何それ怖い
いかにもな雰囲気の男達が小柄な少女に絡んでいる。
その現場を目撃すれば、軍人たるもの、駈けつけねばならない。
今日はモスグリーンの地味めのワンピース姿のミュゲは五人ほどの男に取り囲まれていた。
路地の袋小路に追い詰められた格好だ。
男の陰になってミュゲの顔は見えない。
軽く舌打ちをしてジャックはその場に駆け付けた。
ミュゲは腕をつかんでいる男の腕を逆につかみなおし、そのままひねりあげた。
やはり何らかの格闘技を学んでいるらしい、きれいに肩関節が決まっている。
しかし、体格のハンデはかなり大きい、技術がいくらあっても体格で負けているため多勢に無勢は覆らない。
確かにミュゲは魔道士だ。だからこの程度の人数一瞬で葬り去れるだろう。
しかし、問題がある、ミュゲは魔道士で、魔道と言うものは精神統一が不可欠だ。しかし、格闘のさなかに魔道を使う精神統一ができるものか。
そんなことサンダース大佐ですらできない。
そんなことを考えながら、手近な一人をまずひざ裏を蹴って体勢を崩させ、さらに崩れた体勢を背中を蹴り付けてさらに崩して地面に這わせる。
「軍のものだ、こんなところで何をしている」
そう言って制服の胸を張って見せる。
ミュゲは肩関節を決めた相手を前方に掲げ、背後は壁と言う形で身を守っている。
ついでに言えば関節を決められた相手はまったく動けずにいる。見事だ。
そしていきなりそこにいる男達の服が発火した。
「え?」
一瞬の戸惑いの後、周囲は騒然となった。
火の付いた服を消そうとして周囲を転げまわる男、火のついたまま走りまわる男。
「おいそこの、走り続けてちゃいつまでも火は消えないぞ」
とりあえずそいつを殴り倒して蹴飛ばして転げまわさせる。
圧迫消火に勤めさせた。
そして防火用水から、一抱えほどの桶を持ってきて周囲にまき散らす。
燃えていた男達は一気に戦意喪失しているようだった。
そしてミュゲは関節を決めていた男を放す。その時ミュゲの耳元で光るものを見た。それはしばらく淡い光を放っていたがゆっくりと消えた。
男はミュゲから飛び跳ねるように離れた。
そして這う這うの体で逃げていく。
「市街地で発火させてんじゃねえよ」
いくら煉瓦造りで 延焼の危険が少ないとしても。火を使うのはいただけない。
ミュゲはきょとんとした顔でジャックを見ていた。
「私を連れ戻しに来たの?」
「いや、そういう命令は基本的に俺たち聞かないから」
ミュゲは警戒心もあらわに眉をひそめる。
「仕事と家庭の問題は別だから」
つまり、職場内の最高権力者、カーター少尉がいる限り、サンダース大佐のプライベートな命令を下すことはできない。
ましてやこういう自業自得の事態では。
「つうか。今何やった?」
「魔道だけど」
見ればわかるだろうとミュゲはそう言って軽く指を鳴らした。指先に炎が幽かに上がる。
「関節決めてたよね」
「さすがに殴り合いの最中なら無理だけど、関節技くらいなら簡単だよ」
自分がどれだけ非常識なことを言っているのかわかっているのだろうか。魔道は使用する際精神集中を必要とする。そんなことはジャックですら知っているのだ。
格闘技を使いながら魔道を使う精神集中ができる。つまりそれは魔道を使う瞬間の隙がないということだ。
何この凶悪さ。ジャックの背中に冷たい汗がだらだら流れたとしても無理はないだろう。そしてその凶悪さを目の前の少女はわかっていない。
「さっきのは何かな」
これ以上会話に深入りしたくなくてジャックは男達が逃げていった方向を眺める。もう来ないだろう。あいつらも命が惜しいはずだ。
「たぶん、夫の愛人関係でしょうね、慰謝料を踏み倒そうっていうつもりだわ」
たぶん、たっぷりふんだくれるんだろうな。そう現実逃避しながらジャックは思っていた。




