俺は何も聞いてない
ダンダルジャン卿は複数の新聞を手にし、難しい顔をしていた。権力を使ってこれ以上の掲載は差し止めたが、すでにこれだけの騒ぎになってしまったのだもみ消しは不可能だろう。
また相手の女性が軍上層部の関係者と言うのがいかにもまずい。すでに複数の抗議文がダンダルジャン卿のもとに届いていた。
アレク・サンダースがダンダルジャン卿の息子だというのは公然の秘密と言うやつだ。
しかし、このままではバカ息子のせいで自分の地位すら危うい。
形だけは神妙な顔をしている子の息子も内心では全く反省していないことは明白だ。
「ミュゲはどうしている」
とりあえず一番聴いておきたいことを聞いた。
「どうもしません、いつも通りですよ」
「この新聞を見てもか」
「男女交際はお互い自由にといってありますから、最近恋人ができたようで」
ダンダルジャン卿はそのまま凍りついた。
「ミュゲちゃんに孫を産んでもらう予定は」
「子供を一人産めば後は好きにしていいと」
ダンダルジャン卿はその場で机に顔を突っ伏した。
「上流階級の女性などみんなそうでしょう」
「あのな、ミュゲちゃんは違う。ミュゲちゃんは汚れ無き乙女で、そのうえそういうことには全く疎い」
絞り出すようにそういう。そしてどこで育て方を間違えたのだろうと真剣に悩む。
「それにだ、これをレイシックが見たら何を言い出すか」
「言える立場ですか」
いろいろとやらかしたその代償が娘なのだ、娘をどう扱おうと文句の言われる筋合いはないと思っていた。
「そんなこと関係ない」
ダンダルジャン卿は重々しくそう言った。
「そんな立場を慮るような奴なら、あれだけの騒動起こせると思うか」
説得力がありすぎた。
「とにかく、当分は行いを慎め」
「わかりました」
ミュゲは新聞とそれ以外の写真を手にして、相手の女性の前に座っていた。
しゃべるのはもっぱら、ナルシッサと弁護士だ。
綺麗に結いあげた金髪。完璧な化粧で彩られたそれなりに整った顔立ちが今は無残に引き歪んでいた。
「正式な結婚というものを、いろいろと侮っていたのではないですか」
弁護士が、銀ぶち眼鏡を弄びながらそういう。
彼女に弁解は一切許されず、示された金額は妥当なものだと言われればどうしようもない。
「こんなお金私の一存では」
「すでにご主人もわかっていただけているんでしょう」
ナルシッサが唇を釣り上げて新聞を指差す。
腕を組んで歩くサンダース大佐と彼女が写っている。
「お話すれば納得していただけますよ」
わなわなとふるえている。そんな彼女に弁護士ははっきりと断言した。
「裁判になれば、不利なのはどちらかお分かりですね」
のろのろと時間をくれとだけ呟く彼女を置いて三人は出て行った。
妙なものを見たとジャックは思う。あれはたぶんさっきサンダース大佐の執務室をじっとりとみていた准将の家だ。どうしてそこからミュゲが出てくるんだろう。
ほかに見慣れない男と、多分ナルシッサと呼ばれていた少女の三人連れだ。
「今日中に回れる限り回ろうね」
ミュゲの言葉を全力で聞かなかったふりをした。




