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Sevengate=routeoflust  作者: 東雲出雲
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routeofloss

三分間。


カップラーメンを待つ間であれば、意外にも遅く感じるであろう時間帯。


しかし、人それぞれの感性により三分間は遅くなったり早くなったりする。


ボクサーであれば殴り合いは本当に一瞬だし、紅白帽を縦に被った巨大な正義の味方さんだったら三分なんて本当に刹那の間だろう。


しかし、今の僕はこの三分間、何よりも早く、かつ尋常に話を進めなければならない。


何故ならば、カップラーメンを食べる間に、ゴングが鳴り止む間に、怪獣をやっつけた間に。


僕は、その三分後には魂すら消失してしまうのだから。


取りあえず僕は何を話せばいいのかと思う前に、今扉の向こうにいる筈の大罪を連想する。


彼らは七つの大罪であり、それぞれが大罪の名を背負う。


故に、今一番凶悪で無いものを選べば、必ずしもそいつと話す際の恐怖は薄れるだろう。


とすれば、今一番恐怖の無い大罪は怠惰。


何をするにも怠ける事が第一のこの大罪ならば、自分自身に矛を向ける事はまず無いだろう。


熊の紋章が付いてある扉に顔を向けると、まず、自分がどれ程まで必要としているのかを言わなければならない。


無難ではあるが"僕と一緒に戦って欲しい"とか"君じゃなければ駄目なのだ"と告げる。


門の先から、何も答えは出てこない。



〔―――クスクス〕



丁度自分の真後ろから笑い声が聞こえる。


後ろを振り向けば山羊の紋章が施された、色欲の扉。



〔無理よぉ、貴方のアプローチじゃ、その怠惰の子所か私たちでさえも濡れる事は無いわぁ〕



何と言う妖艶な声が頭に響く、脳が溶けるとはまさにこれの事。



『貴様と一緒にするな、ルリエントール、元より俺は、こんな餓鬼に拘束をされるなんて怒りが込み上げてくる』



すると今度は色欲の扉の隣から声がする、それはドラゴンが描かれた紋章、憤怒の扉。


その声はとても若く、それでいて恐喝する様なドスの利いた声をしている。



【まあ、同感ではあるがな】



憤怒の扉の横から聞こえるのは強欲の扉、無論紋章は狐。



【この戦いで優勝すれば望みが叶う、ならば少しでも生存率を上げる為には、悪いが君では無理だろうね】



〔ちょっとシャルゥ、そんな言い方は無いんじゃなくてぇ?〕



援護する様に言って来たルリエントールと言う色欲は、いかにも擬音にぷんぷんと付けられそうな程甘い声だ。



【ならばルリエントール、貴様がこの少年に拘束具を明け渡すのか?】



しばらく考える様な素振りが扉越しに見える。



大きく溜息を付くと同時に〔やっぱ無理、気分が乗らないわぁ〕と言った。



【だろうな、俺もパスだ、もう少し実力のある人間が良い】



『俺もだ、おい神、さっさとこんな奴、落としちまえ』



落とす、とは無論虚無だろう。


冗談じゃない、この思考、この魂が無くなるなんて死んでも嫌だ。


何とかして怠惰に選ばれようと、頑張っていたが。



《………すまない》



怠惰の方からそう声が聞こえた。


今、何と言った?



《すまない、君では、駄目だ、本当に、申し訳ないと思う》



<んふふ、フられましたわね? あ、勿論私も無理ですわ>



強欲の反対の方からも聞こえる、嫉妬の扉の声。


多分、怠惰をパートナーにするのは無理だろう、元より断固たる意志が、ハッキリと伝わってくる。


糞、誰か、誰かいないのか?



"残り一分、せいぜい頑張りたまえ"



神の声が響く、五月蝿い、少し黙ってくれ。


傲慢の方へ駆け寄りアプローチを試みるが………



[お断りだ、失せろ]



と言われ、暴食の扉に駆け寄るも。



{御免なさい、だって貴方、美味しそうじゃないんだもん}



と断られた。



"残り三十秒"



あぁ、もう時間が無い。


早く。


急いで。


パートナーを見つけなければ。


すがる思いで"誰でもいい、僕と契約を"と声を張上げる。


もう既に、人格に残るプライドは捨てた、せめてもの情けをくれる事を信じて、ありったけの声を張上げる。



『見苦しい』



憤怒の先から、そう言われた。



『見苦しいったらありゃしないぜ、おいお前、名前も知らないお前、お前、さっきから契約しろと言うが、命令されて従う奴なんているのか?』



激しく肩を上下させながら、憤怒の声を聞く。



『いいか、あの神が言ったように、お前が選ぶ権利なんかねぇ、俺たちがお前を選ぶんだ、それなのに、お前は好き勝手言いやがって、何が出来て何が出来ないのか分からなきゃあ、誰も欲しいと思う奴なんていないんだよ』



―――そうか。



そうか、そう言う事か。


自分は、今の今まで自分の事しか考えていなかった。


憤怒の言った事を例えるのならば、商品の売り子、売り子自身が商品の良さを伝えなければ、よっぽどの事が無い限り商品なんて買いはしない。


自分が虚無に落とされたくないからと助けを乞う様に言い、情け無い程までに自分勝手だった。


当たり前だ、もし自分が"選ぶ"立場なら、そんな奴とは、組みたくはないよな―――。



"残り十秒"



頭の中で、神様のカウントダウンが始まる。


それと同時に、どんどんと体が光となって消えていく。


最初は足から光沢して行き、足が消えた。


体を支える足が無くなって、無様にも転んでしまう。


平然として言い続ける神様のカウントダウンは残り五秒を切った。


残り四秒


―――嫌だ。


残り三秒。


―――まだ、消えたくない。


残り二秒。


―――だって。


残り一秒。


―――だって、自分はまだ…………


残り零秒。




―――――――――自分の記憶を、取り戻していないのだから。




「あぁあああああああああああああ!!!」



声を張上げた、下半身は等に消えて、胸元が光りとなっていても、まだ諦めない。



「お、俺は、記憶がない、から、まだ、何を出来るとか、そういうの、知らないから!!」



右手が光沢、そして泡の様に消えていく。煙の様に、光の粒子を天へと昇る。


右目も消えて、右耳も消えて、残る体の部品は既にゴミ。


それでも、諦めない。



「でも、でも、自分、頑張りますから!! きっと、役に立てるように頑張りますから!!」



今度は残る体全てが光沢する、ガリガリと削る様な音が聞こえて、それが自分の消える音だと気づく。


それでも、諦める事は無い。



「ぜっ、たいに。後悔はさせませんから、だから、俺と、俺とともに


―――――――――――戦って下さい!!」



視界が消える、既に聞こえる音も聞こえない。


感覚も無い、息を吸う口も、息を吐く鼻も消えている。


でも、聞こえた。



「―――いいわぁ」



自分と共に戦ってくれるパートナーの声が。



「今の貴方なら、きっと私を楽しませてくれるハズ」



それこそ、心の真から聞こえた、彼女の声。


優しくて、それでいて、何処か狂気を惑わしている声。



「初めましてね、私はの名前はぁ――――」



その人の名前は――――。



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