表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「宝石のようなカマキリ」

作者: 夢野彼方

 友人の木田仁は、飽きっぽいくせに凝り性だ。

「今さ、昆虫の繁殖にはまっちゃっててさ」うれしそうに口を開く。

 この日、モール内のペット・ショップで、メインクーンの赤ちゃんを眺めていたら、木田に会ったのだった。

「あ、知ってる。クワガタでしょ? 大きいのになると、何万円かで取り引きされるんだってね」わたしは言った。

「違う、違う。おいらのは、そんなありふれたのじゃないんだ。それに、クワガタはもうはやらないんじゃないかな」

「そうなんだ。じゃ、何? まさか、ゴキブリとかじゃないよね?」半ば、冗談めかして聞いてみる。

 おっ、という顔で見つめ返す木田。まさか……ね。


「んー、残念ながら、ゴキブリじゃないんだ。でも、近いよ。同じ網翅目のカマキリだからね」

「えーっ、カマキリとゴキブリって、同じ仲間だったの?!」わたしは驚いた。

 ちょっと怖いけれど、逆三角の頭をくりっと傾げ、かわいげがある、とさえ思っていた。それが、あの黒光りをした嫌らしい虫と親戚だなんて。今後、カマキリを見る目が変わりそうだ。

「時代はカマキリさ。これから、カマキリが注目される、おいら、そう思ってるんだ」木田は自信満々に言う。「おいら、エサに金粉を塗りたくってから与えてるんだ。成虫になる頃にはね、体中が金ぴかになってるんだぜ」

 金ぴかに輝くカマキリを想像してみた。安っぽい作り物に見えないだろうか。

「うちに寄ってかないかい? 見せてやるよ、金のカマキリ」

 せっかくだから、拝見させてもらうことにした。


 木田の部屋は、至るところに水槽が並べられていた。まだ卵のもの、アリンコのように小さいもの、ほとんど大人になっているもの、さまざまなカマキリが飼育されている。

「照らしている電球、水槽ごとに明るさが違うんだね」わたしは言った。

「そうさ。ヒーター代わりに白熱電球を使ってるんだ。だって、育ち具合によって、温度管理が必要だろ?」

 卵をただ放り込んでおけばいい、ってわけにはいかないんだなぁ。

「ほら、こっちの水槽が6令以上のカマキリ。中には、7回も脱皮をくり返すやつがいるんだ」

 木田の指差す水槽は、部屋で最も大きなものだった。青草のところどころに、大きなカマキリがしがみついている。

「ほんとだ、みんな金色をしてる……」安っぽいメッキどころか、神秘的なほど美しい金属光沢を放っていた。思わず、うっとりと見とれてしまう。


「こいつらさ、仮にも金粉を含んでいるもんだから、鎌の威力は凄いんだぜ。素手で触るのは危ないんだ」木田は厚手の革手袋をはめ、金属製のピンセットで水槽の中をつつく。「ほら、こいつのでかさを見てくれよ。触角を除いても、余裕で15センチはあるよ」

 ピンセットでつままれたカマキリが、ぶんぶんと前肢を振り回す。さっと身構えた時、じっくりと鎌を見てみると、まるで日本刀のような刃文が浮かんでいた。

「なんだか怖いなぁ。子供の頃、手を出して指を挟まれたことがあるんだよね。すっごく、痛かった。こいつにやられたら、指ごとなくなっちゃいそう」

「ははっ、そんなおおげさな。おいらも指を挟まれたことがあるけど、せいぜいカミソリを滑らせた程度だった。もちろん、血は出たけど」そう言って、絆創膏を巻いた人差し指を見せる。


 それにしてもきれいなカマキリだ。金粉を混ぜて食べさせるだけでこうなるんだったら、ルビーやサファイアで文字通り生きた宝石となって、人々の目を奪いそう。

「サファイアでも、試してみれば?」わたしは提案した。

 木田は、やれやれというように首を振る。

「コンビニでサファイアの粉でも売ってればなあ」笑って言った。

「あ、そうか。粉にしなくちゃダメなんだっけ。それに、サファイア、高いもんね」思いつきだけで語るので、いつもこうして恥をかく。

「いや、待てよ」木田が何かを思いついたらしい。「ダイヤ……なら。そうだ、ダイヤモンドならいけそうだね」

「でも、ダイヤモンドって、もっと高価じゃん。それに、宝石の中じゃ、一番固いんでしょ? 粉になんかできっこない」先の失敗を撤回できれば、と分別のあるところを見せる。

「工業用ダイヤ、っていうのがあるんだよ。磨き粉なんかに使うのさ。あれなら安いし、パウダーで売ってるぞ」


 忘れた頃、木田から電話があった。

「ダイアモンド・カマキリ、ついに完成したよ」

「へーっ、すごい! 今から見に行ってもいい?」わくわくしながら聞く。キラキラと、ただでさえ美しいのに、命を宿して動きだすのだ。

「それがさあ、逃げられちまった……」残念そうに声の調子を落とす。

「えっ、どこに?」

「うん、見ている目の前で、窓から庭へ」

「だったら、捕まえればよかったのに。どうして、指をくわえて見てたのさ」わたしは問い詰める。

「むぅにぃ、無茶言うなよな。相手はモース硬度10のダイヤなんだ。水槽のガラスをバターみたいにくり抜いて、鋼鉄製の窓枠を切り裂いて行っちまったのさ」

 願わくば、誰かがうっかり素手で掴もうとしませんように!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 なんだか最近、夢野さんの作品の切れ味が増しているような……ダイヤ焼き食べましたか?赤い逆さビールとか飲みながら。(すいません。) 夢野さんのこの作品にも「刃文」が出てまし…
[良い点] すっごく魅力的なカマキリですね。 この夢はう「ふ」ぎに次いで好みかも知れません。 面白い時間をありがとうございました。
2014/11/15 00:30 退会済み
管理
[一言] こんなカマキリたちが現実にいたら怖いです…… ですが実際にみてみたいなあと思うのが、人の性なわけでして(^^) ファンタジーでよく巨大カマキリが敵になりますが、ダイヤモンドのヤツなんてラス…
2014/11/15 00:30 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ