ただのチート野郎だ
サンダース大佐はクンと鼻をうごめかせた。
香を焚く匂い。魔道の準備をしているらしい。
先ほど張った結界は解かないでおく。狭い範囲で圧縮した爆発は人体を人体と認めがたいほどに破壊していた。
あれをほどけば鼻を衝く異臭で香のにおいをかき消してしまう。
「香のにおいがする。魔道士がいる」
背後の秘書官にそう言えば、銃を構えたままで小さく頷く。
魔道は威力も大きくまた武器らしいものを使わないので不意打ちを食らえばひとたまりもない。
しかし、相手の視界に入ったままで魔道を使おうとすれば、術の発動までにわずかにタイムラグが生じる。
先ほど部下が二人ほどさっさと射殺した。あれほどの早撃ちでなくとも通常の軍人なら姿を現した魔道士は敵ではない。
建物はすべて閉鎖している。だが最初から建物の中にいるなら話は別だ。
建物の中で攻撃の機会を覗っている。
魔道の才は空気を見ることができることに尽きる。
無色透明な空気の中力が偏り以上に圧力が高まっている場所。
それを見ることができる。
意識の集中時にはほかのことが無防備になる。
そのことをよくわかっている秘書官は油断なく周囲に視線を走らせる。
一番下っ端で頭の悪い男がいる。
だが誰よりも殺気を読むことに長けている。
まるで魔道士が眼ではないものを見るように殺意を抱いた人間を見分けるのだ。
もしかして魔道士の素養があるのかもしれないと思ったが、士官学校の座学の成績が悪すぎて、魔道士の素養があるか調べるのはやめた。
魔道士になるには結構雑多なものを知らなければならないのだ。
頭以外は優秀な部下だ。彼がのほほんとしている時は何も起こらない。
「まあ私ならほっといても大丈夫だろうなんて考えてないよな」
そう独り言を呟いてあまりにありそうな可能背に愕然としたがあえて考えないことにした。
気を取り直して空気の濃度を読む。
気が偏って渦を巻いている場所が見えた。
眼を閉じれば、より一層明敏にそれを感じ取れた。
そして暗い視界の中唐突に見えたのは水晶の粒をつないだ数珠だ。
「呪具は水晶か」
自らの精神のよりどころにしたり、あるいは力を込めておいた呪具を魔道士は常に身にまとっている。
サンダース大佐も人差し指に自らの呪具である透明な指輪をはめている。
呪具は金属よりも鉱石であることが多い。
「あっちだ」
そう指差すだけで部下達は察したのだろう。
一軒の建物の扉を打ち壊す。
気付かれたと察したのだろう。今まで込めていた呪を発動しようとしたが、そのまま射殺された。
「うええ」
部下が平坦なうめき声をあげた。
もともとの住民だろうか、それらが部屋の隅に積み上げられている。
すでに血が粘つきを始めているので、流されてから相応の時間がたっているらしい。
「この血より香のにおいを先に嗅ぎわけるって一体」
香炉と死体を見比べながら双子の部下が不思議そうな顔をしていた。




