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謎の老人現る

 幸い、あの水色一つ目吸引化け物はまた玄関の天井にでも張り付いているのか目に見える範囲ではいなかった、もちろん天井も確認。


「オーケーです、みちるの部屋へは、廊下の奧にある階段を一つ上がって一番奧の部屋なはずです」

「遠いな……なあ正、廊下にある窓は開かないのか?」


 廊下には所々に窓があり、ホールよりかは明かりをその空間に届けていた。

 俺と明地先輩は、恐る恐る窓に近づくと、開けようと四苦八苦してみた。

 押してもダメ、引いてもダメ、叩こうとしたところを明地先輩に止められた。

 しばらく極力音を立てずに暴れた俺達だったが、外でその姿を見つけて動きを止めた。

 歩とミカ先輩!

 二人は俺達目線の精一杯左、玄関の屋根の下で綺麗に縛った本を積み上げていた。

 俺と明地先輩は、静かに暴れ回った。


「ミカ!歩!こっちだ!」

「歩!ミカ先輩!」


 またもや超小声で叫び続けた俺達だが、声は届かず、少し少し歩とミカ先輩の近く……玄関の化け物の近くまで近づいたその時。

 廊下の入り口一杯に、そいつはまた現れた。


「うおおおおおおおおおお!」

「ぎゃあああああああああ!」


 化け物にバレてるのだからもう小声で叫ぶこともないだろうについ超小声で叫んでしまった俺達は、奥へ奥へと廊下を走り、轟音が聞こえたと同時に階段を駆け登ることに成功した。

 二階に辿り着いた俺と明地先輩は、微かな吸引力と下で轟音が響き渡るのを感じながら、息をついた。

 しかし、そこにも安息は無かった。

 よく見ると廊下には、大型犬のような丸っこい生き物が二〇匹いたのだ。

 ふわふわと薄い茶色で遠目からでも愛らしいそれは、やたら大きな舌で床をペロペロと舐めていた。


「……おい、これは大丈夫なのか?」


 明地先輩の問いに俺は肩をすくめる。


「俺に聞かないでくださいよ」


 その声に気づいてか、毛むくじゃらのそのうち四匹がこっちを見た。

 つぶらな瞳が俺たちを映し出すのが分かる。


「へ、へーい、ポチ、お座り」


 俺の命令にポテッとその場にお座りする四匹。


「……可愛いじゃないか」


 明地先輩は関心しているが、俺は内心戦々恐々であった。


「部屋に入ったら、中を通って向こうの部屋まで行くことができますよ?そうしませんか?大分この毛むくじゃらを避けて通る事ができると思うんですけど」

「そうか?無害そうに見えるがへい、ポチ、来い来い」


 あろうことか、未知の生物を呼び始めた。

 三匹がそれに呼ばれてパタパタと自らの体程あろうかという尻尾を振りながらやってくる。

 それを見て、近所の犬に追いかけられたことのある俺は、嫌な予感が吹き出した。


「先輩!やっぱり部屋通りましょうって!」

「え?そうか?うーん、じゃあなポチ」


 クーンという声を後ろで聞きながら、俺達は第二の部屋へと足を踏み入れた。

 そこは夫婦の部屋だっただろうか。

 入ったのは小学生の時のみちるを含めた小学校の友達十人で隠れんぼした時以来だ。

 畳敷きの部屋はどこか安心感があって、風呂場、寝室、台所、ちゃぶ台とテレビの付いた憩いの部屋が完備されている。

 みちるも七才まではここにいたのらしいが、何故かもう行きたくないと言っていた。

 今俺達がいるここはちゃぶ台やテレビの置かれた憩いの部屋らしい。と言っても三〇畳くらいはある部屋なのだが。

 俺だったら憩えない。


「お、おじゃましまーす」


 靴を脱いでそれを手に持ち中へ入る俺達だったが、その声に答えた主がいた。


「うひゃひゃひゃひゃー!」


 突然奥の部屋から扉を開け、割烹着姿の背の高いがっしりとした老人が姿を現した。

 埃にまみれたその姿はどこか化け物じみていて、手には何故か箒とまだ袋詰めされたままの羊羹が握られていた。


「うひゃひゃひゃひゃひゃー!」


 老人はそのまま俺達の元へと近づいて来る。


「うおおおおおおおおおおお!」

「ぎゃああああああああああ!」


 今日一番の悲鳴であった。

 俺達は逃げた、右手の奥にある出口へと、若さが俺達に味方するはずだったのに、


「うひょひょひょひょひょー!」


 老人は俺達の後ろをアスリートのごとき速さでぴったりと付いてくる。

 その速さがまた恐怖を駆り立てた。

 靴を持ったまま廊下に飛び出すと、俺は毛むくじゃらの丸っこいのを踏みつけて転んでしまった。


「正―!」


 先を行っていた明地先輩が振り返る。


「ぎゃー!明地先輩―!俺はいいから先に行ってくださいー!」

「んなこと出来るわけないだろう!」


 明地先輩……湖春先輩のことと言い、なんて情に厚い先輩なんだ!今まで見掛け倒しって思っててすいません!

 俺は心の中で涙を流した。


「うひょひょひょー!」


 気が付くと背後には、箒と羊羹を構えた老人が立っていた。


「すまん、正、お前のことは忘れない、先に行ってるぞ!」


 お約束―!

 俺は心の中で二度目の涙を流した。

 その時助けたられたのは、意外な物だった。


「フー」


 ポチ……もとい丸い毛むくじゃらが、老人に向かって唸りだしたのだ。


「うひゃひゃ?」


 老人の目が光る。

 今や老人は廊下にいた二〇匹全員に囲まれていた。

 今のうちだ!

 俺は体制を立て直すと、廊下の奥、明地先輩の向こうへと走りだした。


「ポチ……お前もしかして俺達のために……」


 すれ違いざま、明地先輩をそう呟いていた。

 違うと思うけどな。

 俺はそう思うと走りながら後ろを振り返った、そこには、心配そうな顔をして背後を気にしながら俺の後を付いてくる明地先輩と、その奥でポチの集団にベロベロ舐められて大笑いする老人の姿が見えた。


「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 悲鳴は俺たちがみちるの部屋に入るその時まで延々と廊下にこだましていた。

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