5:社長♂×保育士♀(後半)
「あれ、蘭だけか?」
やってきたのは智さんだった。
私は、いままでの話をつなげることにいっぱい いっぱいで彼に気付かなかった。
「蘭?どうした?具合でも悪いのか?」
気が付くと、目の前に心配そうに覗きこんでいる智さんの顔が!!
私は、びっくりして彼から離れた。
「あっ、悪い。つい、昔のクセで・・・」
明らかに傷ついている表情の智さん
「いえ、びっくりしただけですから・・辛川さんなら、先ほど出て行かれましたよ?」
そういい部屋から出て行こうとした。
「蘭」
まさか呼び止められるなんて思っていなくてびっくりして彼を見た。
「ずっと、謝りたかったんだ。」
彼のいきなりの言葉
「10年前、俺は思ったより子どもだった。たんなる自分のエゴで君を縛り付けていた。君が言った通り君の気持ちを考えていなかった。君のことを・・・女性のことを信用出来なかった・・・悪かった。君に嫌な思いをさせて」
違う、智さんが悪いわけじゃない。
私が悪かったの、私があなたをきちんと受け入れなければいけなかったのに・・・
私があなたを拒んだ・・・
あなたは、私を信じてくれてた。
私の気持ちを信じてくれていた。
なのに、私は・・・
その気持ちですら信じられなくなっていたの。
「あなたと付き合って、嫌なことなんて何一つなかった。」
そういい部屋から出た。
これ以上、口を開くとまた彼を傷つけそうだから
休みの時間の使い方に文句は言わせない。と家に帰りつくなりベッドに倒れこんだ。
どれくらい泣いたのだろうか・・・
気が付くと私は寝ていた。
ふっと見ると、留守電がちかちかと光っていた。
誰だろう。
メッセージを聞くと、辛川さんだった。
携帯に電話しても出ないからこちらにしたと
内容は、社内見学の正式な書類がほしいとのことだった。
智さんとのことにはなにもふれていなかった。
きっとあの時は彼女なりの予防線を張ったのだろう。
ガチャッ
「あら、いた」
いきなり部屋のドアが開いた。
「母さん。保育園は?」
まだ17時、終わるには早い時間だ。
「今日の報告しないから来たのよ。さて、西村さんと何があったわけ?」
きっと、私の目は真っ赤に腫れているのだろう。
「なんで、智さんってわかるわけ?」
母には智さんとのことはなにも言っていなかった。
「あなたたちが付き合っていたことは知っているわよ?西村さんがきちんと挨拶しに来たもの。」
えっ!!そんなこと知らない・・・
私の表情ですぐにわかったのか
「聞いていないだろうなとは思ってたわ。挨拶に来て翌日に別れたみたいだったから。だから母さんも何も言わなかった。でも、もうあれから10年よ?なのに、あなたはまだ彼のこと吹っ切れていない。別れを切り出したのはあなただってわかっていたけど。彼ね、あなたのことかなり本気だったわよ。このこと話さないほうがいいと思っていたけど話しておくわ。」
そういい母は話を続けた。
私は黙って聞いていた。
「あの日、挨拶しに来た日ね、西村さんあなたが短大を無事に卒業したらさらうって言っていたのよ?」
懐かしむように微笑む母
「すっごい驚いたけど、この人にならあなたをまかせられるそう思って、あなたが了解したらいいって言ったの。」
初めて知った当時の彼の想い。
「私・・・そんなこと知らなくて彼を傷つけた。今日、あの人私に謝ったの。私がいけなかったのに・・・」
再び、溢れてくる涙に私はどうしようもなくてただ泣いていた。
「彼ときちんと話をした?」
優しく頭を撫でてくれる母
私は首を振った。
「もしかしたら、また彼を傷つけてしまうかもしれないって思ったらいえなかった。それに、彼にはもう恋人がいる・・・」
ペシンッ頭をはたかれた。
「それは、あなたの考えよ。彼が言ったんじゃないんでしょう?きちんと真実を伝えないと彼はあなたのことをずっと気にかけることになるのよ?それに、自分の今の気持ちをちゃんといいなさい。じゃなきゃ、あなたが次に進めないわ。ちゃんとふられてきなさい!!」
母の喝をうけ私は彼の会社に向かった。
仕事中だろうと会社に向かって歩いた。
が、彼はいなかった。
目の前のホテルのレストランにいた。
彼は、スーツを着ていた。
隣には、ドレスを着た女性がもちろん辛川さんがいた。
私は、そっと彼らの後をつけた。
しかし、普通の装いの私は中に入れず、ロビーでうろうろする羽目になった。
どうしよう・・・これじゃ、まるでストーカー。
一旦家に帰って出直す?
一瞬そんなことが頭をよぎったが頭をふった。
そんなことしたら私きっと彼に離しかけたりしなくなる・・・
この勢いが大事なの。
よし、出てくるまで待ってよう!!
ドンッ
「ごめんなさい。」
いきなり、目の前に現れた男性。
急には止まれなくて私は彼の思いっきりぶつかってしまった。
「いえ、私もごめんなさい。」
・・・目の前にいる彼。
ここの宿泊客だろうか・・・
私と同じように普通の装い。
なんだかとても落ち着きがない気がする。
あっ、バッグの中身が・・
きっとぶつかった拍子にバッグの口が開いたのだろう。
「あの・・・「こんなところで何をしているのかしら先生?」
途中で、遮られた。
「あっ、桜華・・・怒ってる?怒っているよね・・・」
目の前で、仁王立ちしている女性
声の主は、辛川さんだった。
辛川さんの知り合い??
「・・・ちょっときてくれる?」
辛川さんがそういい、手をとったのはなぜか私だった。
「あの・・・」
何が起こっているかわからないが私は、化粧室に連れて行かれた。
「その上着脱いでくださる?」
いきなりの彼女の言葉
「はっ!?」
彼女はというと、上着と靴を脱ぎ、私に差し出した。
「いいから、コレを着て、履いてください。」
何事か把握できないほど、彼女はテキパキとこなしていく。
「あなたが、今日ワンピースでよかったわ。」
そういいながら、今度はメイク・・・
「おい、辛川!!」
ドアの外から利きなれた声がした。
「何よ、もう少し待ちなさいよ。」
ぶつぶついいながら、外に聞こえるように言った。
「いいのか?先生、しょげて帰っていったぞ?」
先生って、さっきの人?
「なんで、止めないのよ!?」
どうやら、メイクが終わったらしく今度は私が来ていた上着と靴を履く
「それ、外にいる人に渡して。これも渡しておくから。」
そういい、化粧室のドアを開ける
「鍵っ!!どうせ、児玉さんの車の鍵ぬいたんでしょう?」
辛川さんは、外にいた自分の上司・・・智さんに掴みかかった。
「ほらよ。ったく、けんかなんかして楽しいのかね。」
走っていった、彼女の後姿を見て呟いた。
「ごめんな、蘭。秘書に逃げられたから、仕事手伝ってくれない?隣で座っているだけでいいからさ。」
にっこりそういい手を差し出した。
仕事?
何かよくわからず、席に戻ると一組の夫婦がいた。
・・・あっ、接待か。
デートじゃなかったのか・・・
私は、智さんに恥をかかさないように話に入れるときは入り、そうでない時はニコニコと笑っていた。
「悪かったな。さっきの先生は、カンナの担任で、辛川の恋人なんだ。どうやら、ケンカをしていたみたいでな。」
と苦笑いの智さん
無事に食事会も終わり、私は智さんに車で家まで送ってもらうことにした。肝心なことは何もいえないまま・・・
「彼女のこと好きだったんですか?」
気が付いたら、口に出していた。
私は慌てて口をふさいだが、遅かった。
「辛川のことか?いや、あいつはいい友人だ。俺が、愛したのは今までに一人だけだな。」
きっと元奥さんのことだ。
そう思った。
「智さん、あの・・・」
私は、今言わないときっという機会がなくなってしますそう思い口を開いた。
「んっ?」
運転しているので、声だけで反応してくれる智さん。
私としては、好都合だったりする。
「・・私、智さんのこと好きです。いまさらって思うかもしれないけど・・・昼間、あなたは謝ったけど、本当に謝らないといけないのは私です。あの時の私は、あなたの気持ちでさえ信じられていなかった・・・だから、あなたが謝ることなんてないんです。今なら、あの時のあなたの気持ちがわかります。だから、お願い・・・次の恋を見つけるまで想うことだけはさせて・・・」
私は、下を向いたまま話した。
彼の顔が見れなかった。
困った彼の顔をみたくなかった。
しばらく沈黙が流れていた。
私は 涙が溢れてきていた。
ここで泣いたら彼が困るだけなのに・・・
キィー
いきなり車が停車した。
私は、びっくりして 顔をあげた。
車が停車した場所は、なぜか私の家ではなく智さんのマンションの下だった。
「蘭・・・」
彼に呼ばれ私は、顔を彼に向けた。
「一つ、俺からもお願いがあるんだ。」
聞きたくない。
そう思っているが、ここは聞かなきゃいけない。
進まなきゃいけない。
だから、私は彼から目を逸らさないで真っ直ぐに見た。
「次の恋なんか探さないでほしい。これからも俺だけを想っていてほしい。俺がこれからも蘭を想うように・・・」
言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。
「・・・」
我慢していた涙が、溢れてきた。
「泣かないで。昔から、蘭が泣いてしまうと俺はどうしていいのかわからなくなるんだ。」
智さんは、そっと壊れ物を扱うかのように私の頬に触れた。
「ごめんなさい。嬉しくて・・・私、智さんのこと想ってていいの?」
私は、さっきの言葉が信じられなくて 何度でも聞きたくなった。
「もちろんだよ。できれば、愛してくれたら嬉しいな。そして、俺と結婚してくれたらもっと嬉しいよ。」
そういい、優しく頬にキスをくれた智さん
「さて、君のお母さんに連絡しなきゃな。」
智さんの家に上がり、落ち着いたところで智さんが呟いた。
私のお母さん??
「今回の社内見学は、きっと君のお母さんが俺とのことをハッキリさせる為の作戦だよ。気が付かなかった??」
智さんの言葉に、怒りをあらわにする私
母は、この件をやけに私にやらせたかったのはこのせいか・・・
「俺としては、社内見学に賛成だし、蘭にも会えるって二つ返事したけどね。」
児玉先生。。。。ヘタレといかなんというかww