何してるの
肉体労働が終われば待っているのは書類仕事だ。
銃火器類の使用証明書。こんなものを書くんなら軍人って何っと言いたい。
面倒だと思うが、上司はさらに倍の書類に埋もれている。
「とにかく、この量なら残業一時間で済む」
上司は雄々しく宣言した。
ジャックからすれば、上司の前に積んである書類は自分が貫徹しても終わらない自信がある。
「楽しみが待っていると思えばな」
ふふっと不敵に笑う。
「奥様ですか」
ボルト准尉がそう訊ねた途端、大佐の表情が一気に下降した。
「そんなわけないだろう。どうしてあんなつまらん女」
「結構な美人って聞きましたが」
「顔だけだ、辛気臭い、思い出したくもない」
吐き捨てるようにそう言う。
「まあいいところと言えば、家の外のお楽しみは黙認してくれることぐらいだな、まあ言えるはずもないが」
弱みに付け込んでか弱い十六歳と結婚した男。
再び殺意が部下達によぎったが、カーター少尉の今は黙認の言葉を思い出し、武器から手を離した。
「そう言えば、あの人カーター少尉に似てませんでした?」
とっさにジャックはそう言ってみた。
金髪美人という共通項はある。
「代理、でかな」
そうごにょごにょと濁したことを言ってみるとピクリとカーター少尉の眉が動いた。
「そうですか、一時間の残業で終わるならほかの終わりそうもない人の分もできますよね」
にっこりと笑って言う。
眼は笑っていなかったが。
余計なことをとジャックは睨まれたが、あえて無視した。
出来上がった書類を別の部署に出すのも下っ端の仕事だ。
書類をあっちこっちの部署に届けていると、見慣れない小柄な人物と行きあった。
軍にいる人間はえてして体格がいい。身長と体重の下限が定められているためそれ以下は軍に入ることが不可能だからだ。
だから小柄で、なおかつ華奢だと悪目立ちすることが珍しくない。
まじまじと顔を見て気付いた。ミュゲだ。
「あの、奥様何でこんな場所に」
ミュゲはジャックに気づくと顔をこわばらせた。
「ちょっと来て」
あわてて人通りの少なそうな場所にジャックを連れ込むとその場で小さく頭を下げた。
「見なかったことにして、私がここにいるって誰にも内緒にして」
そう必死に頼みこまれた。見ればその恰好は黒一色のパンツとジャケット、中のシャツは濃いブルー。
いつもは垂らしている髪はかっちりとまとめて、三つ編みにして後ろに垂らしている。
そして黒縁眼鏡に目深にかぶった帽子、おそらくいつも来ているパステルカラーを基調にしたワンピースとは正反対の装いだ。
「もしかして、変装しているつもりなんですか?」
ミュゲは小さく頷いた。
「これには事情が」
ミュゲは小さく呟いて、そして深々と頭を下げた。
「とにかく内緒にしてください」




