最も残酷な天罰
僕が神の逆鱗に触れるような罪を犯したのは、まだ十五のときだったと思う。神社の賽銭をちょっとばかり、野口英世を三人ほど、くすねて来たことがあった。それ以外で天罰が下るようなことはしていないから、たぶんそれがいけなかったのだと思う。それがまさか、寛大だと信じていた神をこんなに怒らせるとは、こんなに酷い罰に繋がるとは、あの頃の僕は思いもしなかった。
どうせなら殺してくれれば良かったのに。
神様というのは意外と心が狭いようだ。
最愛の智恵と付き合い始めたのはその翌年の、高校一年の夏休みが始まった頃だった。
あの頃の智恵は何よりも輝いて見えたのを覚えている。コンビニの駐車場から見える成人向け雑誌の過激な裏表紙や、新しく発売した流行りのゲーム、テレビに映る人気の女優たちより、遥かに智恵は輝いていた。
青春を謳歌。人生の最盛期。あの頃は毎日が楽しかった。もちろん、結婚してからも毎日楽しかった。
智恵と結婚できたのは本当に夢のようだ。
夢。思えば僕の人生は全て夢のようなものなのかもしれない。夢であってほしい。でも、消え去って欲しくはない。
どうしようもない。
異変に気付いたのは二十歳を何年か過ぎた頃。
僕が歳を取っていないことに智恵が気付いた。
僕は毎年誕生日を迎えても、見た目は十五のときから何も変わっていないのだった。童顔だからって、こんなに幼いのはいくらなんでもおかしいと、智恵が僕の不老に気付いた。
道理で酒を買うときに必ず年齢確認されたわけだ。
智恵が八十の誕生日を迎えて天寿を全うした今でも、僕は年齢確認される。生きてきた年月は八十年でも、まだ十五歳なのだから仕方が無い。
皆、僕が八十歳だと知ると驚く。というより、信じてくれない。
智恵が死んで僕はひとりぼっちになった。
年老いていく智恵を、ずっと隣で見ていた。
顔に刻まれるシワ。
呆けてしまった智恵。
彼女の記憶から消えた僕。
骨と皮と化して死んだ智恵。
火葬された智恵。
何も変わっていない、僕。
こんな地獄を見せてくれた神様、僕はそこまで悪いことをしたのでしょうか。
「地球は青かった。しかし神はいなかった」