世の中本当に理不尽だ
ジャックは応接間に通されてお茶まで出されていた。
玄関で出迎えたのは絶世レベルの美少女だった。
長い薄金の髪は綺麗に櫛目を通されて肩から垂らされていた。
淡いラベンダー色のワンピースすら引き立つ真っ白でキメの細かい肌。
菫色の瞳は大きく潤んで。
そんな少女が玄関の扉をつかんだまま小さく呟いた。
「お客様?」
小さく首をかしげる動きは小動物のように愛くるしい。
そのまま応接間に案内されたのだった。
いくら自分が軍服を着ていたとしてもいいのだろうかこんなに無防備で。
そしてお茶とお茶菓子を手早く持ってきてから話を聞いた。
「忘れもの、ですか?」
そして電話をかけに言った背中を見送りながら、お茶を一口含んだ。
「あ、おいしい」
いいお茶を使っても淹れ方が悪いと途端に味が落ちるものだ。
添えてあるお茶菓子も市販品には見えない。飾り気のない焼き菓子だ。
「なかなか家庭的な娘さんだよな」
本当はもう奥さんだが。大佐はああいう家庭的な女性より、遊びで付き合うような女性のほうが好みなんだろうか。
しっかりお茶菓子もいただく。
にこにこ笑ってミュゲは書斎から書類を一式持ってきてくれた。
「お仕事ご苦労様です」
常に笑顔を絶やさない気持ちのいい少女だ。ジャックは少女をそう評価した。
「いいなあ、あんなかわいい子が」
仕事中にちょっとぼやいてしまったのも無理はないと思う。
サンダース大佐は聞き咎めなかったようだが、カーター少尉が少し難しい顔をしていた。
そしてその日なぜか昼休みにカーター少尉にお茶に誘われてしまった。
「ちょっと聞きたいことがあるのよ」
カーター少尉は少々難しい顔をしていた。
「あの、ミュゲ・レイシック嬢、今はサンダース婦人か」
吐き捨てるように呟いた。
「実は結構噂になっているのよ、サンダース卿のご息女との縁談、詳しいことはいろいろはしょられているけど」
カーター少尉がきいたのは次のようなことだったらしい。
朝、出勤して受け付けに顔を出すと、すでにレイシック嬢の噂が広がっていた。
同期の受付嬢はこれ見よがしに、断っててよかったわね、乗り返られたなんてことになったら悲惨だもん、最初に振っておいたほうが無難、などと、少々名誉毀損なことを口走られたのだという。
「なんだかんだ言ってもあれよね、適当に部下とか食い散らかして、同じ階級のお嬢様とか嫁にもらっちゃうんだ」
けっと吐き捨てるような顔でそう言い捨てる。
以前この動機がサンダース大佐に適当な口説き文句を垂れ流されていたのを知っていたのでその辺は追及しないで置いてやる。
カーター少尉がサンダース大佐を切って捨てたのはたんに好みではなかったからだがそんなことは向こうもどうでもいいだろう。
ただ引っかかった言葉がある。
同じ階級。ダンダルジャン卿の息子とレイシック卿の息女、年齢以外はかなりつりあっている二人だった。
「私はあんな女たらしの妻なんて御免だし、ミュゲと言うお嬢さんもできるなら助けてあげたいけど。結局は本人の意思次第だしね」
だから、顔見知りになったのを機会に本人の意思を確認してほしいとカーター少尉に言われた。
「本人の意思、釣りあった階級か」
奢ってもらったコーヒーが何だか苦かった。




