行く手順については完全には確立されていないが、異世界帰還者の中には、世界間移動能力を手に入れた者が居るため、民間レベルでの敷居は高い物のそれなりに交流は進んでいる。


 今では複数の異世界と強制的な召還を控える事や、魔王発生時には軍事力を提供する条約が国として結ばれている。帰還した勇者経験のある若者の就職の受け皿にもなっているとか。

 しかし、自然現象として発生してしまう転移には打つ手がない。災害の一種とされており、異世界転移保険などもテレビCMで盛んに宣伝されている。


 台風が過ぎた後には晴れ間が覗くように。山では天候が変わりやすいように。自然現象には法則がある。

 トラックと異世界転移魔法陣の発生もそれに近い。

 再現性実験を行ったどこかの大学教授が、トラックの重さや速度の他、実験対象の社会的立場や神社付近であることなどのオカルティックな要因が複雑に関与するとコメントしている。


 運がよいのか悪いのか。今の状況は異世界転移現象の条件を満たしていた。

 眩しい光がオレたち三人を包むと、月が三つある空の下、地平線まで続く草原に立っていた。



 三日後、ギルドで免許証出したら普通に道交法違反で捕まった。

 ギルドの美人受付嬢に聞いたところ、無許可での渡界の場合は異世界でも日本の法律が適用されるらしい。


 ドライバーさんは減給、小学生はママにめっちゃ叱られてゲーム機一週間封印だそうな。俺はいろいろこっぴどく叱られたし罰金も払ったけど、転移後に小学生が回復魔法を使っていたおかげで被害者が居なかったため、新聞に載るのは免れた。

 会社を休んでいた三日間については、異世界転移じゃしょうがないという事で有給扱いにしてもらえた。部長が高校生の頃に勇者した事があったらしく、異世界に理解があったので助かった。



『あー、異世界、行きたかったッスよねぇ』

『塾無いし、チート能力的あったし。やっぱ街じゃなくて魔の森いけばよかった』

『まあ、唯一うれしいのはもう週末だという事だよ。そろそろ狩りに行く?』


 異世界からは三日でつれ戻されたけど、仲良くなった二人とオンラインゲームで一緒に冒険するのも悪くないな。


 このゲームから出られなくなり、本当に死ぬ可能性がある事件に巻き込まれるのは、また別の話。

ファタジーと呼ぶには夢が足りないし、どんなジャンルにするべきだったんだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ面白いです [気になる点] さくっと読めてよかったです [一言] 勇者経験者ってパワーワードだなっておもいましたw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ