だから俺にどうしろと
とにかくラウールを抑えなければ、あの根性無しならちょっと脅せば。そう思って適当なところで拉致し、尋問してみた。
「まさかあの女と結婚を望んでいるのか」
縛り上げた椅子の上でラウールは力なく首を横に振る。
「このまま拷問にかけるならそうすればいい、だが私は絶対に前言を撤回しない」
毅然とした表情でラウールはそう言い切った。
「彼女を不当に虐げる君を私は絶対に許さない、それが私の信念だ」
その光景だけ見ていれば誤解しそうだなとジャックは思った。
一人で拉致ができるわけもなく、ジャックとスミスの双子が手伝ったのだ。
いいんですかとジャックはサンダース大佐ではなく双子の少尉に尋ねたが、二人は軽く笑って答えなかった。
「そうだ、君が彼女と離婚さえすれば、もう彼女とかかわるつもりはない、彼女は彼女にふさわしい幸せをつかめばいい」
内実を知っているジャックからすれば笑うしかない内容を真摯に伝える。
まず確実に本心だが、その理由はわかりきっている。
女装マッチョの餌食になりたくない一心だ。嫌がる女性にいろいろと言いよっていたようだが、今こそその女性達の苦痛を思い知ればいいのだとジャックは薄笑いを浮かべて必死に虚勢を張るバカ息子を見ていた。
まあ、女装マッチョに差し出そうとするミュゲに、決して彼が近付かないのもわかっていた。
さてどうしたものか、ジャックは腕を組んで二人の噴飯もののやり取りを眺めていた。
ちょっと脅せば言うことを聞くと思っていたようだが、その効果はまったくない。
死んでも引かないのは確実だ。かと言ってここまでやってサンダース大佐も引っ込みがつかない状態で。
ちらちらと傍らの上司にお伺いを立てる。
この場合スミス少尉達だが。
「大佐、うかつに目立つ場所にけがをさせると、追い込まれる要因になりかねませんが」
そう忠告したのはたぶんマティアス・スミスだと思う。
「そうですね、ちょっと脅せばというもくろみはあっさりと潰えたのですし、さっさと放免するべきですよ」
マティアスとマディアスの掛け合いを首をきょろきょろさせながらラウールは聞いていた。その落ち着きのない様子はやっぱりさっきのは演技だったかと納得させるものだった。
「これ以上立場を悪くしたくないでしょう」
素晴らしい連携で、ラウールを開放させる方向に引っ張って行く。
ここまで予想が外れてサンダース大佐も焦りが出ていたようだ。
最終的にラウールは無傷のまま解放された。このことをしゃべれば命はないと脅されはしたが。
「手詰まりですねえ」
厭味ったらしくスミスの双子は言った。
サンダース大佐が忌々しそうにその場から立ち去った後、ジャックは双子に挟まれた姿勢でねめつけられた。
「あの?」
「どんな気分だ?」
「サンダース大佐の運命を握った気分は」
「このまま起訴されれば、サンダース大佐は解雇処分だ」
「それを阻止するにはお前の証言しかない」
「なあ、どんな気分だ?」
どちらがどちらなのか判断がつかない。言われた言葉が脳にしみわたるまでしばらくかかった。
「え?」
ジャックはその場にしばらく立ち尽くしていた。




