神様と僕
タイトル只今迷走中
―――目を覚ませば、其処は僕の知らない場所。
僕が横たわっていた地面はガラス細工の様な施しをされていて、人目だけで芸術品だと思わせるものがある。
周りの壁も同じ様に赤青黄主要な色が壁一面に描かれていて、美術感覚の無い僕でも美しいと思ってしまう。
しかし、異様な雰囲気だけは隠れていない。
壁はを円状を描き、赤と黒を混ぜた様な不気味な色をした、教会の様な扉が七つ仕込まれていた。
間取りは七角形の様な規律さを、扉のネームプレートには其々違う動物と文字が描かれている。
"目を覚ましたか、旅の者"
声がした。
耳から聞こえるのではなく、脳から響いたかのような声。
直接脳内に響く声は、まるでノイズ混じりのラジオDJ。
"質問をされるのは面倒なので、先に言っておくが、貴様は既に死んでいる、無論、死んだ際の記憶は消してある"
声は言った、死んだ際の記憶を消してあると。
それは、嘘だ。
何故なら、僕の記憶は、考える為の知識以外全部思い出せないからだ。
自分の出生、人脈、人生、思い出の全てが思い出す事が無い。
"ふむ……中々これは面白い、誤って記憶全てを消したか、もとより記憶が無かったのか、まあ、些細な事だ"
いや、人の記憶を何だと思っているんだ貴方は。
いやいや、それ以前に何故僕の考えている事が分かるのか!?
"無論、その答えは、私は貴様と言う概念を作り出し、貴様と言う罪を作り上げたからだ、脳内を覗くなど、造作も無い"
概念を、作った? つまりは人を作ったって事?
だとすれば、貴方は所謂神と言う奴ですか?
"貴様らが私を呼ぶのであれば、そうなのであろう、しかしこんなにも早くイレギュラーが訪れるとは、面白い"
特例、と、その神様は言った。
それが神様にとってどんな存在なのかイマイチよく分から無いが、少しだけ嬉しいと思ってしまった。
"さて、この欠陥品は何処まで勝ち残れるか、見物だな"
………イレギュラーと書いて欠陥品と読むのですかそうですか。
と、言うより、今なんと言いましたか? 私の聞き違い出なければ、勝ち残れと申したような気がして………。
"無論、殺し合いの戦いである、貴様達の所で言うなれば、バトルロワイヤルと言うものだ"
バトルロワイヤル、知識としては記憶に残っているが決して良い意味では無いはずだ。
元々は造語として作られたその言葉は、殺し合いと言う言葉のほうが伝わりやすいだろうに、と思ってしまう。
しかし、何故自分がその様な恐ろしい事をしなければならないのか。
"暇つぶしさ、何、私たちと言う存在はね、其々の魂の管理をしなくてはならないのだが、何分死んだ際に訪れる魂の数が多すぎる、故に、自らの魂は自らの運命によって決めて貰う事になった"
それはつまり、殺し合いで決めろ、と言うことか。
だが納得しない、何故そんな事で勝敗を決めなければならないのか、最も今自分が知る記憶では、バトルロワイヤルと言う者は最後の一人になった人間が優勝すると言う事に
なっているが、当然負けた魂は地獄行きで、優勝した魂は天国行き、そう言う事になるのならば、人数に寄るが、あまりにも地獄行きが多すぎると思われる。
"お前は一つ勘違いしているぞ、旅の者、本来、天国と仮称する世界など、誰もが到達できるわけが無い"
言葉の意味に誤差が生じる、誰もが天国に行けないとは、どう言う事か。
"人間と言う生き物は必ずしも何かを壊して生きている生物と言ってもいい、壊す事は悪意だ、如何なる無垢でも、壊す事は誰にだって出来る行為であり、その分だけ善行とは程遠くなるのだ"
だから、僕達は天国に行けないと?
"そうだ、まあ、何も壊さず、殺生も行わず、尚且つ邪な思考を持たなければ、天国に行く可能性もあるのだろうが……"
そんな事、出来る訳が無い。
神様は自分で言った筈だ、人間とは壊す生き物だと、それはつまり、言葉を理解出来ない子供でも、そんな事起きてしまう。
ならば、人間が天国に行く事は絶対に無いじゃないか!!
"無論、そう先程から言っているではないか、人間が天国に行くなど夢のまた夢、それこそ手に届かない人生の最果てである"
……だったら、人間は全て地獄行きではないか。
"地獄? 生憎、そんな物は無い、あるのは虚無之のみ、全ての理想や思考、思い入れ姿形全ては無くなる運命"
地獄すらないのか、では、人が人生で犯した罪は、祓う事無く全て無かった事にするのか、貴方は。
"肯定だ、故に、暇潰しとして魂を弄ぼうが誰も気に留めない、まあ、止めると言うのであればそれもいいかもしれん、欠陥品が足掻く姿も見てみたかったが、速攻として虚無に落とそう"
―――。
すいません話を続けてください。
"貴様、シリアスに慣れて無いな……いいだろう、其処に、七つの扉があるだろう"
七つの扉、そう、確かに存在する不気味な扉が七つ、そこに並んでいた。
"貴様から左周りから言うが、ネームプレートには
『憤怒』『嫉妬』『強欲』『暴食』『傲慢』『色欲』『怠惰』
の七つ"
以上の七つを聞いて、連想するのは七つの大罪。
誰かが定めた最大の罪と言うこの七つがネームプレートに刻まれているらしい。
自分自身の知識には無い難解な文字だったので、理解できなかった。
"この七つには其々貴様と同じ、死んだ人間、いや、死んだ物体が収納されている、ネームプレートの通り、その生き様、生き方が七つの大罪として分類され、パートナーになるべき人間を探しているのだ"
パートナー?
"左様、バトルロワイヤルのルールは、二人三脚の様になるタッグマッチによる戦いだ"
つまりは、その扉の中に入る人間とタッグを組み、戦えと言うのか。
だとしたら、それは少々危険なんじゃないのだろうか? 七つの大罪に認定されたと言う事は凶暴かつ凶悪なんじゃないだろうか?
"その心配は無い、もし大罪に選ばれた場合、貴様の左手首に三つの拘束具を取り付ける、その拘束具は、大罪の持つ能力を制限させた物で、それがある限りは攻撃は出来ない様に契約されてある"
"勿論、拘束具を外し、能力を大罪に返す事も可能だ、ただし三つ全部の拘束を外した場合、大罪は本来の力を取り戻し、貴様との契約は無効となる"
つまりは拘束具は自らの命綱、と言う訳か………。
しかしえらく作り込まれているな、本当に暇人か?
"ふむ、それでは基本的なチュートリアルは終わった、では早速大罪に選ばれて貰おうか"
あぁ、分かった。
…………選ばれる?
"そうだ、選ぶのではなく、選ばれるのだ"
何故だ、普通は自分が選ぶ立場では無いのだろうか?
"当たり前だ、貴様の様な弱い存在が、大罪の様に強い者を選ぶなど立場を弁えろ"
つまりは、俺に選ぶ権利が無い、と言う事か。
しかし、それだと自分はどうすればいいのか、ただこうして立ち尽くすだけで言いのだろうか?
"無論、そんな事はさせる訳には行かない、三分間だけ待つ、それまでに大罪たちにアピールをしているがいい"
アピール? いや、それよりも、三分経てば、一体どうなるのか?
"不適合と言う事になり、貴様の魂は虚無に落ちる、落ちたくなければ、大罪に媚を売るのだな"
…………そうか、これは所謂面接、それも後ろ盾が後が無いと告げる圧迫面接の様な物だ。
失敗すれば落とされ、成功すれば入社できる。簡単な話だ。
言葉で言えば難しくは無い、が、実行するとなれば、これ以上に難しいものは無いのだろう。
"最後に、もし貴様が優勝出来れば、神の権力を用い、お前の望む願いを一つだけ叶えてやろう"
"それが一応、私が暇潰しで消費する人間に対する敬意と言うものだ、無論、天国、という所には連れていってやる"
それだけ言うと、脳内に響くノイズの様な音は止み、あたり一面に静寂が訪れる。
いや、本当は元より静寂だったのかもしれない、けれど今の僕にはそれを確かめる術は無い。
何故ならば、今より三分間の演説を、否が応でもしなければならないのだから。