あんたそれでも軍人か
少し短めです。
無理やり引ずられていくミュゲを見送ったジャックはいらだたしげに爪を噛む。
ジャックの今の仕事は庭先の警護だ。建物の中に入ることは許されていない。
あのどら息子がミュゲに対して暴行を働いてもサンダース大佐の許可があったと言い切ってしのぐだろう。
「どうした」
ボルト准尉が一気に形相の変わったジャックを怪訝そうに見た。
ジャックはあわてて事の次第を説明した。
しばらく考え込んでいたが、ボルト准尉はこっちに来いとジャックを手招いた。
「あのどら息子が女を連れ込む部屋はいつも決まっているんだ」
そう言って、建物の裏手へと向かう。
「あの窓だな」
そう言ってその窓を指差す。
高さは三階ほどだろうか。
「どうしてそんなことを知ってるんだ」
「情報ってのはいつでも役に立つさ。それにまあ無理強いするなって言うサンダース大佐の言葉を無視して脅迫したってこっちで証言することもあるかもしれんし」
ジャックはボルト准尉を伺うと小さく頷いた。
「それじゃ助けに行く」
そう言ってジャックは建物の壁に張り付いた。
レンガの小さな隙間に指をかけて身軽に登っていく。
わずかな壁の出っ張りに体重を乗せてするすると登っていくその体重移動は極めてスムーズだ。
ジャック・ピータース。常に実技に関してはトップを走っている男。
座学は中間から下がるが。
その身体能力は人間離れしていると上から下まで全員の一致した見解だ。
あっという間に彼は三階の窓へとたどり着いた。
そして窓の外から中の様子をうかがう。
部屋の中ではミュゲが立っていた。そしてその足元に身体を丸めてうずくまる男の姿。
その体勢には何となく見覚えがあった。
股間を強打しまったく動けなくなった姿勢だ。
ミュゲは男の身体を蹴り飛ばし、無理やり体勢を変えさせる。
そして首を踏みつけた。
「死にたくなければ動かないでくださいね」
首を踏んだ状態で、ミュゲがそうささやく。
小さな声だったが、驚異的な聴覚を持つジャックには聞き取ることができた。
小柄で華奢なミュゲだが、それでも首に全体重を乗せれば人ぐらい簡単に死ぬ。
そしてミュゲのそのゆるぎない姿勢から薄々感じ取れるのはミュゲが暴力的なことに慣れ親しんでいるということだ。
おそらく部屋に入った途端股間を蹴りあげられ、今に至るというところか。
ミュゲの足元でどら息子がどういう顔をしているかわからないが想像はついた。
「サンダース大佐」
この場にいない男のことを思い出す。
軍人なら目の前の人間の戦闘経験ぐらい見抜いとけよと。ジャックは呆れかえった。




