あんた本当に偉そうだ
小型の拳銃を上司の額にぴったりと当ててカーター少尉は問いただした。
「今何とおっしゃいましたか」
「閣下、貴方が自分の年齢すらお忘れになるほどボケたとは残念です」
スミス兄弟が心臓をぴったりと合った息で狙っている。
必殺を掲げた少尉達に比べると、准尉達は穏健で、座っていた椅子をそれぞれ掲げている。
渾身の力でどつき倒すためだ。
「待て待て待て、なんだか誤解があるようだが少し待て」
冗談抜きの殺意を感じて、必死にサンダース大佐はそれを押しとどめる。
「誤解ですか」
薄く微笑みさえしてその重厚をどれほどサンダース大佐が動こうと額の中心に照準を合わせたままのカーター少尉は引き金を引き絞ろうとする。
「実はだな、もともとこの結婚は父に強要されたものなんだ」
悲痛な叫びにとりあえず話を聞こうと少尉達は銃をおろした。
准尉達も椅子をおろす。
「それで、どういうことです」
全員を代表してカーター少尉が尋ねた。
この間相当な物音や叫び声が聞こえたはずだが、隣室に控えていた尉官以下の兵士達は何事かと駆けつけてくることはなかった。こういう騒ぎに慣れ切っているといっていい。
「私の父が誰であるか聞いているよな」
どこまでも銀のスプーンをくわえてきた男で、彼の父親は軍の最高司令官である。
しかし彼は親の七光り呼ばわりされるのを避けるため、母方の親戚の名字を名乗っている。
そんな彼がプライベートで父親に呼び出されたのが昨日のことだった。
父親である国軍総司令官ダンダルジャン卿はいつも通りゆったりとした執務室の椅子にくつろいだ顔で座っていた。
「アレク・サンダース大佐まいりました」
「プライベートだと言ったはずだ」
この二人はあまり似ていない、かろうじて共通点を述べるなら癖のない黒髪ぐらいだろう。
「そのプライベートのお話とは、お父さん」
「お前、結婚しなさい」
またかと眉をしかめた。三十を超えてからしきりと見合いの話がやってくる。
「私のような若輩には早い話ですよ」
手っ取り早く逃げようとそう言って踵を返そうとする。
「お前に拒否権はない」
そう言って一枚の写真を渡された。
写真に色をつける技術はまだ開発されていないので、色彩はわからない。しかし薄い髪色をしたかわいらしい少女が映っている。
「ミュゲ・レイシック嬢だ」
「かわいらしいお嬢さんですね」
見た通りに言う。しかしサンダース大佐の好みからすれば五歳は若い。
「レイシック卿の長女に当たる」
「そうじゃないかと思っていましたが」
「レイシック卿がまたやらかした」
その言葉にサンダース大佐は真顔になる。
強大な魔力を持つレイシック卿、彼の唯一にして最大の欠点はとんでもないトラブルメーカーであり、ちょっと気をつければ気がつくようなトラブルの発端にまったく気にせず突っ込んでいく天然ぶりと、金銭感覚の欠如だった。
魔道士の才能がなかったらあの人はどうやって生きていくんだろうと人はいろいろと言っている。
「何をやらかしたんですか」
だらだらと冷や汗をかきながら、サンダース大佐は訊いた。
「聞きたいか?」
聞いた、そして聞いたことを後悔した。
「シャレになりませんね」
「まあ、戦争は回避できたし、かかった経費もそれを思えばまあ」
父親の言葉を濁す様子を聞いていたが、それでも脳みそに引っかかっていたことを思い出す。
「それで、さっきのお嬢さんが何の関係が」
たぶん彼女には何の責任もないだろう。
「さすがに彼も責任を感じてね、自分にできることなら何でもすると」
「はあ、それで」
「それでミュゲちゃんをいただくことにした」
「は?」
「お前の嫁にだ」
「しかし、こんなチャンスはまたとない、無論ミュゲちゃんを説得して、すでに婚姻届にサインをもらった」
「おい」
「そして、お前のサインも私が偽造しておいた」
「おい……」
「というわけなのだよ」
何とも言えない空気の中、ひょうひょうとこの男は立っている。
「あの、まさかその婚姻届、出しちゃったんですか」
ジャックがおずおずと聞いた。
「まるで、親の借金のかたに身売りするようなもんじゃないですかその娘さん」
「たとえ親で最高司令官でも、それは押しとどめるべきでは」
「まさか、弱みを持った嫁なら結婚しても好き勝手できるなとか考えてませんか」
スミスの双子が追い詰める。
今度動くのは大佐のほうが早かった。
窓ガラスを突き破って執務室を脱出する。
「まさかここは三階」
「やつにとっては大したことではないわ」
再び銃を手にしたカーター少尉が割れた窓ガラス越しに逃亡する大佐の姿を確認する。
「追え、生かして帰すな」
カーター少尉が、執務室を飛び出す。
追跡劇は半日続いた。
あちらで最新作を投稿するたびにこちらにも遅れて投稿します。




