追い打ちのドミノだ
「もう、何にも言わなくていい」
ポンとジャックはミュゲの肩を叩いた。
「もう終わったんだ、もう何もしなくていい」
必死に悪ぶるミュゲが痛々しくて見ていられなくなったジャックはそう言ってミュゲを押しとどめた。
一瞬、虚を突かれたミュゲは表情を消して押し黙る。
「じゃあ、終わったんで帰りましょうか」
ナルシッサがそう言ってミュゲの手をとる。
アーサーとマイケルも立ち上がった。
「ちょっと待て、まだ話は終わっていないぞ」
「この離婚申請を蹴ることはできませんよ」
あわててミュゲを押しとどめようとしたサンダース大佐を弁護士が押しとどめた。
「これだけの証拠がありますから、裁判を起こせば確実に離婚の権利を勝ち取れます。貴方にできるのは離婚の際の示談に応じることだけだ」
そう言い切って、弁護士は縁を切られた二人の男を眺める。
「自業自得です」
そう言って少年少女と一人の成人女性を伴い出て行った。
事の顛末を頭痛とともにマグナス憲兵総長は聞いていた。
「なるほどね、利用するだけ利用したらさっさと捨てる気だったんだ、そりゃ何も言えんわ」
結局サンダース大佐は離婚届に署名した。
有能にして使いにくい部下達が、サンダース大佐を取り囲んでさっさと署名しろと圧力をかけたのだ。
彼らはサンダース大佐が間違った時、決して大佐に味方しない。
「やるだけ金がかさむだけですよ、それに相手になった人妻やキズものにしたお嬢さんたちの慰謝料がっつり請求されているんでしょ」
そう言ったのは小太りの部下だ。
「読みが外れたのは貴方のミスです。すでにことは決した潔く敗北を認めるんですね」
腕を組んで不敵に笑いそう言ったのは唯一の女性士官だ。
「己の浅はかさをよく悔やんでくださいませね」
その視線は永久凍土より冷たかった。
同じく捨てられた男の秘書官もおそらく永久凍土より冷たい視線を送っていたことだろう。角度的に顔は見えなかったが。
「ええ、私が教えましたよ、将来離籍することを考えたらどうだって」
彼女は落ち込む上司にそう追い打ちをかけた。
「むしろお子さん方がそこまで追い込まれていることに気づかなかった段階で父親失格でしょう」
うなだれる男に嘲笑いながら追い打ちをかけていた。
そして自分の秘書官が、拳を握りしめてその気持ちよくわかりますと言い切った。その時の二人のアイコンタクトにたぶん無意識に気付かないふりをした。
「だが、彼女は」
拳を握りしめて震える男にマグナス憲兵総長は深い深いため息をついた。
癖のある女が好きで、まともな結婚生活を送れそうな女に眼もくれない。そして、あの白い花のような外観を取り払ったらとんでもない陰謀家だった少女に今更惚れてしまったらしい。
どう考えても先のない話だ。せっかく逃げた相手から再び捕まるような少女ではない。
「まあ、もてますからねえ」
双子が、そっと憐れむような視線で、上官を見ていた。そしてマティアスが口を開く
「どんな生物でも、雌は優秀な雄を獲得するために血道をあげます。もちろん大佐がもてるのは、見てくれと頭脳と運動能力が優れているからですが、ですからそれらを持っていいない女性達はどうしても獲得したい資質です」
続けてマディソンが。
「ですが、すでに容姿端麗で、頭脳と運動能力が優れている女性はそれほど必要としません。もちろんあったほうがいいでしょうが、持たない女性に比べればその欲求は極めて小さいでしょう」
そして二人は声を合わせた。
『そんな女性達にとって大佐はただのムカつく男です』
何となく思い当たる節があるのだが、認めたくない言葉だった




