心を殺せ
そして、サンダース大佐が起訴されるかどうかの会談で、その時が来てしまった。
サンダース大佐の士官の部下全員がそろってサンダース大佐の後ろについていた。ジャックはその日一番右はじに立っていた。
ラウールは執拗にサンダース大佐がいかに恥ずべきそしてどうしようもない人間であるかを熱弁している。そしてジャックはその話を遮り言った。
「私はあなたが嘘をついていると立証できます」
その時周囲の反応はどこか空々しかった。
サンダース大佐の部下が、いきなり告発は嘘だと立証できると言い出したのだ。
そして憐れみの眼でジャックは見られていた。
どうやら苦しまぎれの悪あがきに巻き込まれてと。
しかし決して顔には出さないが、一番驚いているのはサンダース大佐本人だった。
「確かにサンダース大佐は妻の不貞を奨励するような不届きな言動をとっていましたが、決して無理強いはしないようにとおっしゃっておられました」
ぴくっとサンダース大佐とラウールのこめかみが動いた。
「ちょっと待て、いったいどこで聞いたというんだ」
あわててラウールがジャックの言葉を遮る。
「どんなに小さな声で話していても、あの程度の距離なら楽に聞こえますよ」
サンダース大佐はジャックの人間離れした五感と身体能力を買って、子飼にしていたため今更な話だった。
「そしてサンダース夫人を口説きに行ったところ、一刀両断に断られ、ゴミを見る目で見られた。そのため関係を無理強いするためにサンダース大佐の名前を出しましたね」
ひくくっとラウールの唇が引きつり、サンダース大佐のこめかみに青筋が立った。
ラウールは何度も嘘だとわめき散らした。それをサンダース大佐が頭を握りつぶさんばかりにつかんで止めた。
「後でこいつの聴覚検査をすれば真相は簡単にわかると思うが」
地獄の底から聞こえてくるような低い声に、ひいと呻くことしかできなくなったラウールを床に打ち捨てた。
ミュゲは腕を組み真剣な表情でジャックと三者三様の様子を見ていた。
ラウールがミュゲに無理強いしたくだりはミュゲ自身も知っていることだ。
ミュゲの表情が素に戻っていた。
「無理やり引きずられていく彼女を救出するために私は窓からの侵入を試みました」
「あの部屋は確か三階だったはず」
ミュゲはそう指摘する。
「壁をよじ登りました」
ミュゲはきょとんと首をかしげる。
「後で実演してもらえばいい」
サンダース大佐はそんなことは驚くにも値しないとジャックに先を言うよう促した。
「そして窓からいざ飛び込もうとした時、私が見たのは、おそらく股間を蹴りつぶされて、悶絶しているその人と」
そう言ってジャックはラウールを指差す。
「それを足蹴にしているサンダース夫人でした」
ここにいたって、ミュゲも信じざるを得ない。全部この男は見ていたのだ。
そして、あまりに意外なことを聞かされて、サンダース大佐も仰天している。
「そして、さらにそちらの二人と」
そう言ってナルシッサとアザレアを指差す。
[ここに来ていないもう一人がやってきて、心を完全にへし折る拷問にかけられ、彼女達に絶対服従を誓い、サンダース大佐を彼女達のためならいくらでも陥れると約束していました]
ラウールが気勢をあげて床をのたうちまわる。
どうやらトラウマを大いに刺激してしまったらしい。
その狂態が何よりの証拠のように見えた。
ジャックのスペックは身体能力に限定されています。




