なんもしらんと
小さなレストランでミュゲは仲間たちと集まっていた。
オルタンシャは先日の戦果を披露する。
「ほら、ここ、カレンダーが写ってるでしょ、証拠として強いよ」
結婚してからひと月以上。カレンダーが今月である以上、これは結婚前の写真だと立証できるわけだ。
「いい感じね、それにしてもずいぶんと幅広いというか」
「これだけいればこの女のことなんて覚えてないんじゃない、私達が取りこぼした分もあるだろうし」
「決行日は」
「例の騒ぎが収まってくそ親父が戻ってくる二日前に行動を起こす」
「ああ、なるほど」
「役者が全部そろってないとねえ」
アザレアは目の前のお茶を飲みながら何度も頷く。
「だとすると再来月か」
「そう、じゃどれだけ証拠が集まるかなあ」
写真を封筒にしまいなおし、オルタンシャがため息をつく。
「相手のほうの調査は」
「社交界一の情報網を誇るアザレアさんをなめんじゃないわよう。とりあえず既婚者はリストアップ済み、マメにやらないと本当にわけわかんなくなるわよねえ」
分厚い書類を片手にアザレアもため息をつく。
予想を超えたサンダース大佐のご乱行にあきれるほかない。
「そりゃ、脅迫でもしなきゃ嫁の来てもないわね」
ナルシッサもあきれ返った様子を隠そうともしない。
「出入りしていた店の常連さんにも何人か証言してもらう手筈は整え済みだから後はとどめをいつ刺すかだけだよ」
オルタンシャがまとめた。
ナルシッサはミュゲの母方の従姉妹だ。ミュゲの父親レイシック卿の奇行には物心ついてから知っているので今回の作戦もすぐに協力を約束してくれた。
社交界に詳しいアザレアを紹介してくれたのもナルシッサだ。
そしてオルタンシャ。下町育ちで、ミュゲの知らないことを教えてくれる。
ちょっとしたことで知り合った幼馴染にして今はミュゲの共犯者だ。
縁談が来てすぐにこのチームをミュゲは組んだ。
「しかし、あのときは焦ったよね」
以前にもこんな風にレストランに集まって作戦会議をしていたのだ。それがちょうどテロでレストランに閉じ込められた。
そしてそのテロ鎮圧にやってきたのがよりによってサンダース大佐の部隊。
テログループを心中で罵りながらサンダース大佐が帰還するか、緊急配備がとかれ解放されるかを待ち続けた。
ようやくレストランから解放されたとき、一度だけ会ったサンダース大佐の部下と目があった時は本気で焦った。
「まあ、女の子だけで集まっていたってそれほど焦る必要はまあなかったけどね」
オルタンシャが言うことも今だからだ。あのときはばれるかと思った。
「ミュゲ、思いっきり挙動不審だったね」
「それを言わないでよ」
ミュゲがむくれる。
お茶とお菓子できゃらきゃらしている女の子達が話している内容を、店の者は誰も気づいていなかった。
マグナス憲兵総長は仕事のついでにこのサンダース大佐のオフィスにやってきていた。
そしていつまでもいつまでも変えらなかった。
話す内容はサンダース大佐に対する結婚の説教だ。
「お前な、奥さんがかわいそうだと思わないのかよ」
「そうだな、最初にあんな風に意思もなく婚姻届に署名するような女じゃなければかわいそうだと思ったよ」
「だから意思じゃなくて、抵抗しようもないことだったんじゃ」
「あの女にまともな感情なんかあるもんか、十六の少女だからとかわいそうがるがどうだって代物だぞ」
その会話を聞きながら、ジャックは肩を震わせている。ボルト准尉は唇を震わせている。
その二人の挙動不審は話しこんでいる二人には見えなかったが。
双子のスミス少尉が唐突に立ち上がり、それぞれの襟首をつかんだ。
『どうやら仕事に身が入っていないようなので、教育的指導をしてきます』
綺麗にハモッた二人はそのままずるずると引きずっていく。
そしてある程度オフィスから離れた場所で、尋問が始まった。
思いっきり頭をつかまれ、ギリギリと締め上げながら完全なハーモニーで尋ねる。
『何を知っている』




