やっと気づいたか
それから三日で、軍関係者のサンダース大佐の愛人問題はすべてすっぱ抜かれた。
軍人は矜持が命だ。表立って見苦しく騒ぐのはその矜持が許さない。と言うわけで妻や娘をキズものにされたと騒ぐものは一応いなかった。
相手が、軍の最高指導者の息子と言うのもある。
しかし表面に出ない分、押し殺されたそれは毒ガスのように重く垂れこめ、サンダース大佐の執務室にも薄く開いたドアから恨みがましい視線がじっとりと。
「あれはもう怪談だよな」
写真に撮ったら、心霊写真と言われそうなドアの向こうの瞳、それは薄く濁って不気味だ。
「あ、准将、こちらで何を」
ふいに扉の向こうから聞こえてきた声、そしてあわただしく走り去る足音。
「行ったか」
ジャックは軽く額の汗をぬぐう。
たとえ当事者ではなくとも、あのじっとりとした恨みがましい視線は部屋全体をプレッシャーで包んでいた。
「どうも、書類の配達です」
本来なら下士官の仕事である書類の配達を憲兵総長であるマグナスがやってきたのだ。何を言いたいかはわかりきっている。
「お前、大概にしろよ」
苦り切った顔で、彼は新聞の束をサンダース大佐の机に叩きつける。
そして書類をカーター少尉に渡すと、そのままサンダース大佐に向き直る。
「まあ落ち着け」
「お前が慌てろ」
そう言って仁王立ちで椅子に座るサンダース大佐を見下ろす。
「ここは落ち着くべき場所だろう。何しろこれはずいぶんと作為的だ」
そう言って新聞の写真を何枚か指差す。
「この写真は撮られたのが、ひと月ほど前だ」
「だからなんだ」
「おかしいだろう。新聞記者なら取ったら即掲載するはずだ。それが、ひと月寝かせる理由があるか?」
そして、そう言って新聞の最初のページの掲載誌の名前を指差す。
「掲載誌がばらばらなのにかかわらず。ほぼ集中してこの記事を掲載した、何者かの意図を感じる」
はい御尤もでございます。
その何者かが誰かを知っている部下達は唇を噛んで沈黙を保つ。
「問題はその何者かの目的だが、それがわからないうちはうかつに動けないな」
「その前に日ごろの行いを正せ」
問答無用の正論だった。
「お前はもう既婚者なんだぞ、独身者のご乱行とはわけが違うんだ」
「妻には適当な相手をあてがってやったから文句は言わないはずだ」
「世間が言うんだよ、後適当な相手って誰だ」
「ラウールだ、そら書記長の息子の」
マグナス憲兵総長はそのまま崩れおちた。
「お前と言うやつは」
床に倒れ込んだまま呻く。その姿に心から同情しつつ、もう縁を切ればと心の中で忠告する。
「ダンダルジャン卿のお呼び出しだ、とっとと行け」
よろよろと立ちあがりながら、マグナス憲兵総長はそう言って、よろけながら帰って行った。
その後ろ姿で、少尉と准尉達が祈りを捧げるポーズをとっていたことに気付いたかもしれないが。
ミュゲは傍らの弁護士と、同じく傍らの従姉妹にして親友にそれぞれアイコンタクトをとる。
言わずともわかっている。とそれぞれが頷く。
「じゃあ行こうか」
相手はいま在宅しているはずだ。新聞ですっぱ抜かれた、サンダース大佐の愛人既婚の家に今乗り込もうとしている。
「がっぽり巻き上げてやるぞ」
「おー」
拳をつきたてて宣言する。




