終わりが夢が希望が潰れた、その時
流山
新たに隊士を集い、しばし駐屯していた時突然大砲が鳴り響いた。
―――ドォオオオオオッン
新政府軍の、襲撃にあったのだ。
「ついに来たか……」
「近藤さん、俺があの連中を引きつけている間にあんたは隊士を連れて脱出してくれ」
なんとしてでも、この場を切り抜けねばならない。
嫌な予感が俺の心中を渦巻いていた。
近藤さんさえ……、近藤さんさえいてくれたら、新撰組はどうとだってなる。
この場をしのげたら、また俺たちは戦える。
「島田、殿を頼めるか」
近くにいた、もう随分な古株になる島田魁に危ない役を押し付けてしまうことに、心苦しくなる俺は、まだまだ鬼にはなりきれていないんだろう……。
「もちろんです、さあ時間がありません、行きましょう局長」
それでも島田は、嫌な顔一つせずに引き受けてくれた、本当に頼りになる奴だ。
島田が走ろうとした時、近藤さんが口を開いた。
「いや、ここは俺が新政府軍を引きとめよう。土方歳三、隊士たちとともにここを脱出しろ」
「なっ、なにいってんだよ近藤さん!あんたが捕まったら、誰が新撰組引っ張ってくんだ!」
あんたがいなくなっちまったら、俺は何のために戦えばいい。
「新撰組は、お前に預けるよ……これは局長命令だ!隊士と安全なところまで撤退しろ!」
なに……
なにらしくねえことしてんだよ。
あんたが、副長の俺に命令すんのか……
「なぁに、大丈夫さ。俺は幕臣だ、新政府軍も簡単には手をださんさ。頼むよ、最後くらい格好をつけさせてくれ。……局長らしいことさせてくれよ、トシ」
「馬鹿野郎!あんたは生きなきゃなんねーんだよ!俺のためにも、新撰組のためにも!」
「俺にできることは、これくらいだ……さあ、時間がない。島田くん、無理矢理にでも引っ張ってくんだ」
「はいっ、局長……どうか、ご武運を」
そう言って島田は俺を引っ張って、隊士を連れて裏門から脱出をした。
その時に、聞こえた、あの人の声。
「―我は大久保大和である!逃げも隠れもしない!上官にお取次を願う」
その声は、太く、気迫のある声……
あの人の声を聞いた最後になった。
あれから、奔走して、ついに蝦夷の地まで来ちまった。
俺はあの日に、生きる希望を失った。
「――土方陸軍奉行並、大鳥陸軍奉行がおよびですよ」
「島田くん、その呼び方はやめてくれと何度も言ってるだろ?」
この、蝦夷の地まで俺はきっと死に場所を求めて戦ってきた。
新政府軍に嘆願書を送り続け、あちこち走り回ったが、近藤さんを助けることはできなかった……。
何が、新撰組副長だ……
大切なもの、一つも守れない。
あの後、捕縛された近藤さんは、元御陵衛士だった者に近藤勇であることを看破され、板橋にて斬首された……。
あのひとは、武士らしく、切腹すらさせてもらえなかったんだ。
全部俺の、力不足。
「なあ島田くん、俺は、何のためにここまできたんだろうな……あの時、なんで近藤さんを、みすみす連れてかしちまったんだろうなぁ・・・・・・・」
俺の言葉に、島田は答えた。
「それは、俺たちを導くためだ。近藤局長は、土方副長なら、旧幕府軍を導いてくれると、そう思ったんです。そして、新撰組の名を、近藤局長の名を語り継ぐためでしょう。知ってましたよ、あの日から土方副長は死に場所を求めて戦っていたこと。そんなことでは、近藤局長は喜びません。あの世で怒られてしまいますよ」
旧幕府軍を、導く・・・・・・
「そう、だよな・・・・・・まだ負けたわけじゃねえ、よな。わるかった、もう死ににいく戦いはしねえ、これからは勝つための戦いをする」
「それでこそ土方副長です」
孤軍たすけ絶えて俘囚となる 顧みて君恩を思えば涙さらに流る
一片の丹衷よく節に殉ず 雎陽千古これ吾がともがしら他になびき今日また何をか言わん
義を取り生を捨つるは吾が尊ぶ所 快く受けん電光三尺の剣
只まさに一死をもって君恩に報いん
近藤さんが残した辞世の句は、一生忘れることはない。
"コンコンッ"
「土方だ、大鳥さんいるか?」
「ああ、土方くんか、・・・・・・おや、なんだか吹っ切れたような顔をしているが」
「旧幕府軍はまだ負けてねぇ、最後まで戦うぞ」
おれたち、新選組は名前が変わろうと、人が変わろうと、消えることはない。
おれたちの心に刻まれた、誠の旗は絶対に折れない。
消えることのない、俺たちの希望だ。
だから、わりいな近藤さん。
「まだ、そっちにゃ行けねーよ」
「・・・・・・?」
終わりが夢が希望が潰れた、その時
道標となったのは、己の魂に刻まれた誠だった